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「EU新体制と欧州統合のゆくえ」(視点・論点)

慶應義塾大学 教授 庄司 克宏 

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12月1日に欧州連合すなわちEUを今後5年間運営する新指導部が発足し、12日と13日には最初のEU首脳会議が開催されました。他方、イギリスではボリス・ジョンソン首相が率いる保守党が12日の総選挙で圧勝した結果、2020年1月末のEU離脱は確実となりました。しかしEUの新指導部は、内部では気候変動問題や、反EUを主張するポピュリズムの台頭、また、対外的にはアメリカのトランプ大統領のEU敵視や中国の経済的脅威のような地政学的問題を抱えています。内外のこうした状況にEUはどのように対応しようとしているのでしょうか。それにはどのような課題があるのでしょうか。
 まず、超国家的機構とされるEUでは、どのようにして政策決定を行う仕組みとなっているのかについてお話しします。

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 第1にEU首脳会議を意味する欧州理事会は、EUの基本方針を定めます。その常任議長はEU大統領とも呼ばれ、各国首脳間の意見調整を行い、コンセンサス形成を促進する任務があります。現在の常任議長は、前ベルギー首相のシャルル・ミシェル氏です。
 第2に欧州委員会は1加盟国1委員で構成され、出身国からの政治的独立性を守る義務があります。前ドイツ国防相のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏が委員長を務め、約3万人の官僚機構を擁し、EUの政策立案の中核を担います。
 第3に閣僚理事会は各国の担当閣僚で構成され、国益の調整を行います。また、欧州議会は各国で直接選挙された議員で構成され、民主的コントロールを行使します。欧州議会議長は、イタリア出身のダビド・サッソーリ氏です。閣僚理事会と欧州議会はEUの立法と予算について共同決定権を有します。
 さらに、対外関係でEUを代表するのはEU外務・安全保障政策上級代表であり、外務理事会の議長と欧州委員会の副委員長を兼務します。スペイン前外相のジョセップ・ボレル氏がそのポストに就任しています。

 EU新指導部の政策課題として、第1に気候変動対策があります。世界中で地球温暖化の兆候やその影響が加速しているにもかかわらず、12月2日からスペインのマドリードで開かれていたCOP25、すなわち、国連の気候変動枠組み条約第25回締約国会議では、地球温暖化への対策と費用分担をめぐり各国の隔たりが大きいことが露呈しました。

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 これに対し、フォン・デア・ライエン委員長は、「欧州グリーン・ディール」を提唱し、2050年までに温室効果ガスの実質排出をゼロとする気候中立の目標を掲げています。また、12月12日の欧州理事会ではその目標を承認することが表明されました。しかし、石炭火力による発電の割合が高いポーランドは、現段階ではその目標の実行を公約できないと留保し、この問題の解決は来年6月に持ち越されました。このように、EU内部も気候変動対策で一枚岩というわけではありません。

 EU新体制の第2の課題は、欧州ポピュリズムの台頭にどのように対応するかということです。EUは民主主義・人権・法の支配を価値規範とし、EU全体の利益のために加盟国の主権を制限する形で欧州統合を進めています。これに対し、欧州大陸のポピュリズムは、究極的にはEUを乗っ取り、「反リベラル・デモクラシー」という形で自分たちの都合の良いように欧州統合を組み換えることを追求しています。たとえば、ハンガリーのオルバン首相は、ロシアや中国をモデルに「反リベラル国家」を建設すると表明したこともあります。そのようなポピュリスト政党が単独政権や連立政権を形成する加盟国が増えるならば、欧州理事会や閣僚理事会にポピュリスト政党の政治家が出席してEUの政策決定を麻痺させる可能性があります。
 EUは加盟希望国に対しては、民主主義・人権・法の支配を加盟条件として、そのための国内法整備を要求します。しかし、ハンガリーやポーランドで見られるように、EUに加盟した後にポピュリスト政党が憲法改正を行って司法権の独立やメディアの中立性を骨抜きにしても、EUが違反国を除名する手段がありません。
 このため、フォン・デア・ライエン委員長は「欧州生活様式の保護」という政策目標を提示し、その中で法の支配をEU予算の各国への配分の条件とするよう提案しています。また、ポピュリズムが台頭する主な要因となった難民問題に対応するため、欧州共通難民制度の再構築をめざしています。しかし、欧州ポピュリズムの問題解決に妙案はなく、EUには手詰まり感があります。

 EUにとっての第3の政策課題は、EUを取り巻く国際環境でどのように地政学的に対応するかという問題です。地政学とは、国際関係における地理的要因を重視して、国家安全保障や外交政策を考える立場を言います。世界のGDPに占めるEUの割合は2016年に約22%で、約25%のアメリカに次いで第2位となっています。また、EUは約5億人の人口を抱え、世界の輸出入でそれぞれ15%を占め、米中と並ぶ世界最大の貿易圏の1つです。イギリスのEU離脱でEUの立場はやや低下しますが、その経済パワーは強大です。しかし、11月27日、フォン・デア・ライエン氏は欧州議会で、「地政学的コミッション」がEUで早急に必要とされていると演説しました。また、ボレル外務・安全保障上級代表も、12月1日の就任演説において、共通外交・安全保障政策の行動原則として現実主義を掲げ、権力政治の世界において「戦略的目標と利益に関する明確な共通ビジョン」が必要とされると表明しました。

 この背景にあるのは、気候変動対策に関するパリ協定やイラン核合意からの脱退など、多国間枠組みの「破壊者」であるトランプ・アメリカ大統領がEUを「敵視」していること、統治モデルをめぐるシステミック・ライバルとEUがみなす中国の台頭、ロシアの軍事的脅威の高まりなどがあります。そのような中、EUは「多国間主義のチャンピオン」という立場を維持しつつも、超大国が地政学と経済的利益の追求を組み合わせた対外政策を進めていることに対抗して、EUが得意とする貿易を武器に他国と同盟を形成し、安全と経済的利益を追求するという姿勢を打ち出しています。

 以上のようなEUの課題と方向性に対して、日本はどのように対応すべきでしょうか。日本とEUは、民主主義・人権・法の支配の面で共通の価値を有し、経済的には日EU経済連携協定を締結して自由貿易を推進しています。そのため、EUが日本との関係強化を求めてくることは容易に予想されるところです。たとえば、中国の「一帯一路」政策に対抗するため、デジタル、輸送、エネルギー、人的交流などの面で、EUは日本との「連結性」政策の協力を一層強化すると思われます。また、EUが米中の参加しない環太平洋連携協定であるTPP11との協力を求めてくることも考えられます。他方、気候変動対策では、日本の大胆な政策転換が必要とされます。また、貿易や軍事面で米欧の軋轢(あつれき)が激化しないよう、日本はG7やG20などの多国間枠組みでオネスト・ブローカーとして役割を果たすことが期待されます。

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