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「若者よ!農業で社長を目指せ」(視点・論点)

日本農業法人協会 会長 山田 敏之  

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みなさん、こんにちは。日本農業法人協会会長の山田敏之です。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の全面解除となり、少しではありますが生活が元に戻りつつあります。しかし完全に戻るのではなく新たな価値観が生まれ、変化に対する対応力が問われることになりました。食も国内生産力が見直され、さらに農業が変化します。この新たな環境下でチャンスが広がる農業で若い人たちの力を生かしてみないか、そうした話をしたいと思います。

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日本の農業人口は現在161万人。毎年10万人ずつ減少しており、このままの傾向が続けば、10年後には現在の3分の1、最悪54万人となるとされています。また高齢化も進み現在、65歳以上が63%を占めています。自給率も37%と低い状態です。
過去のことは、随時ベストの選択を行い今の現実があると考えますので敢えて触れません。しかし、アフターコロナの環境から見ますと、更に今 農業は凄くチャンスの時だとも言えます。

そのことを証明するように、新たに農業を始める50歳未満の農業者、新規就農者は増加傾向にあります。

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2010年には1,800人だった49歳以下の新規就農者は、2015年には10.1万人に増えているのです。推計で見ると2030年で35.1万人に及ぶ勢いです。
こうした若い農業者は、農業を経営として捉えて、農業法人を設立。インターネットを使った直接販売や、地域密着、土づくりや最新技術などデパートや高級スーパーでの販売、従来の農業の形から外れ、新たな形として生産と販売を行い、利益を上げています。
売り上げ規模も3億・5億と伸ばす新規就農者が増えてきています。農業法人の数も2005年からの14年で3倍近くにまでになりました。他の産業からの就農者だけでなく、企業も、今がチャンスと農業に参入するケースが増えてきています。

ただ、若い人の中にはいまでも、農業に拒否感を持つ人も少なくありません。実は私もその一人でした。

私は農家の次男に生まれましたので、農業を継ぐことなくアパレルの営業マンをしておりました。それが、家の事情で家業を継ぐことになり、農業を始めたのは1995年3月、33歳の時でした。
農作業の経験は小学校の時に少しだけ手伝った程度です。中学・高校の時、農業をする親を見ていて本当に大変そうで、農業だけはしたく無いと考えていました。農業を始めるにあたり、たくさんの人に相談しましたが、ほとんどの人が「若い者が農業をするものでは無い、定年退職してから家業を継いだほうが良い」というアドバイスでした。
ただ、サラリーマン時代の経験から、やり方を変えれば、農業は面白いと思ったのも事実です。私がまずやったのは、売り上げ目標に1億円を掲げたことです。家業としての農業ではなく、農業を経営という視点で考え、法人化を目指そうと思ったのです。
しかし、農業のことは全くの素人です。家の売り上げは、1年目400万円・2年目690万円と、大の大人が2人がかりでこの売上、本当に農業は大変だと実感しました。
当時の親父の農業は、旬のお野菜を作り、市場に卸すというごくシンプルな農業で、ほうれん草や、小松菜・水菜、米、九条ネギなど様々な農産物を作っていました。
私はこれでは売り上げは伸びない。売上1億円を達成するためには、手間がかかる沢山の野菜は辞めて、「京都ブランド野菜 九条ねぎ」一本でいこうと決意しました。農産物は1年に1回しかできない物が多く、良いものを作る経験値を上げる為には、数年がかかります。ところが九条ねぎは、一年に何回も収穫でき、生産能力も他の野菜よりも上げられる。またブランド野菜なので高価で販売されているからという理由からです。

この戦略は功を奏し、おかげで3年目は1600万を上げることが出来ました。幸運だったのはその後、全国で空前のラーメンブームが起こったことです。当時京都産九条ねぎは、ラーメン店としては使いたいが、流通量が少なく価格の上下が激しい、使い勝手が悪い食材でした。そこで私は、生産量を増やし、価格を安定させることに注力しました。
そして、東京のラーメン屋と直接取引することを考えました。足を運んだラーメン屋の店主からは「業者は来るが、農家は初めて」と気に入られ、さらにネギをカット加工して販売することで、ついに7年目で目標の1億円に達し、現在はパートも含めた従業員200名、目標売り上げ20億円を目指しています。

元々私は、営業をしていましたので、飛込営業は苦になりません。むしろ、私としては経験したことがないぐらい楽な営業で、それが驚きでした。というのも当時、直接営業をする農家は希で、安定的に九条ねぎを生産できる農家が少なかったのです。このため取引は面白いように拡大していきました。
天候が不順な中で安定的に農産物を生産する農家の仕事は大変ですが、一方で販売や加工という面から言えば、誰も手をつけていない大きな可能性のある未知の原野なのです。

私のように、農業で新しいことをやろう、もっと経営的な視点を取り入れようと集まったのが日本農業法人協会です。会員数は2057社、売り上げ規模は平均3億円という、全国各地のプロ農業経営者の集団です。私はいま、その法人協会の会長を務めています。
私たちは「農業が若者の将来就きたい職業の1位になる」を念頭に置き、①相違工夫と経営努力を積み重ね、絶えず経営を革新する。②地域の多様な農業者と連携し地域農業を活性化する。③食品産業と連携して食糧を安定供給する。こうしたことを目的として活動を行っております。そして今、大きくそして強く取り組んでいるのは、次の世代のプロ農業経営者の育成です。

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この写真は、今年の2月に福岡国際会議場で行った「次世代農業サミット」の集合写真です。全国から200人の若手農業経営者が集まりました。
 サミットでは若手農業者をいくつかのグループに分け、売り上げ規模や、品目・地域・売り上げ目標など様々なテーマでディスカッションを行います。
勿論テーマについて勉強をすることが大事なのですが、一番の目的は他府県の優秀な経営者の友人作りが目的です。地域の中ではなかなか本音の会話が難しく、問題を一人で抱えるケースが多いのが農業の悪いところです。しかし他の場所でなら、地元の周りの視線を気にせず自身の問題も話せたりします。
また、地域によって抱える問題も違うため、中央の政策の情報が十分入ってきません。このため、全国の仲間・友人を作り、情報交換や知識の共有が極めて大事になります。
そして半年ごとにサミットを繰り返すことで、経営能力の競争や互いが成長できる、切磋琢磨の場となっています。

私が農業を始めた20年前から、農業を取り巻く環境は大きく変わりました。さらに、今回新型コロナウイルスの感染拡大で、国内で農産物を生産する大切さが、改めて浮き彫りになっています。
国内の生産量や農家は年々減少しています。でも、国や企業・消費者がその動きに歯止めをかけようと、こぞって農業や農業者を応援しています。土地の確保や金融支援、それに参考になるビジネスモデル。そして国からの応援・企業とのコラボ等々、農業を始める人たちにとって、かなり恵まれた環境になってきています。
是非、未来の日本の食を守るためにも、若い方々がこの環境を生かし、私たちと一緒になって日本の農業を引っ張っていただきたいと考えています。よろしくお願いいたします。

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