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「『流域型洪水』がつきつけたもの」(視点・論点)

中央大学理工学部 教授  山田 正

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 今日は、非常に多くの方々が亡くなられ、多くの資産が失われ、あるいは今も後片付けのため、毎日大変な思いをされている方を引き起こした、台風19号の分析を行い、あるいは将来、どのような対策をすべきだろうかというようなことを考えたいと思います。

私自身、このような洪水災害を50年ぐらい研究していますが、戦後すぐには、伊勢湾台風、カスリーン台風と大きな台風がありましたが、台風19号は、この2、30年以内では最も大きな被害を出した台風の1つかと思っています。
 
この10年近く、西日本、九州から広島あたりでは、毎年のように台風が大きな被害を及ぼしています。それらと今回の台風19号は、どのように違うのだろうかということも考えたいと思っています。

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これは、国土交通省のCバンドレーダというレーダーで見た累積雨量でどのぐらい降り積もったかという量です。これを見ていただくとわかるように、長野県は薄青い色、あるいは濃い青色がほとんどを占めており、その横の赤色や紫色の500ミリ以上の雨が降るというようなところとは違って、200ミリ前後の雨がまんべんなく降っているということがわかります。

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福島も、下流部のところは赤色が出ていますが、全体にまんべんなく、ある一定の量の雨が降っています。
雨の量そのものは、それなりに大きいものですが、それよりも流域全部、その県全域にわたって、ある量の、一定の量の雨が降っているのが特徴かと思います。そこで発生する洪水ですから、“流域型洪水”と呼んでいます。これは、ゲリラ豪雨とか線状降水帯による雨の降り方と、あるいは、それに伴う洪水とはまったく違ったタイプで、流域全体に一様に雨が降るというものです。
 それによって、流域全体に渡り被害が起きているということが、この台風19号の特徴かと思います。

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これは、千曲川の縦断図です。千曲川は長野盆地に入ると非常に広い、幅1キロぐらいの川となります。ところが下流に行くと、盆地を出るところで、幅が100メートル程度にまで狭まってしまいます。これが原因で溢れています。
このような、地域ごとの独特な地形のあり方で洪水が起きています。

このことを今後、どう考えれば良いのかということを考えてみます。まず私は3段階ぐらいに考えています。3年から5年後ぐらいまでをどう考えれば良いのか、あるいは20年30年後までにどうすれば良いのだろうか、あるいは今後、地球温暖化の進行が言われております、50年100年後に向かって、どういう国づくりをすれば良いのだろうかという観点で説明したいと思います。
まず3年から5年というのは、政府も激甚災害指定ということを行っており、つまり、激甚な災害だということで、国全体で3年から5年以内に決壊したような堤防を応急復旧しましょう、元に戻しましょうという発想です。
 これをこの時にどうするのか、それから20年30年後というのは、元々、河川整備計画というものがあります。これは、20年から30年先までにどのようなことをすれば良いのか、今までもそれを行ってきています。国土交通省は、河川整備計画で、2、30年後までぐらいに何をやるのかというメニューを多数持っています。
ところが、これの整備率自体が大体7割弱ぐらいです。つまり本来、もうできていなければいけない、色んな施設整備がまだ7割も完成していません。ましてや地方自治体、県知事が責任を持って維持管理をするということになっている二級河川に関しては、ほとんど、この20年程度、大きな改修計画等も行われていません。
田舎の、地方のほうに行ってみて、二級河川などに行ってみると、川の中に木が生えています。木が生えてどこが川かわからないというような状態になっています。そういう風なところで洪水が来ると全部溢れてしまうというわけです。

更にこれから50年100年後は、地球温暖化の進行ということが言われていますが、どういう国をつくれば良いのか、どのような安全度を保証するような国をつくれば良いのだろうかということについては、日本は非常に弱いところがあり、日本は長期的な方向性を何も、法律にもしていません。これに関しては、単に川をどう改修するとかそういう問題ではなく、国づくり、町づくり、地方のあり方、それから森林をどう整備して、どの程度まで流木災害が起こらないようにするのかということや、それについて、長期目標を立てて考えていこうという風に現在、考えています。3から5年、20年から30年、50年から100年というようなスケールで、国民がここをしっかり考えてもらいたいと思っています。

さて、先程も述べたように、地球温暖化ということが言われています。我々の研究者仲間は、今後、産業革命の頃から、地球の平均気温が2度ぐらい上昇した場合、雨はどのような降り方となるのか、あるいは気温も海水温も4度上昇した場合、どのようなことが起こるのかというようなことを私も含め、大勢研究しています。それで、私の研究室で色々な分析をしてみるとこの5年10年で起きている大雨というのは、2度上昇ぐらいの時に起きるものがもう既に起きているのではないかと感じています。その証拠に、4度上昇した条件の中で何千ケースも日本近海の気象を計算してみました。具体的には、4度上昇下で一番大雨が降るパターンは、どういう台風の経路なのかいうことを調べました。

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そうすると、その一番大雨が降るパターンは、今度の台風19号とほぼ同じ経路でした。これは4度上昇というものを前提としたような国づくり、どこまでこの国を安全にすべきなのだろうかという時に、4度上昇ぐらいを目標として、それを3年5年で急にやれというわけではなく、50年100年かけて安全な国をつくっていきたい、そのためには、どうすれば良いのか、ハード整備はどのくらいまでやるべきなのだろうか、あるいはソフト整備はどのようなあり方が良いのだろうか、あるいは、町づくりや地域づくりあるいは避難の仕方、それから、ハード整備については、すぐダムをどうするのかとか堤防をどうするのかとか言いますが、堤防1つとっても、江戸時代ぐらいから、霞堤であるとか、堤防の横にもう1個堤防を作る二線堤など、古来からのやり方もあります。あるいは輪中堤の復活なども考えられると思います。
更に地方では、コンパクトシティと言われていますが、高齢化と共に、ある程度、地域をまとめて、コンパクトな地域にしようと。その時に、洪水に遭わない工夫をどのようにすれば作れるのか、そのためには、税制をどうするのかとか、土地の利用をどうするのかというのがあります。
 現在、大体埼玉県ぐらいの面積と同じだけの休耕田等があります。それを川沿いに作れないかやその川沿いの作ったところに、堤防の高さを上げないで、堤防の幅を広げられないか、そのための土砂は、川を時々浚渫することで確保し、その土砂を横に置くことで丈夫な堤防がつくれないだろうかというようなことを考えています。
 そういう風に、これは一技術者、あるいは行政だけに任せるのではなく、国民全体で長期目標に向かってしっかり考えていこうと。どのような国をつくれば良いのだろうか、みんなで考えていきたいと思っています。

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