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「新型コロナウイルス対策 オールジャパンで実施すべきこと」(視点・論点)

地域医療機能推進機構 理事長 尾身 茂

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 皆さんご承知のように、2月13日以降、複数の県から国内発生の感染者が次々と報告されています。それ以前の国内で報告された25例の感染者は、全て中国とのリンクが明確でした。
 ところが、2月13日以降に報告された感染例の中には、誰から、いつ、どのように感染が起きたか、いわゆる感染の連鎖が追えなくなっています。
感染の連鎖が追えなくなったということは極めて重要であり、地域での感染がすでに始まっていることと判断することが公衆衛生上適切です。

 ではなぜ、このような状態に今日本はあるのか。3つの理由があると思います。
1つ目は、我が国が感染対策を実施した時期について、2つ目は、このウイルスの生物学的な特徴、3つ目は、サーベイランスの感度です。

まず1つ目。対策開始の時期についてであります。
中国・武漢では、既に昨年の12月初旬には感染がかなり広がっていたと思われます。
しかしそうした情報が国内外に素早く共有されなかったため、武漢での本格的な対策、特に市民に対する外部への移動の禁止が実施されたのが1月23日になってからであります。
ところが日本が本格的な対策を始めたのは1月10日です。つまり日本が対策を始める前に、既に1万人以上の中国からの訪問者が日本を訪れ、その中には感染者がいたと考えられ、日本国内での感染が始まったと思います。

 2つ目はウイルスについてであります。
このウイルスは、2003年に起きたSARSに比べて、対応が極めて難しいウイルスであります。なぜならば、潜伏期間内での感染者、あるいは感染しても症状が軽い人、あるいは無症状の人でも、他の人に感染させることがあるウイルスであるからです。
こうした本ウイルスの性質の為、感染の広がりを検知するのが極めて難しい病気であります。

 最後のサーベイランスについてですが、我が国では最近まで肺炎が疑われても、武漢への航歴が無い人に対しては、PCR検査が行われていませんでした。
ところが最近政府は、武漢への渡航歴が無い人でも、肺炎の症状が疑われた場合には、ウイルス検査をするよう各都道府県に通知をしました。このことが、2月13日以来、感染報告数増大の一つの理由であります。
ちなみに香港およびシンガポールは、現時点では日本よりも感染者が多く報告されていますが、この両国も、日本と同じように感度の高いサーベイランスを実施しております。

 さて、地域の感染が確実になった今、我々は何をなすべきでしょうか。戦略を明らかにする必要があります。この新しい戦略の目的は、感染の拡大のスピードを抑制することであります。重症化をなるべく防止し、死亡者数を最低限に抑えるということであります。
 
 この目的を達成するためには、6つの点が重要であります。

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1番目は、水際作戦から地域感染対策へのシフト、2番目は、感度の高い肺炎サーベイランスの実施、3番目は、医療機関間での連携、4番目は、一般市民の果たす役割、5番目は、クルーズ船などで得られた情報の分析、6番目は、国民への分かりやすい国からの情報であります。

 まず第1点は、すでに地域での感染が確実となった今、いわゆる水際対策から地域での感染対策に優先度を移し、限られた人的、あるいは財的資源を地域の感染対策に集中する時期にきております。

 2番目は、感度の高い肺炎サーベイランスの実施であります。すでに始まっておりますが、このサーベイランスにより、肺炎の疑いのある人をなるべく早く検知し、ウイルス検査を行い、必要に応じ早期の治療を行い、重症化・死亡をなるべく防ぎ、感染の拡大を抑えることであります。このためには、国内におけるPCR検査のキャパシティーを高める必要があり、民間の研究機関の協力も必要であります。迅速診断キットの開発および実用化については、国立感染症研究所に期待したいと思います。

 3点目です。医療機関がそれぞれの役割を果たすことであります。感染症指定病院は日本に約1800床有しておりますが、ここでは重症者の治療にあたる。他の医療機関も感染の拡大を想定して、軽症者を診察する準備を始めるべきだと思います。症状の極めて軽い人は、自宅で療養してもらうことも必要になります。

 4番目ですが、我々一般市民が果たす役割であります。いわゆる咳や熱などの風邪の症状や強いだるさ等が4日以上(高齢者の場合には2日ですが)続いた場合は、直接医療機関を受診するのではなく、各地に設置されている相談センターに電話をし、アドバイスを受けていただきたいと思います。ご自分の判断で、直接医療機関に行きますと、病院内での感染の拡大が起きてしまうからであります。

 5番目ですが、コロナウイルスとの戦いにおいて日本が果たす役割についてであります。
たまたま今回クルーズ船・チャーター機の経験を通じ、感染者の病態、ウイルス量の変化など、これからの国際的な感染対策に有用な情報を我が国は得ております。これらの情報は、治療薬の開発などにも役立ちます。情報の分析などをオールジャパンの産官学連携で行うべきだと思います。これを世界に発信すべきです。

 6番目、最後は政府の情報発信についてです。毎日の感染者数など断片的な情報でなく、良い点、心配な点、分からない点なども含めた、全体像がわかるような戦略的な情報発信が必要です。

 さて、クルーズ船についてですが、さまざまな評論が世界中からなされていますが、船内の感染状況についても少しずつわかってきました。実は船内で隔離が実施されたのは2月5日でありますが、最近発表された発症日ごとにまとめた感染カーブを分析しますと、ほとんどの感染が、実は2月5日前に起きていることがわかります。
ただし例外は、クルーメンバーと、乗客の中で部屋を共有した一部の人であります。
残念ながら多くの感染者が隔離前に起こりましたが、その後実施された隔離はかなり有効だったと言えます。このことも、世界に発信すべきです。
またクルーメンバーについては、2月5日の隔離実施以降に感染したと考えられる人もいるので、それぞれのリスクを評価した上で、下船時期などについては一般の乗客と区別し、手厚いケアが求められると思います。

 最後になりますが、2009年の新型インフルエンザについては、日本の死亡率は世界で最も低かったことがわかっております。これには2つの理由があったと思います。
1番目は、日本の医療機関・地方自治体・国などが頑張ったこと。2番目は、日本人の高い健康意識でありました。
 今回も、国民、医療機関、地方自治体、国などがオールジャパンで努力すれば、死亡率を最小化することは可能であると思います。

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