NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「テレワーク社会の展望と課題」(視点・論点)

東北芸術工科大学 教授 松村 茂

s200518_010.jpg

 新型コロナウィルスの感染拡大により、ステイホームが求められる今、テレワークによる在宅での勤務が広く期待されています。
今回急遽テレワークをすることにしたという企業も多いと思います。今日は、テレワークという働き方が定着した時の社会について、その展望と課題を考えてみたいと思います。

s200518_015.jpg

 テレワークは、一億総活躍社会や働き方改革のなかで、女性や高齢者や障害者の就業機会を創出するツールとして、また、ワーク・ライフ・バランス改善のツールとしても位置づけられてきました。
しかしテレワークには、これ以外にも多様な効果があります。その一つが、今回のパンデミックや、震災などの有事の際に、企業やワーカーの安全な事業継続を確保するツールとしての側面です。
このようにテレワークは、社会、企業経営、ワーカーそれぞれにとって、多様な効果が期待できます。

 政府の統計では、これまでに約20%の企業がテレワークを導入しています。今回、初めて導入を進めている企業が多いことが伺えます。
企業がテレワークを導入するには、社内制度とICT・情報通信技術の整備が不可欠です。テレワークを実現するICTは大企業の場合、自前で構築することもできますが、従業員の少ない中小企業では、ワーカー一人当たりの保有コストが高くなりますから、IT企業が提供するクラウドサービスを利用する方法が安価で簡便です。

s200518_016.jpg

 このグラフは、資本金別のクラウドサービスの利用状況を示したものです。資本金の規模と利用率が比例していて、むしろ中小企業で進んでいないことがわかります。つまり、中小企業ではテレワークができる状況にないことが考えられます。
したがって、テレワーク社会を作るには、9割以上を占める中小企業へのICT整備が不可欠です。
そのために、中小企業へのコンサルティングが必要で、テレワークのエキスパートを派遣する仕組みが求められています。

実際、このパンデミックで、テレワークを初めて実施した上司・マネージャーからは、戸惑いの声が聞こえます。

 テレワークを上手く使うには、テレワークの2つ働き方を知っておく必要があります。

 1つは同期型テレワークです。いままでのオフィスでの仕事と同じように、同僚たちと同じ時間を、同じ場所にいるかのように働く働き方です。
みなweb会議システムで顔を見ながら時間を共有し、打ち合わせをしたり、相談したりしながら働きます。今後のICTの進歩とともに臨場感はますます高まっていて、将来はテレワークであることを意識せずに、働くことのできる働き方です。
現状では、社会全体で常時動画を送り続けることは、今の技術レベルではまだ難しいところです。

 もう一つの働き方が非同期型です。個々のワーカーは好きな時間に働きます。企画書や報告書をまとめる作業に適しています。
この働き方であれば、朝早くから仕事を始め、昼までに仕事を終えてしまうような働き方も可能です。午後は自分の時間として読書に充てたり、運動したり、英会話スクールに通うなど、自己研鑽の時間として使うこともできます。

実際のテレワークでは1日のなかで、この同期型テレワークと非同期型テレワークを併用し、家事や子育てなどの時間と組み合わせて、働くのが一般的です。

 非同期型テレワークを成功させるには、上司が成果をチェックできるレベルまで仕事全体を分解し、細分化することが必要です。細分化できれば、上司は作業の結果だけを確認すればよく、途中の作業、仕事のやり方は、信頼し任せます。
 その細分化されたプロセスをスケジュール表に入れ、チーム・組織でオンライン共有すれば、マネジメントはさらに楽になります。
非同期型テレワークを上手く動かすポイントは、細分化と信頼です。
パンデミックの今、テレワークを新たに始めるには、この細分化を行った上で、表計算のファイルや文書ファイルをクラウド化し、web会議の導入から始めればよいでしょう。

 ワーカーからは、在宅勤務は、家族がいて、集中できる時間が限られる、また孤独を感じるなどの声があります。
ただテレワークは、自宅だけが働く場所ではありません。

テレワークで働く場所は大きく4つに分類できます。

s200518_017.jpg

1つは、顔と顔を合わせて働くコトのできる、リアルなオフィス、いままでの企業オフィスです。同僚と濃密な情報交換ができます。
2つ目は自宅です。介護する実家や別荘、旅行中のホテルの1室も該当します。他者が入らないプライベートな場所です。家事などをこなしながら、仕事に集中できます。パンデミックの現在、人と会わずに仕事ができると推奨されているわけです。
3つ目は、移動中の空間です、新幹線の車内や空港の待合室、喫茶店などです。街でよく見かける光景になりました。
4つ目が、最近人気のサテライトオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペースなどの、他の企業のワーカーやフリーランスの人たちと一緒に働く、いわばパブリックワークプレイスです。パブリックワークプレイスでは、他のワーカーと情報交換ができ、また適度な緊張感もあって快適で刺激的です。テレワークを普及させるには、オフィスと自宅だけではなく、このパブリックワークプレイスを整備することが必要であると考えています。

 さて、最後にこのコロナ危機を経て、今後のテレワーク社会がどうなっていくかを考えてみたいと思います。

 テレワークが普通の働き方になると、どのようなことが起こるのでしょうか。ワーカーはワーク・ライフ・バランスを改善しようし、ワーカー自身の人生の目標を実現しようとするでしょう。
ふるさとに戻っても今の仕事を続けたい。車いす生活でも仕事をしたい。
高齢になり短時間だけ働きたい。副業したい。もう一度大学で、働きながら学び直したい。
テレワークは、こうした思いを実現します。欲張りのようですが、両立を可能にします。
企業は、これらを、ワーカーの多様性、すなわちダイバーシティと捉えるべきでしょう。
 日本企業もグローバル化が進み、各国にオフィスがあり従業員がいます。
今、国ごとの人事制度を一本化する動きがあります。テレワークは、国籍、居住地、性別、年齢、障害を問いません。テレワークはワーカーのダイバーシティを認めます。

企業にとってはどうでしょう。
企業にとっては生産性の向上、イノベーションをもたらし、新規事業を創出します。
パブリックワークプレイスで、同僚たちとは異なるバックグランドを持った人と接触できます。新たな気づき、ひらめき、アイディアを得ることができます。
はやりのオープンイノベーションにつなげることができます。停滞していると言われる日本経済を切り開くでしょう。

また地方にパブリックワークプレイスを整備すれば、個人事業主や老舗経営者、移住者など、意欲ある優秀な人材が集まり、交流の中で地方に眠る技術が活かされ、新しいビジネスが起こるでしょう。

 テレワークは、4つのワークプレイスを使い分ける、つまり目的に応じて働く環境を変えていくためのものです。
そしてテレワーク社会はワーカーの自己実現が実現し、企業と地方にイノベーションをもたらすのです。

キーワード

関連記事