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「東京2020大会 その先へ」(視点・論点)

大阪芸術大学 教授 増田 明美 

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今年はいよいよ東京オリンピック、パラリンピックです。
飛び込みの寺内健さんを皮切りに、去年から日本代表選手が次々と内定しています。
オリンピック競技のスターはたくさんいますね。競泳の瀬戸大也さん、バドミントンの桃田賢斗さん、卓球の伊藤美誠さん、などなど皆さん御存じの選手が多いと思います。

さて、パラリンピック競技、パラスポーツの選手を何人ご存知ですか?
車いすテニスの国枝慎吾さん… は、ご存知ですね。あとは? 
やはりオリンピック競技に比べると、最近増えたとはいえ、メディアでの露出が少ないためか、パラスポーツの知名度はまだまだです。

でも、パラスポーツには社会を変える力があります。
今年はぜひパラスポーツをよく知って頂きたいと思います。面白いですよ。

まず、パラスポーツに触れると、競技力の高さに驚くでしょう。
パラの選手は、今ある機能を最大限生かそうと、色々工夫しますから、体の動かし方が上手なのです。
オリンピック選手も参考になると話すほどなんです。
また、障がいを補うために別の機能が発達してきます。
例えば、視覚障がい者の走り幅跳びの選手は、音や声だけを頼りに全力疾走して、砂場へとジャンプします。聴覚が研ぎ澄まされるからこそできるのですね。
視覚障害のある選手をサポートするガイドと共にある、走り幅跳びや100mなどの競技を観ていると、胸が熱くなります。
皆、一人ではない。お互い助け合いながら、誰かと共に生きているんだなと、今更ながらに気付くからです。

そんな選手たちに接していると、障がいは個性なんだと思えてきます。
義足の陸上選手、佐藤圭太さんは「障がいは体の特徴のひとつでしかない」と言い、「そのうちパラアスリートという言葉もなくなるかもしれない」と話します。

パラスポーツをみていると、“現代社会の課題に立ち向かう、何か”を感じることが出来ます。 
それが社会を変える力になると思うのです。

近年、その大きな価値に世界各国が気付いて、パラスポーツが発展しています。

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1964年の東京大会と前回のリオ大会の参加人数を比較してみました。
オリンピックも発展していますが、パラリンピックの成長が著しいことが分かります。
競技数も1964年の東京大会で9競技だったものが、2020年は22競技になります。
また選手数も、2020年大会はおよそ4,400名になるといわれています。 

日本においてもパラリンピック、パラスポーツの価値が高く評価されています。

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こちらは日本障がい者スポーツ協会の協賛企業・オフィシャルパートナーの推移を表わすグラフです。
2013年、東京大会が決定してから特に著しく伸びています。
それぞれ協賛する理由は違うと思いますが、イメージアップ以外にも社員がパラスポーツに触れることで、社員の意識を変える、ダイバーシティ・多様性の理解、心のバリアフリー促進というような効果が期待されるからだと思います。
応援に行く社員家族に交通費を補助する企業もあるのです。

日本でも 順調に発展しているパラスポーツですが、オリンピックに比べてみると、もう少し差が縮まってもいいのではないかなと思います。

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日本パラリンピック委員会は 日本障がい者スポーツ協会の内部組織になっていて、日本スポーツ協会と日本オリンピック委員会を足した予算と比べると5倍ほどの開きがあります。
リオの日本代表選手団では監督コーチなどスタッフも含めてオリンピックは601名  パラリンピックは230名でした。約3倍ですね。
予算も3倍くらいの差になることが本当は理想ですよね。

それでもここ数年は 選手個人に対する支援も増えて、環境がとても良くなってきています。競技に専念できる選手もいれば、所属企業の配慮で練習や合宿などの時間を取り易くなった選手も大勢います。
そして国も強化体制を整えており、去年秋にはナショナルトレーニングセンター内に多くのパラアスリートの利用に対応できる、屋内トレーニングセンター・イーストがオープンしました。
様々なユニバーサルデザインを採用して、バリアフリーが行き届いています。
本番で使用する器具のある5つの専用練習場をはじめ、食堂や宿泊施設も完備された、最新の強化の拠点です。

2020年のパラリンピックに向けて、選手の強化は進んでいます。
やはり選手が世界の舞台で活躍しないとお客さんは見てくれませんものね。
パラスポーツの普及のためにもトップ選手の強化は必要なのです。

しかし、一握りのトップ選手だけの環境がよくなっても、身近な障がい者スポーツが広く普及しなければ社会を変えるまでの力にはならないと思います。

普及をはかり、すそ野を広げるためには指導者が欠かせません。

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2000年13,375人だった障がい者スポーツ指導員が、去年の10月末で27,777人と、約20年で2倍になりました。日本障がい者スポーツ協会では2020年で3万人、2030年には5万人という目標を掲げています。
各地域で障がい者が気軽にスポーツできる環境を作るためにも多くの指導者が必要です。
今後も様々な施策で指導者を増やす努力を続けて、5万人の達成を実現することが期待されています。

また応援してくれる観客が増えないと、スポーツ文化としてパラスポーツが社会に根付かないと思います。
これまで、パラスポーツの殆どの試合は入場無料。
それでも観客席はガラガラのところが多いのが現状です。

多くのお客さんが観に来る車いすラグビーはどうでしょう?
去年秋の大会には多くのお客さんが観に来てくれましたが、約3分の1は小中学生、3分の1が企業関係者、残りの3分の1が一般のお客さんだったそうです。
車いすラグビーは障がいの重い人、軽い人、が役割分担し、男女が一緒になってチームを組む、まさにONE TEAMです。
観た子ども達はきっと感じるものがあったのではないでしょうか。

去年、9歳になる私の甥っ子がパラ陸上の試合を観にきました。
義足の選手に「足、痛くないの?」なんて 気になることをストレートに質問し、聞いていてビクビクしましたが、彼はそのあとに変わりました。人見知りだった甥っ子に 積極性が出てきたように感じるのです。子どもは1日で変わりますね。

この春にはテストイベントをはじめ、様々なパラスポーツの大会が行われる予定です。

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2月にはボッチャ、3月には車いすラグビー、そして5月には国立競技場でジャパンパラ陸上が開催されます。
本番と同じ会場です。ぜひ会場に足を運んでみてください。
選手の躍動する姿に、きっと何かを感じて頂けると思います。

2020年東京パラリンピックを契機に、感受性豊かな子どもをはじめ、多くの人がパラスポーツに触れる機会を作っていきたいと思います。
困難を乗り越えてがんばる姿、様々な個性を受け入れる心、これからの社会で必要な価値観が自然と身に付くのではないでしょうか。

今年はパラスポーツを観たい、応援したい、そんな方がどんどん増えることを期待します。

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