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「温暖化への処方箋 ~オーストラリア乾燥地帯での試み~」(視点・論点)

東京工科大学 教授 江頭 靖幸 

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こんにちは。
私は温暖化問題の解決策の一つとして、オーストラリアの乾燥地での植林による二酸化炭素の固定、つまり大気中の二酸化炭素を光合成によって取り除き、樹木という形で貯蔵する研究しています。きょうはオーストラリアでの20年以上にわたる研究から見えてきた成果や今後の課題などについてお話ししたいと思います。

昨年から今年にかけてのシーズン、オーストラリアで大きな森林火災が起こっていたことは皆さんもご存じかと思います。オーストラリアでは以前から森林火災は起こっていますが、今回は今まで起こらなかった場所で森林火災が起こっていることが問題です。これは温暖化の影響ではないかと言われています。
温暖化の原因となる大気中の二酸化炭素ですが、植物は光合成でこの二酸化炭素を吸収して成長します。ですから、植物の体は大気中の二酸化炭素からできている、つまり植物の体に二酸化炭素が固定されている、と言える訳です。でも、同じ植物でも春に芽吹いて秋には枯れてしまうような草では、枯れた後にすぐに分解して、再び二酸化炭素が大気中に戻ってきてしまいます。温暖化問題の解決策としてみると、二酸化炭素から出来た植物の体が何年も何十年も保たれるものが望ましい。ですから、毎年枯れてしまう草を育てている農業は、温暖化問題の解決にはならず、森を育てる植林のほうが有望だ、と考えられる訳です。

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森林火災、その焼け跡になった土地に植林が行われたとします。
森林火災の跡地は火災の前には木が生えていた場所ですから、植林を行えば無理なく森を再生できます。大気から二酸化炭素が吸収されて木が育ち、二酸化炭素の固定が進むでしょう。
でも考えてみてください。森林火災が起こる前、その土地には植林して育てたのと同じような森があったはずです。その森が燃えたときに二酸化炭素が放出されていたはずで、その放出量は新しい森が育った時に吸収する量とほぼ等しいでしょう。森林火災の跡地への植林では、二酸化炭素の吸収量は、マイナスをとりもどすものです。

では、さらに二酸化炭素を吸収させるためには、どんな場所に植林すれば良いのでしょうか。
森林火災以外の理由で森が失われた土地に植林したらどうでしょうか。
実は産業革命以降に大気中に放出された二酸化炭素は、すべてが化石燃料の燃焼で発生したわけではありません。約三割の二酸化炭素は土地の利用方法の変更が原因で発生したとされています。つまり「森を切り開いて町や農地にした」ことが原因なのです。「じゃあ農地をつぶして植林しましょう」とか「街を植林のために明け渡そう」ということになるでしょうか。いくら何でもそれは無理だと思います。
では、大気中の二酸化炭素を吸収して固定する、本当に温暖化対策に役立つ植林ができるのは、いったいどんな場所なのでしょうか。答えは簡単で、「自然には木の生えないところ」に何かの工夫をして森をつくること、それが二酸化炭素を固定するために必要な条件なのです。
日本の様に海に囲まれた島国には乾燥地はありませんが、大きな大陸の内部には広大な乾燥地が存在しています。そして、乾燥地はまさに「自然には木が生えないところ」です。
このように考えてゆくと、乾燥地に植林することの温暖化対策としての有効性がわかってくると思います。

さて、私がこの考え方を初めて知ったのは、実は30年も前のことなのです。私が所属する化学工学会の学会誌、その1990年の新年号に温暖化問題が特集され、そのなかで有望な解決策とされたものの一つが乾燥地など陸地の生態系を利用した二酸化炭素の固定だったのです。この流れはその後実際の研究プロジェクトに発展しました。そして、今から約20年前の1999年には乾燥地植林の実験が開始され、私もそこに参加することとなりました。

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植林実験の対象地とした場所は西オーストラリアのパースから600kmほど内陸に入ったレオノラという町の近くでした。この辺りは平均の降水量は東京の約1/7と少ないのですが、ときどき内陸に迷い込んできた台風で一気に大量の雨が降ることがあります。
しかし、この地域の地面は、地表のすぐ下にハードパンと呼ばれる土が固まってできた水を通さない層があるのです。このため、せっかくの雨水も土にしみこまずに洪水となって塩湖、塩の湖、にながれて、そこで蒸発してしまいます。

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我々は、このハードパンにドリルで穴をあけて、爆薬を詰めて爆破しました。爆破した後には直径5メートルぐらいの穴が空き、バラバラに砕かれたハードパンの破片と土がつまっています。この穴に木を植林するわけです。穴をたくさん作り、その周りをブルドーザーでつくった土手で囲んで洪水で流れてくる雨水を集める。こんな手法で植林を行ったのです。

オーストラリアでは植林が盛んにおこなわれていますが、それは海に近くて雨の量が多い場所での話です。「内陸部の雨の少ない場所で木が育つはずがない」といろいろな人たちに言われたものです。1年たち2年たち、たしかに、植林した木のなかでいくつかの種類の木は枯れてしまいました。

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でも5年たっても、10年たっても、厳しい干ばつがあっても、ユーカリの一種のカマルドレンシスという種類の木はちゃんと枯れずに育つ、ということが明らかになったのです。昨年で20年、今年は21年目に入るのですが、カマルドレンシスは今でも成長を続け、もうすぐ1本が平均で約1トンの二酸化炭素を固定するまでになりました。
また、爆破やブルドーザーによる土手の造成では二酸化炭素が発生するのですが、その量を評価し、差し引いても二酸化炭素の吸収量が充分にプラスになることも確認しています。さらにこの植林が、偶然に成功したわけではなく、再現できることを検証したり、もっと効果的に木を生長させて二酸化炭素を固定する方法を探したりしています。

私達が植林を行っている西オーストラリアの内陸部でも、森林火災の被害こそ少ないものの、昨年の異常な暑さや一昨年から続く雨の少なさなど、植物にとって過酷な状況が続いています。そんな状況でも私達が植林したカマルドレンシスというユーカリは枯れずに成長しています。はじめのうちは、育つはずがない、といわれていた乾燥地での植林ですが、実際に20年以上の成長の結果を示すことで実現の可能性を信じてもらえるようになりました。アイデアは30年前、実験は20年前にスタートさせた温暖化対策が、やっと実用化に向けためどがついた。
ずいぶんと気の長い話だと思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、温暖化問題は化石燃料の利用という産業革命以降の文明の基本の部分に係る規模の大きな問題です。その大問題が、一つの発明や発見で一気に解決する、というのは私にはありそうもないことの様に思えます。

今回紹介したような構想30年の研究はほかにもたくさんあるわけです。そんな息の長い研究をたくさん組み合わせた先に、真の温暖化問題の解決につながる道があるのではないでしょうか。最近、温暖化についての関心が高まってきて、中には性急な対策を主張する人もいるようです。温暖化問題をすぐに解決したい、と焦る人たちの気持ちもわからないわけではありません。
でも、現実的な問題解決とは時間のかかるものだ、ということを知っておいていただきたいですね。

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