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「新型コロナウイルスに関する医療の現状と課題」(視点・論点)

国立国際医療研究センター 国際感染症センター長 大曲 貴夫 

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新型コロナウイルス感染症は、2019年12月に中国の武漢市で初めて患者が報告されました。その後、新型のコロナウイルスが病原体であることが確認されました。中国を中心に多くの患者が出ており、それは日本でも同様です。本日は、この新型コロナウイルス感染症に関して日本の医療機関がどう対応しているか、そしてその課題は何かについてお話しします。

まず新型コロナウイルス感染症がどのような病気かをお話しします。新型コロナウイルス感染症は一般的な感冒つまり風邪やインフルエンザとは様子が異なっています。最大の特徴は、軽い風邪の症状が1週間程度続いた後よくなってしまうというものです。しかし一部の方はその後咳や高熱が出始め、肺炎を起こします。肺炎の方も大部分は様子を見ていれば治るのですが、一部の方は重症となります。

具体的に例を挙げます。

1人目の患者さんは、50代の男性です。咽頭痛と鼻汁のために病院にきました。二日後に念のため入院しましたが、その日から三八度を超える高い熱が出ています。翌日に新型コロナウイルス感染症陽性と診断されました。胸部のレントゲン写真およびCT検査を行うも、肺炎はありませんでした。この方は自然によくなりました。

2人目の方は、40代の男性です。数日の体調不良の後、38℃の発熱と軽微な咳があったため、入院になりました。その翌日に新型コロナウイルス感染症陽性と判明しました。胸部CT検査を行ったところ、非常に小さな影がありましたので肺炎と診断しました。特に酸素を使うこともなく、症状は1週間ほどでよくなりました。

しかし中には、肺炎の程度が強く、酸素の投与が必要となる方もおられます。また一部では、肺炎がひどくなり人工呼吸が必要になる方もおられます。

このように新型コロナウイルス感染症は軽いものから重いものまで様々です。WHOからは軽いものが八割であると発表されています。

新型コロナウイルス感染症の治療法はまだ確立されていません。現在、中国等ではウイルスに対するお薬を使った研究が始まっています。今後日本でも同様に研究が始まる予定です。

新型コロナウイルス感染症が疑われる場合の医療機関への受診方法をご説明します。

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まず現在、新型コロナウイルスに関する帰国者接触者相談センターが各都道府県に設置されています。心配されている方は、この相談センターに電話をすることで、医療機関への受診が必要があるのかどうかを相談することができます。この相談センターの方で判断して専門的な医療を受けた方が良いと思われる場合に関しては各都道府県が設置している帰国者接触者外来に紹介してもらうことができます。病院に受診した結果、新型コロナウイルスの感染症と診断した方々については入院が必要になります。入院をする場合には感染症法で定められた医療機関に入院をしていただきます。そして治療受けながら、人に感染させる可能性がなくなると言う所まで観察が行われます。

現在日本全国を見渡しますと、新型コロナウイルス感染症の患者さんが散発的に発生しています。これはおそらく1月の春節の時期に中国から多くのお客さん方が来られ、そのお客さん方の中に新型コロナウイルス感染症の方がおられ、そのお客さんから二次感染を起こったものが、今分かってきているのだと思われています。また、そのようにして国内で感染した方から、更に次の方に感染させる、ということも起こり始めています。

ただ一部の地域では状況が違います。関東圏では状況が違います。このように1月以降春節に関連して持ち込まれて発生した新型コロナウイルス感染症の方だけでなく、現在横浜港に停泊しているクルーズ船の中で起こったアウトブレークの結果感染した方も受け入れています。この結果、関東の感染症指定医療機関には負荷がかかっています。

それでは今必要なことは何かこれを考えていきたいと思います。

現在起こっている新型コロナウイルス感染症は、1人の感染症の方が、人がたくさん集まり、なおかつお互いに十分に距離を取れないような環境に出かけていかれる場合にいちどに多くの方々に感染をうつしてしまい、それによって多くの患者さんが同時に発生することが問題であると考えられています。これが主な感染症の広がりの型式と考えられています。つまり感染症がどんどん広がると言う場というのは限定されているのです。よってこのような1人の患者さんから多くの患者さんに感染症がうつるような場を作らないよう、努力せねばなりません。

もう一つ大事な事は、今の状況で大切なのは感染している方の中で非常に重い状態の方を救うと言うことです。重い状態の方を救うには多大なマンパワーと資源が必要です。これは医療が安定していないとできません。よって医療機関に無用な負荷をかけないような配慮と言うものが必要になって参ります。

では具体的に行える事は何でしょうか。行政の方々や、我々医療者はこの状況を切り抜けるために最善を尽くしていますが、医療を安定的に継続していくためには、医療者だけではなく社会のそして一般の方々のお手伝いが必要です。

第一には、微熱がある、あるいは喉や鼻や咳の症状があって風邪をひいているようなときには職場に行かない、そして学校に行かないなど、しっかりと休養をとることです。新型コロナウイルス感染症はこのように軽い症状の時にでも人にうつることがわかっています。自分の体調を早めに整え、なおかつ人にうつして流行を広げないためにも、風邪をひいたときには必ず休むようにしてください。

2番目に大事な事は、この時期には急いで行う必要のない集まりは延期をすることです。この感染症はお互いに距離を取れずにいるような状況に人がたくさんいる場合に1人から多くの患者さん多くの方に感染症を移すことがわかっています。このように同時に患者さんが発生するとその地域の医療機関には大変な負荷がかかります。これを防ぐためには今急いで行う必要のない集まり宴会等は延期するということが重要です。特に少なくともこの数週間このような対応することが極めて重要です。

3番目に大切なことは、慌てて医療機関に直接かけこまないことと言うことです。新型コロナウイルス感染症が心配な気持ちは大変よくわかります。しかしそれで皆さん方が医療機関に大量に押し掛ければ医療機関の機能は破綻します。結果として皆さん方に適切な医療提供できなくなるだけでなく、新型コロナウイルスの患者さん、重症の患者さんを救えなくなります。最初にも申し上げたようにまず体調不良のときにはしっかりとお休みをとって下さい。普通の風邪であれば症状が最もきついのは3日目か4日目で、それ以降少しずつよくなっていきます。それを越えても、つまり4日たっても5日たっても熱が下がらない、あるいは風邪が良くなってこない場合には、専門的な医療が必要だと思われますので、その時には相談センターに相談をしていただいた上で医療機関を受診されることをお勧めいたします。これにより皆さんは適切なタイミングで病院に行くことができますし、病院も落ち着いて対応出来ます。

新型コロナウイルス感染症の日本国内での蔓延を防ぐためには、これから数週間の対策が極めて重要です。もちろん行政の担当者医療機関の担当者それに対して最善を尽くしています。一方でこの対策を成功させるには一般の方々の協力が不可欠です。これなしにはコントロールはできません。具体的にお願いしたいのは先ほど申し上げた3つのことです。くれぐれもご協力をいただければと思っています。よろしくお願いいたします。

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