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「外出自粛の中で高齢者が気をつけたいこと」(視点・論点) 

東京大学 教授 秋下 雅弘 

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 新型コロナウイルス感染のまん延により、高齢者も含めて外出の自粛が要請されています。高齢者は持病のある方も多く、感染すれば重症化のリスクが高いことは事実だと思います。ニュースをよくご覧になるので、若者よりも情報をよくご存じですよね。そのために、最低限の外出さえ控えるという方もいらっしゃいます。外出して運悪く感染したら命に関わるわけですから、家にこもってウイルスを避けたいという気持ちはよくわかります。しかし、閉じこもりには「生活不活発」という弊害もあることに注意いただきたいと思います。

動かないで生活が不活発になると、体や頭の働きが低下してきます。例えば、2週間使わないと下半身の筋力は2割以上低下するとされます。また、東日本大震災後の仮設住宅の調査では、外出や散歩をしない人はする人よりも認知機能が低下しやすかったという報告もあります。体を動かさないことによる脳への悪影響に加えて、人と会話をしないことが脳を衰えさせるのです。

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さらに、生活不活発は、容易に悪循環に陥ります。体力や認知機能が低下すると、何かをしようという意欲も低下します。料理をするのが億くうになり、そもそもスーパーまで買い物に行く意欲も体力もないので、あり合わせで済ませるようになります。お握りや菓子パン、カップ麺ばかり食べているという方もいらっしゃいます。体を動かさないのでお腹も空きません。十分な栄養を摂らないと低栄養になり、さらに筋肉が衰える悪循環が形成され、生活に必要な動作が行いにくい、フレイルと呼ばれる虚弱状態になるのです。フレイルというのは心身の健康状態が低下した要介護の一歩手前の状態です。何も手を打たないと、元々フレイルの方は要介護に、要介護の方はさらに重い要介護状態になっていきます。フレイルでは感染症に対する抵抗力も弱くなることが知られています。

では、どうすれば生活不活発によるフレイルを防げるのでしょうか?
まず、フレイルのサインを見逃さないことです。自粛生活も長くなってきましたので、チェックしてみましょう。

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・体重を測りましょう。食べてばかりいるので太ったという方は、元気な証拠です。以前の体重より減っていたら要注意。2 kg以上減っていたら危険なサインです。
・新しいペットボトルの蓋を開けるのに苦労するようだと、握力、つまり筋力が落ちているかもしれません。
・片側2車線くらいの広い道路の横断歩道を青信号のうちに渡り切れないと、歩く速度が落ちている可能性があります。
・そして、自粛生活の前より疲れやすくなっていませんでしょうか?そうだとしたら、体力や気力が低下しているかもしれません。
このような症状に当てはまる方はもちろん、まだ大丈夫という方も、長期化する自粛生活の中でフレイルにならないよう、これからお話しする4つの点に気を付けてください。

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まず運動です。
座っている時間をなるべく減らしましょう。その分、立ったり歩いたりする時間を増やしてください。テレビ番組の合間にも足踏みするなど体を動かしましょう。
足腰の筋肉を維持するために、スクワットやイスからの立ち上がりなど筋肉に負荷のかかるレジスタンス運動が必要です。
屋外にも出て、散歩くらいの運動は心掛けましょう。開放された場所で体を動かすことは心の健康維持にも役立ちます。ただし、人混みは避け、ウォーキングは周囲の人と距離を取って行いましょう。

次に栄養です。
こんな時こそ、バランス良くしっかり食べましょう。
何よりも3食欠かさず食べること、そして多様な食材を用いた食事を意識してください。栄養バランスを考え、筋肉の材料となるタンパク質を十分に摂ること。ビタミン、ミネラルの不足にも注意してください。栄養は免疫力の維持にも役立ちます。

お口の健康も大切です。
毎食後、そして寝る前に歯を磨きましょう。入れ歯の手入れも忘れずに行いましょう。口の中を清潔に保つことは、肺炎などの感染症予防にも有効です。
口周りの筋肉を保ちましょう。そのためには、しっかり噛んで食べることです。噛める人は少し歯ごたえのある食材も使いましょう。
自粛生活で人と話す機会が減り、口周りや喉の力が衰えることもあります。電話も活用して、意識的に会話を増やしましょう。好きな曲をかけて歌うのもお勧めです。

最後に、社会的ネットワークです。
孤立してうつ状態にならないためにも、人との交流はとても重要です。外出しにくい今の状況こそ、家族や友人がお互いに支え合い、意識して交流しましょう。電話やSNSなども活用して、定期的に連絡を取るようにしませんか。また、コロナ感染症に関する正しい情報の共有も、トラブルや不安の解消につながります。
生活の支援や困ったときの支え合いも大切です。買い物、病院への移動などで困った際に、助けを呼べる相手はいらっしゃるでしょうか。お困りの方は自治会の役員や自治体の福祉担当にも相談してください。

さて、緊急事態宣言が延長され、今後も外出を自粛する生活が続くことになります。さらに、感染拡大の長期化が予想される中、どのような生活をしていくべきなのか。専門家会議は「新しい生活様式」を提言していますが、高齢者では高齢者の特徴に基づいて考えなければいけません。

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外出の自粛には、誰にでも“益と害”がありますが、高齢者ではどちらも重くなります。特に、長期化すればするほどフレイルは切実な問題となります。また、介護福祉サービスの中断による認知症や要介護状態の進行も深刻になりつつあります。さらに、医療機関の受診を控えることで、持病が悪化する、あるいは新たな病気の発見や治療が遅れるという事態も起きています。感染を恐れるあまり、必要な外出も控えて別の病気になったのでは本末転倒です。“益と害”のバランスの取れた「新しい生活様式」を構築してください。
そして、感染の不安に負けないでください。手洗い、マスク、人との距離といった感染対策の基本を守れば感染リスクは最小限にできます。社会で暮らしている限り、感染リスクをゼロにすることは不可能でしょう。しかし、感染以外にも、我々は常に様々な健康リスクを抱えながら生きているのです。
生活も大きく変化したと思います。その中で、これまでの習慣をできるだけ維持することが大切です。先ほどお話した点に気を付けて、家族や周囲の方と一緒に是非工夫してみてください。
正しい理解に基づいて、自分にできることをする。それが不安を克服し、感染症が存在する社会で健康長寿を達成するための道と言えるでしょう。

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