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「五輪新種目 サーフィンで地域おこし」(視点・論点)

日本サーフィン連盟 副理事長 井本 公文

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来年2020年、オリンピック・パラリンピック東京大会から新たな競技としてサーフィンが登場します。近年サーフィンは世界中で人気のスポーツとして注目を集めています。
きょうは、そのサーフィンの魅力や長年培われた自然との接点、地域振興などサーフィンを取り巻く環境についてお話させていただきます。

アメリカ、カリフォルニア州にあるサーフィンの聖地と呼ばれているハンティントンビーチでは、サーフィンの一大イベント「USオープン」が毎年開催されています。
会場には100万人余りの観客が訪れ、併設のサーフィンフェスティバルなど人気のあるビーチイベントとして賑わっています。
またブラジルでは、サッカーの次に人気のスポーツです。多くの国際大会がビーチで行われ海岸では賑わいを見せています。その結果サーフィン人口は増え、多くの世界チャンピオンを輩出していることも注目されています。
サーフィンは採点競技であり、数名の選手が同時に海の中に入り、互いに牽制しながら、波に乗って演技をし、得点を競います。

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形の良い波や波の大きさ、技のスピードや力強さなど、演技の表現力が採点基準となります。体操やフィギアスケートなどの採点競技を思い浮かべると、わかりやすいかも知れません。
またサーフィンは、波や自然環境に左右され、中断や延期などの競技日程にも影響を与えます。その結果、競技がないあいだに会場で観客に楽しんで頂く、そんな観戦スタイルに新たな組み立てが必要になります。
サーフィンは、競技場などで行う従来のオリンピック観戦とは少し異なり、海を感じながら、ビーチなどオープンスペースの自然の中で競技を観戦します。
また競技観戦ができる会場以外にも、新たなスペースが設けられる予定です。
そこでは、フェスのようなステージがあり、サーフィンカルチャーから派生したサーフミュージックやサーフファッション、サーフィン特有の健康志向であるヨガやオーガニックフードなど、自然との接点を観客と共に楽しめる「サーフィンフェスティバル」の同時開催をこの2020年の東京オリンピック競技大会で計画をしています。

また、サーフィンの人気は、サーフィンカルチャーを生む地域や、多様性が認められるその環境にもあるのではないでしょうか。
サーフィン人口は今も世代を超えて広がっています。日本サーフィン連盟が主催する全日本選手権では、最高齢77歳の選手から、最年少は6歳の選手が参加をし活躍も見られます。北海道から沖縄まで、この全日本選手権に参加する選手がいるように、海洋国家である日本には、素晴らしい海岸やビーチが存在し、競技の為に日々トレーニングをするゲレンデが全国にあります。
もちろん競技だけではありません。サーフィンを楽しむ為に、サーフィンを中心とした生活を行う仕事やライフスタイルにも影響を与えています。

オリンピック会場である千葉県一宮町周辺の市町村では、平日は都内で働き、週末はサーフィンをするためにセカンドハウスを構えるライフスタイルの方々が多くいます。

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しかし、その働き方の多様化が進むにつれて、生活の基盤を海におき、徐々に移住者が増加するなど、周辺には珍しく人口増という現象が見られるのも面白いところです。
サーフィンという競技が、スポーツという枠を越えて、人の生き方そのものに影響を与えているということがよくわかる好事例だと思います。
千葉県一宮町以外でも、宮崎県など有数のサーフポイントやビーチを持つ地域では、サーフィンを核に地域活性化を図るサーフタウン構想を進め、移住を自治体が後押しする仕組みも構築されています。

ここで宮崎県日向市の取り組みを見てみましょう。
きっかけは平成26年12月に国の発表した「まち・ひと・しごと」の創生総合戦略から、日向市では「消滅可能性自治体」の人口減少を危惧し、翌年27年10月に「元気な日向市未来創造戦略」を策定しました。

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その地域創生の取り組みとして、日向市の強みである1つに全国でも有数のサーフスポットがあることから、他にない貴重な地域資源である海・サーフィンをまちづくりの基盤として地域活性化を図ることを決定しました。
「日向市未来創造戦略」の4つの基本目標は、「新たな雇用の創出」「新たな移住者200名」「元気な子供の産み育て」「安全で安心な暮らし」を目標としています。
その中の「新たな移住者200名」戦略では、日向を知ってもらう、来てもらう、住んでもらう、その代表的な取り組みとしてサーフィンが選ばれ、サーフィンを中心としたまちづくりを行なっています。

なぜサーフィンが選ばれたのか?地域資源である有数の海とサーフスポット、それを他の自治体と違った角度でPRをすることができる。
また他方では2020年に行われるオリンピックの話題性や、サーフカルチャーイコールおしゃれといったイメージがあること。

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そして、多くの集客やメディア露出のある世界選手権などの国際大会を誘致することができる場所があることなど、サーフィンの特異性に合わせ、食や観光、地域文化など従来の観光資源と共に新たな地域資源をPRし、サーフタウンとしてのブランド化を目指しています。
その結果、サーフィンを目的とした集客は2006年から比べると現在は4倍近くの年間30万人にのぼり、年間20億あまりの経済効果があるとの結果が出ています。
サーフタウンのブランド化と移住促進を目指した結果、観光にも好影響を与える事例となっています。

また四国でも同様の現象が起きています。
地域資源である海があり、良い波質を保つ徳島県と高知県にまたがる生見海岸周辺では、移住とサーフィンのある生活を実現している方々が大勢います。
サーフィンをするために、親と共に幼少期に移住した子供達は、移住先であるビーチでサーフィンを始め、仲間と共に切磋琢磨し世界で活躍する。その結果見事2年連続世界ジュニアチャンピオンをこの日本、四国から輩出する快挙を成し遂げました。
また競技だけではなく、移住と生活とサーフィンの環境を構築するため、移住生活の基盤となる雇用の創出に地元産業である藍染の藍の生産など、農業や産業に力を入れている企業もあります。

このように移住による地域活性や経済効果をもたらすサーフィンは、多くの魅力があり、日本特有の地域資源となる海のある環境、ビーチのある生活を求め、移住者は増え始めています。
海で楽しみ、自然と共有し、健康的で魅力のあるサーフィンを楽しみながら生活をする。サーフィンは新たなライフスタイルにも影響を与えているのではないでしょうか。
1960年から始まった日本のサーフィンブームでは、ファッションや音楽、車などに大きな影響を与えてきました。60年の時を経て、時間をかけ成熟してきた日本のサーフィンカルチャーがいよいよ定着する。
2020年、オリンピック東京大会でデビューするサーフィン競技が、そのような流れに良い影響を与えられると信じています。
四方を海で囲まれた自然豊かな日本には、サーフィンに適した地形があります。
競技場のスポーツだけでなく、海で楽しむこと、その自然と地形を生かした海岸が、地域おこし、その町の活性化につながると思います。

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