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「COP25 どうなる地球温暖化対策」(視点・論点)

東京大学教授 高村 ゆかり

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 スペイン・マドリードで、12月2日から始まった気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)は、会期を2日間延長し、12月15日午後、終了しました。
 COP25での国際交渉の注目点の一つは、市場メカニズム=海外での排出削減分を排出枠、排出クレジットとして獲得し目標を達成できる仕組みについて、その詳細なルールを合意することでした。

 昨年のCOP24で、パリ協定を運用するルールの大半が合意されましたが、市場メカニズムに関するルールについては合意できないまま、COP25での決定に向けて交渉を進めていました。大筋のルールの形が見えてくるほど交渉は進みましたが、最終的に合意にいたらず、来年11月にイギリス・グラスゴーで開催される予定のCOP26での合意をめざすことになりました。
 COP25のもう一つの注目点は、「Ambition(野心)」の引き上げでした。パリ協定は、国際社会がめざす長期目標として、世界の平均気温上昇を,産業革命前と比べて2℃を十分に下回る水準に抑制するという「2℃目標」、1.5℃に抑えるよう努力するという「1.5℃の努力目標」を定めています。最新の科学的知見によれば、2℃目標の達成には、2070年頃には、1.5℃目標の達成には、2050年頃には、二酸化炭素の排出を実質ゼロにする=「脱炭素社会」を実現する水準の大規模な排出削減が必要とされています。

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 残念ながら、現在各国が提出している目標が達成されても気温上昇は3℃を超え、長期目標を達成する削減水準には達しない見通しです。そのため、パリ協定は、長期目標の達成をめざして、5年ごとに、各国が目標を見直して再提出することを義務づけています。また、新たに提出する目標は、現在の目標よりも削減努力を積み増すものであり、その国の最大限の努力を示すものであることも求めています。
 来年2020年は、この各国の目標の最初の見直し、再提出のタイミングとなります。気候変動の影響とそのリスクへの懸念が世界的に高まる中、5年ごとに各国が目標を見直し、削減努力を積み増していくことで長期目標の達成をめざすこのパリ協定の仕組みが真に気候変動対策に有効かが試される機会となります。
 すでに73カ国が削減努力を積み増した目標を提出したか、あるいはその積み増しに向けて検討しています。さらに11カ国が削減目標を積み増すことをめざして国内での検討を開始したと表明しています。米国などは国際的な気候変動政策の進展そのものに後ろ向きで、大排出国ほど削減努力の積み増しを強力に促す合意には消極的でした。そうした中、COP25は、新たに国が提出する目標は、現在の目標よりも削減努力を積み増し、その国の最大限の努力を示すというパリ協定の定めを確認した上で、パリ協定の長期目標との間に大きなギャップがあることを考慮した上で、2020年に各国が目標を検討して再提出することを要請すると決定しました。

 日本は、この6月に、2050年までに温室効果ガス80%削減、そして、今世紀後半のできるだけ早期に排出実質ゼロ=脱炭素社会の実現をめざすという長期目標を盛りこんだパリ協定長期成長戦略を国連に提出しました。その後、9月の国連気候行動サミットを契機に、そしてこのCOP25でも、2050年排出実質ゼロ=1.5℃目標をめざす動きが強まっています。
 COP25の議長国チリが主導し、2050年二酸化炭素排出実質ゼロをめざす「Climate Ambition Alliance(気候野心同盟)」には、72カ国とEU、カリフォルニア州など14の地域、398の都市・自治体、786の企業、年金基金など300兆円を超す資産を有する27の機関投資家が参加しています。日本からも東京都、長野県、京都市,横浜市をはじめ、28の自治体が参加しています。COP25期間中には、EUが首脳会議において、2050年排出実質ゼロの目標を掲げることを決定しました。

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 こうした動きの背景には、2018年の西日本豪雨、台風21号、2019年の台風15号、19号など、日本でも気候変動が一因となったと考えられる気象関連の自然災害により大きな被害が生じていることがあります。2018年の西日本豪雨では200人もの命が失われ、西日本豪雨と台風21号だけで230億米ドル(約2兆5000億円)もの損害が生じました。
 2018年に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5℃特別報告書によると、すでに約1℃気温が上昇していますが、1.5℃の気温上昇で今よりもリスクは高くなり、2℃の気温上昇でそれより一層高くなり、早ければ2030年頃には1.5℃に達するおそれがあるとしています。こうした科学的知見を背景に、できるだけ低い水準で気温上昇を抑えるよう、対策の強化、加速化を求める声が、特に若者を中心に高くなっています。

 グレタ・トゥーンベリさんが、気候変動対策の強化を求めて、週一回学校を休んでスウェーデン議会の前で始めたストライキは、「Fridays for Future(未来のための金曜日)」と呼ばれる大きな運動となり、特に若者を中心に数百万人が参加する大きな運動になっています。COP25の期間中も12月6日にはマドリードで50万人が集まる大規模なデモが行われました。

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 日本も、パリ協定、そして、COP25での決定を受けて、2020年に向けて、2015年に提出した現在の削減目標(2030年までに2013年比で26%削減)について、削減努力を積み増す方向で見直すための検討を早期に進めることが必要です。

 日本は、エネルギー分野を中心に、2013年以降排出が着実に減っていますが、少なからぬ先進国が2030年といった期限を決めて、炭素回収貯留技術を伴わない石炭火力の段階的廃止の政策をとっている中で、石炭火力を新設し、また新設計画を有する、先進国としては特異な国でもあります。石炭火力の輸出への公的支援についても国内外から厳しい批判を受けています。日本が提出した長期戦略で掲げた今世紀後半のできるだけ早期に排出実質ゼロ=脱炭素社会の実現をめざすという長期目標と整合的になるように、あらためて現在の政策を検討することも必要となります。
 企業や金融機関、自治体といった非国家主体の行動は頼もしく、また期待されるものですが、その取り組みを拡大し,取り組みの水準を引き上げていくためには、国の政策が重要です。特に若い世代の懸念に応える効果的な気候変動対策をすすめるために、そして排出をしないでビジネスができることが金融市場とサプライチェーンにおける日本企業の企業価値を向上させる、こうした世界的潮流の中で、国の実効的な気候変動政策の実施と推進が一層重要になっています。

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