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「再審のルールづくりを」(視点・論点)

再審法改正をめざす市民の会 共同代表 周防 正行

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 皆さんは「再審」という言葉を知っていますか?
日本の裁判制度は、三審制ですが、最終的に確定した有罪判決に疑いが生じたとき、裁判のやり直しをするのが「再審」という制度です。誤って有罪となってしまった人を救済するための最後の手段です。
最近のことですが、湖東記念病院事件の「再審」で無罪が言い渡されたという報道を目にした方もいらっしゃると思います。

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2003年に起きた事件で犯人とされた西山美香さんは2005年に大津地裁で有罪となり、2007年に最高裁で懲役12年の有罪判決が確定しました。服役中の2010年、再審を申し立てますが翌年棄却されます。2012年に二回目の再審請求をすると、2017年、高裁が「再審」つまり「裁判のやり直し」を決定しました。検察が不服を申し立てましたが、2019年3月、最高裁もようやく「再審」を認め、大津地裁はその「やり直し裁判」で2020年3月31日に「無罪」を言い渡し、「無罪」が確定しました。
有罪が確定してから13年の歳月を経て、ようやく無罪となったのです。他の再審事件では、もっと長い年月がかかったものがたくさんあります。
無実の人を救済するのに、これほどの長い時間がかかってしまうのはなぜでしょうか。それは、わが国の「再審」の仕組みについて定めた法律に問題があるからなのです。
 
 「再審」は、まず「再審請求」から始まります。確定した有罪判決に「疑い」があるから、裁判のやり直しをしてほしいと裁判所に申し立てることから始まります。ところが、この再審を申し立てたあとの法律が殆どないのです。ですから全ての進行が裁判所に任されることになり、担当した裁判官によって対応が違ってきます。この再審についての法律を改正しなければ、公平で公正な裁判はできません。ここではすぐに取り掛かるべき法律改正の提案を二つしたいと思います。

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 一つは、証拠開示、つまり検察官が持っている証拠を全て明らかにする法律。
 二つ目は、裁判所の再審開始決定に対する検察官の不服申し立てを禁じる法律です。

 それではまず、再審における証拠開示についてお話します。
多くの再審事件では、もともとの裁判では明らかにされていなかった証拠、つまり検察によって隠されていた証拠が再審請求審で初めて明らかになって、「やり直しの裁判」つまり「再審」が認められ、無罪となった事件がたくさんあります。
例えば布川事件、東京電力女性社員殺害事件、松橋事件などです。
実は、確定判決に疑いが生じることを示す「新証拠」の多くが、もともとの裁判で、検察官が弁護士や裁判官に対して明らかにしていなかった「古い証拠」の中にあるのです。だから「古い証拠」の全てを明らかにする必要があります。
現在では裁判員裁判のために設計された「公判前整理手続」によって、最初の裁判では、以前よりたくさんの証拠が見られるようになりました。
ところが、今、再審を争っている事件のほとんどは「公判前整理手続」を経ていない、つまり証拠開示が不十分であった時代のものですから、公正な裁判のやり直しのためには、全ての証拠が明らかにされなければなりません。
しかし、いくら弁護団が証拠を出すように検察官に求めても、再審での証拠開示のルールが無いので、検察官に開示義務はなく、担当した裁判官の判断次第になります。再審請求審には期限がありませんから、いつまでも対応しない裁判官もいます。そもそもの法律がないので、法律違反にはなりません。運良く、積極的に再審に取り組む裁判官に当たれば、検察官に証拠開示を促すなりして、証拠が出てくるケースがあります。それが再審の決め手になった事件はたくさんあります。
私は、2011年から3年間、法制審議会の特別部会の委員を務めました。その時も再審についての法律改正について議論がありました。実は口火を切ったのは現役の裁判官でした。東京電力女性社員殺害事件で再審開始を決定し、無罪判決を言い渡した裁判官です。
 その時の意見は、「公判前整理が始まって、それ以前より圧倒的に証拠を見ることができるようになった。証拠の量、質、内容が格段に違う。したがってそれ以前の事件の再審請求審で、証拠開示についてある一定の統一的なルールを設ける検討をすべきだ」というものでした。
つまり今ほど最初の裁判で証拠が明らかにされていなかったのだから、再審請求審では証拠開示を積極的にすべきだというのです。もちろん私も賛同しました。ところが、それを否定する意見を述べたのも同じ東京高等裁判所の裁判官でした。
その反論は「再審請求事件は、事案の内容、性質、申立の理由、証拠構造など千差万別なので、証拠開示について何か一般的なルールを見出そうとしても、非常に困難な作業になる」だから無理だ、というものでした。
 しかし、それは詭弁(きべん)に過ぎません。そもそも事件が起き、捜査、被疑者の逮捕、起訴、そして裁判になるという流れを考えれば、そもそもの最初の裁判だって、事案の内容、性質、証拠構造は千差万別です。それでも、法律に則って行われているのですから、再審だけが千差万別で一般的なルールが見出せないというのは、理由になりません。一つ一つの事件は再審で初めて多様になるわけではなく、最初から多様なのです。
二つ目は、検察官の不服申し立ての禁止についてお話します。
再審は無実の人を救うための制度にも関わらず、検察官の不服申立てによって長い年月がかかり、その救済が遅れている現状があります。
例えば、名張事件は47年、袴田事件は39年、大崎事件は25年、日野町事件は19年にわたって再審請求が続いています。いずれも少なくとも1度は再審開始決定が出ていますが、度重なる検察官の不服申立によって長引いているのです。名張事件、日野町事件の元被告人は、「再審」の機会を得られないまま亡くなりました。大崎事件は、一度目の再審請求審で鹿児島地裁が再審開始決定を出したにも関わらず、検察官抗告で取り消されました。その後、三度目の再審請求審で地裁、高裁と続けて再審開始決定が出ました。ところが検察官が不服を申し立て最高裁に特別抗告をすると、昨年6月、最高裁は「再審開始」を取り消し、再審請求を棄却しました。元被告人の原口アヤ子さんは92歳という高齢です。
ドイツでは、検察官の不服申立てが1964年に禁止されました。日本でも、検察官の不服申立てを禁止すべきです。再審開始決定が出たら、裁判のやり直しをすぐに始める。検察官は不服があれば、そのやり直しの裁判で改めて有罪を主張して争えばいいのです。
それでこそ無実の人をいち早く救済できます。
再審請求審は、一般の裁判と違って公開の法廷では行われません。本来、裁判は公開が原則ですから、再審開始決定がでたら、検察官の不服申立てを受けて非公開で争うのではなく、すぐに「やり直しの裁判」を開始すべきです。それが本来あるべき裁判の姿なのです。

再審における証拠開示のルール、そして検察官の不服申立禁止以外にも、再審請求を申し立てたあとの進行について、法律を改正する必要があるのは言うまでもありません。しかし、一刻も早く実現しなければならないのは、無実の罪でその自由を奪われた人、死刑事件においては死刑執行が行われる前に救済しなければならない人たちです。それにはまず、今日お話した二つのことを早急に成し遂げるべきだと思います。

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