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「今、学校現場に求められること」(視点・論点)

京都大学 特任教授 小松 郁夫 

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 全国の地域や学校によって、事情は異なるでしょうが、新型コロナウイルス感染症の問題で、「当たり前ではない」、異常な日々が長く続いています。
 私は、これまで「学校とは何か」「学校は子どもや社会にとってどのようなところなのか」という、学校のあり方や学校づくりの調査や研究を仕事としてきました。しかし、諸外国の学校との比較研究を含めて、今回のような異常事態を初めて経験し、改めて、学校について、基本から考え直さざるを得ない状況を目にしています。 
まだ当分、休校は続きそうですが、そうした苦境の中でも、憲法第26条に規定する「国民の教育を受ける権利」を保障し、教育基本法第1条に定める「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を」期するという、教育の目的を達成するために、学校は何を考え、どのように使命を果たしていくべきなのかを考えてみたいと思います。

1.一人ひとりの子どもの状況を丁寧に把握する
最初に求められるのは、一人ひとりの子どもの状況を丁寧に把握することです。たとえば、授業の再開までに、子どもと保護者に対して、日記や行動記録などを書いて、生活の記録を残すことを提案したらどうでしょうか。再開後には、そうしたデータも活用しながら、一人ひとりの子どもの休業期間の状況を丁寧に把握するように工夫して欲しいと思います。
 おそらく、子どもとご家庭の状況によって、かなりの個人差が生じている可能性が予想されます。何を学び、何を考え、どのように生活をしたかなどを子ども自身が受け止め、その経験を再開後の学校生活で、しっかりと振り返ることが重要だと思います。さらに、その個別な体験を友達と共有しながら、集団での学習に生かしていくのはどうでしょうか。

2.学校全体での取り組み
学校全体での取り組みについて、考えてみたいと思います。学校は、教職員が集団で教育に従事する場所です。教職員が、ワン・チームで、協働しながら、組織的に新しい状況に取り組むことが重要です。
また、子ども自身は、学校という環境の中で、同年齢や異年齢の仲間と学校生活を送り、活動する場であることを再確認することも、大切な学びだと思います。
最近は、地域や保護者などとの協働の意義や重要性が指摘されています。コミュニティ・スクールという、学校と地域の協働による新しい学校づくりです。今回のような異常事態だからこそ、全ての大人が、切れ間のない形で子育てを保障し、国民の教育を受ける権利、学習権を保障するシステムを確立したいと願っています。

3.教育課程全体を組みなおす
長い間の休校で、明らかに授業日数や授業時数が不足しています。今年度の教育課程全体の大幅な組みなおしが求められます。学習の量的見直しと同時に質的工夫を検討することが課題です。既に、土曜日の活用や夏休みの短縮などが指摘されています。さらには、運動会や修学旅行の中止など、大切な学校行事までが無くなろうとしています。全国的な大会の中止も発表され、活躍を目指して頑張ってきた生徒たちには、落胆の声や目標を失った無力感が生まれていると聞きます。
教育課程には、子どもたちに学ぶ喜びや楽しい、充実した時間がさまざまにあったはずです。教育課程全体を見直す時には、それぞれの授業内容や活動の意義などを再確認しながら、量的精選と質的改善を工夫して欲しいと思います。
学校と地域によって、情報機器などを活用した学習に格差が生じてきております。具体的な工夫をアドバイスしながら、学校での学びと家庭学習を結び付けた新しい学びを工夫して欲しいと期待します。

4.「教師と子ども」、「子ども同士(同学年と異学年)」の関係の構築
授業だけでなく、「教師と子ども」、「子ども同士」の関係づくりが大切です。学校の特長は、さまざまな人々との関係性の中での学びにあります。多様な個性を持った子どもが集まり、いろいろな魅力を持った教職員が学校にいて、多様な関係づくりを担ってきました。学年や学級などで、子ども同士の豊かなつながりができるように工夫してきました。
今、その役割を果たせないという機能不全に陥り、獲得が困難となっている、大切な学びがあります。再開したら、教師と子どもの関係、子ども同士の関係の構築をしっかりと確保して、生身の人間同士の関わりを、改めて大切にしていきたいものです。

5.差別や偏見、いじめを許さない
 差別や偏見、いじめを許さない、という学校づくりも重要です。私は、学会の仲間と一緒に、東日本大震災での学校の危機対応を調査して、報告書にまとめるという経験をしました。また、別の仲間とは、福島の原発事故で、全国各地への避難を余儀なくされた、子どもやご家庭のご苦労話などを聞きました。その中で、放射能という目に見えないものへの恐怖からか、差別や偏見に悩まされ、いじめを受けたという事例を知りました。
今回の感染症の問題でも、新型コロナウイルスという目に見えない、極微小の未知のものに対する恐怖からなのか、差別や偏見、いじめの問題が起きているという報道もあります。しかし、学校は真理を探究し、科学的な知識を身に付ける大切な場所でもあります。過去の歴史などに学びながら、差別や偏見、いじめを予防し、問題の発生を感知できたら、組織的に早期対応を心がけることが、特に望まれます。再開後の学校では、子ども自身の中に、いじめなどを許さない共通理解を深める指導をしっかりと進めることが期待されます。

6.新しい時代の学校づくりを目指そう
今、改めて、黒板とチョーク、教科書を使った伝統的な授業スタイルが問い直されています。この機会に、新しい時代の新しい学校づくりに挑戦するのはどうでしょうか。
全国各地で、情報機器などを活用する新しい学習スタイルへの挑戦が始まっています。4月から新学習指導要領の下での学びが、小学校から本格的にスタートすることとなっています。「主体的・対話的で深い学び」という目標の実現は、新しい姿の学校で再構築することはどうでしょうか。
長期間の休校で、十分な学習が保障できていない心配があります。そうした状況もあって、今、急速に学校制度を抜本的に見直しすべきであるという議論が出てきました。
特に9月入学制度の議論は重要です。
私はこの議論に賛同します。日本の学校制度のグローバル化への対応という観点でも意義があるでしょう。
 学校づくりを研究してきた立場からすると、私は、教職員の異動を7月中に済ませて、8月の夏休み期間中に、新しいスタッフ、校長のリーダーシップの下で、新年度の学校づくり、学校経営計画の策定などをすることが重要だと考えてきました。この大きな社会改革を実現するには、今が非常に良い機会だと思います。重要で深刻な課題が、少なからず存在することは容易に想像できますが、新しい社会を創造し、新しい価値を獲得するために、一歩前に進む勇気も大切ではないかと思います。

7.まとめ
 今、世界中で、地球の隅々で、多くの人がこの苦境に対して、多方面で活躍をし、不安と恐怖の中でも、命がけで生活をし、頑張っています。あらゆる世代の人間が、この状況から何かを学び、何かを感じ、創造性を発揮しながら、生きていると思います。
学びはこうした中にも無数にあることを忘れずに、学校が新しい舞台となるであろうことを夢見て、今日と明日、未来に期待をして生きていきたいものであり、それを子どもたちにもしっかりと伝えていきたいと願っております。

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