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「子どものグリーフサポート」(視点・論点)

防衛医科大学校 教授 髙橋 聡美

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人は誰しも、様々な喪失体験をします。今日は大切な人との死別を体験した子どもたちについて、死別後の反応とそのような子どもたちにどのようなサポートをしていけばいいのかについてお話しをします。

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大切な人を亡くした後に抱く感情をグリーフと呼びます。
親やきょうだいを亡くし、グリーフを抱えた子どもたちのサポートにわたくしは約10年関わって参りました。
グリーフはよく「悲嘆」と訳されますが、実際、子どもたちと話をしてみると、「会いたいな」とか「パパとキャッチボールをまたしたいな」とか、「ママのあのお料理をもう1回食べたいな」など、嘆き悲しむだけではない、愛しさや恋しさなどの様々な感情で表出されます。

死別を体験した子どもの反応は百人いたら百通りで、身体・精神・社会的に様々な反応があります。

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情緒面では悲しみ、怒り、恐れ、不安、抑うつなど大人でもよくみられる感情がありますが、気分のむらや少し興奮したような高揚状態も見られることもあります。これに関連して行動面でも乱暴になったり落ち着かない状態になったり、お葬式の時などにはしゃぐなどの様子がみられることもあります。
大人から見ると、やや不謹慎なようにも受けられますが、そうすることで心のバランスを保っているのです。
また、何事もなかったかのようにふるまう場合や活気がなくなることもあります。
身体面では眠れなくなる、ごはんが食べられなくなるなどがありますが、身近な人を亡くして、ぐっすり眠れることはまずないので、これらの反応は死別体験後の正常な反応と言えるでしょう。その他、腹痛や頭痛を訴えることもありますが、発熱などが一緒に表れない限り、病気ではないので、できるかぎり安心できる環境を作ってあげてください。
社会面では「退行」と言われる赤ちゃん返りのような状態や親から離れない状態がみられることもあります。また、亡くなった人のことが頭に浮かび学習に集中できなくなり、結果、学習面で後れをとることがあるので、学習のサポートは必要となります。
普段とことなりやや攻撃的になったり、元気がない様子で引きこもりがちになることもありますが、これらを「問題行動」ととらえず、グリーフの反応として理解してあげてください。

では、このような子どもたちにどのようなサポートが必要なのでしょうか。
まず、子どもたちに大切な人の死について説明する必要があります。
一般的に死を理解できるようになるのは10歳前後と言われていますが、どんなに小さなお子さんでもその年齢なりに「死」を感じることが可能です。
お子さんの年齢や理解力に合わせた説明が必要です。

死因は病気・事故・自死など様々ですが、子どもたちは真実を知りたがっており、自分にとって大切な人の死に関して本当のことを知る権利があります。
「まだ小さいから、わからない」とか、「あなたは知らなくてもいいんだよ」という態度は子どもたちのグリーフの歩みを止めてしまうことになりますので可能な限り、子どもたちに事実を伝えることが大切です。

一方で、伝える側の心の準備も必要なのです。子どもの知りたいという気持ちに誠実に答えると同時に、伝える側の気持ちも大切にしながら、子どもと語り合いながら行っていくことがよいでしょう。
例えば、子どもが「パパはなんで死んじゃったの?」と聞いた時、「心臓の病気だよ」と答えられる場合もあるでしょうし、死因が複雑な場合はうまく説明ができないこともあるでしょう。そのような場合は「今は、ママもうまく説明ができないの。説明できる日が来たらお話しするね」と、無理をしないということが大切です。
子どもたちは「天国ってあるの?」というような質問もよくします。その時、答えを出そうと焦らなくても大丈夫です。「天国ってあるのかな?」と子どもと一緒に考え「○○ちゃんは、あると思うの?」とその子の心の様子を聞いてみるといいでしょう。

次に、死別を体験した子どもたちをサポートする仕組みについて説明をします。

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死別後の日常の中で、子どもたちは学校や親せき、近隣などに支えられます。
子どもたちや子どもと一緒に暮らす保護者達は、助けを求めたくてもなかなか打ち明けられずにいることが多いです。死に関しての会話をすることはとても勇気がいることですが、「大変だったね」「ごはんは食べられている?」と気にかけていることを伝え、「何か困ったことがあったら教えてね」と支援する気持ちがあることを子どもに伝えてあげてください。
次に、非日常のサポートについてです。
死別を体験した子どもたちを集め行われるグリーフプログラムが現在、国内で30か所ほどあります。500か所ほどあるアメリカに比べると、まだまだ少ないですが、徐々に広がりつつあります。

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このプログラムでは、死別を体験した子どもたちが集まり当事者としてお互いの話しに耳を傾け、勇気づけ合い、未来を生きる力をつけていきます。
プログラムの中での遊びやグリーフを振り返るワークなどを通して亡くなった人のことを思い出し、「パパはこういう人だった」「ママはこういうことが好きだった」「私はどこかパパに似ているかも」などの気付きを得ながら、亡くなった人との「つながり直し」をしていきます。
このプログラムの中で子どもたちの口から語られたグリーフの物語は、批評されることも否定されることもなく、さらに、そこで話されたことが外に漏れないように場のルールを設定しています。このような安全な場で、安心して子どもたちは自分の死別体験や自分の気持ちを語ることができます。
時には専門家の介入が必要な場合もあります。例えば、事故死の場合で事故現場に居合わせたり、自死の場合に第一発見者になるなど、トラウマを同時に経験した場合や、うつ病などの病気になった場合は医師やカウンセラーなどの専門家の治療が必要となります。

子どものグリーフサポートで大切にしたいことをまとめておきます。

子どもたちは大切な人を亡くすという経験をしていますが、生前の関係性や死までのプロセスもそれぞれ体験が異なりますし、その反応もそれぞれです。
泣いていない子に「泣いた方がいいよ」と強要したり、気丈にふるまう子どもに「ママが死んだのによく平気でいられるね」などと言わないようにしてください。

先ほど、お話ししましたように死別体験後は色んな反応を示しますがその反応は病気ではありません。子どもたちが自分らしくグリーフを表現できるように支えてあげてください。

子どもたちは、大切な人の死について本当のことを知りたいと思っています。
可能な限り、本当のことをお話ししてあげてください。
そして、子どもたちが「あのね」と、何かお話しをするときには「なぁに?」としっかり向き合い、子どもたちの心の中の様子を聞かせてもらい、誠実に対応してあげてください。

死別体験後の子どものサポートは専門家だけでできることではありません。
亡くなったパパ、ママがどんな人だったか、亡くした年齢が低ければ低いほど、子どもたちはその人の声や匂いやしぐさを忘れてしまいがちです。
子どもたちの周りにいる大人たちが、「あなたのパパはこんな人だったんだよ」と語ってあげることもまた、私達にできるサポートと言えるでしょう。
アフリカに「子どもが一人育つには村中の人が必要だ」ということわざがあります。子どもたちの身近にいる皆さん一人ひとりの力が子どもたちには必要です。
身近に大切な人を亡くした子どもやその家族がいたら、何か力になれることはないか、是非、聞いてみてあげてください。

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