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「デジタル経済とこれからの税制」(視点・論点)

東京財団政策研究所 研究主幹 森信 茂樹

デジタル経済の発達に税制が追い付けず、米国IT企業などが税負担を逃れていることに、どう対応するのか。この問題が、週末の8日、9日に福岡で開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議の主要課題の一つになりました。

グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの頭文字をとったGAFAに代表される巨大IT企業は、新たなビジネスモデルの展開によって世界経済を席巻する一方で、その巨額の利益を、税率の低い国やタックスヘイブンに留保し、利益を上げている国、つまり消費者のいる市場国に対して十分な税の負担をしていないと指摘されています。
OECDは、このような租税回避により、世界法人税収は、1000億ドルから2400億ドル、1ドル100円換算で10兆円から24兆円も失われていると試算しています。これは、全世界法人税収の4%から10%に相当する巨額な金額です。
一方各国は、高齢化の下での社会保障費の増大など慢性的な財政赤字に悩まされており、税収の確保は最重要課題となっています。

もう一つ問題があります。それは、デジタルビジネスと伝統的なビジネスとの競争条件、つまりレベルプレイングフィールドの問題が生じていることです。

欧州委員会は、デジタルビジネス企業の税負担率は9・5%で、伝統的ビジネスの23・2%の半分以下という調査結果を公表しています。

G20は、このような経済のデジタル化に伴う課税の問題に対して、有効な具体案作りをOECDに命じ、現在129か国・地域が参加して新たなルール作りの議論が行われています。最終報告書は2020年に公表される予定で、G20財務相・中央銀行総裁会議では、進捗状況とともに、最終報告にむけたロードマップが承認されました。

ではこれまでどのような議論が行われ、どのような課題が残っているのでしょうか。

 まず、デジタル経済の発達が税制に及ぼした影響ですが、大きく2つに分かれます。
1番目は、例えばビートルズの音楽を楽しむ際、これまではレコードやCDを購入していましたが、今ではダウンロードサービスでの購入が一般的です。また、インターネット上のプラットフォームを通じて、広告や集客など様々な国境を超えるサービスが可能になりました。

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これまでは大規模なビジネスを展開するには、消費国に、「恒久的施設」と呼ばれる物理的な施設を作る必要があり、消費国にとっては、それが法人税を課す根拠となってきました。しかしデジタル経済の下では、消費国にそのような施設を設けなくても、大規模にビジネスができるようになり、消費国は課税の根拠を失い税収も入ってこなくなったのです。

もう一つは、企業の価値創造における無形資産の重要性が高まってきたことです。GAFAは、自ら集めたビッグデータをもとに、アルゴリズムやAIを活用したユニークなビジネスモデルを作り上げています。企業価値の大部分は、その無形資産にあるわけですが、それを低税率国やタックスヘイブンに移転させることで、租税を回避することが可能になりました。

このように、経済のデジタル化が進むと、本来入るべき税収が消費国に入ってこないという問題が生じたのです。財政赤字に悩む各国にとっては大きな問題です。また先ほど述べたような競争条件の公平性の問題も生じています。

G20は2012年に、OECDに、このような国際的租税回避を防ぐ具体案作りのプロジェクトを開始し、先進国・途上国を含めて129カ国・地域まで拡大し議論してきました。
これまでのOECDの議論をまとめると、おおむね以下のようになります。

まず、どこに課税権があるのかという問題ですが、国境を越えるデジタル取引で定期的な収入を得るなど、消費国と継続的な関係を構築している場合には、消費国・市場国により多くの課税権を認めるということで、この点については合意ができそうです。

次に、課税権があるとして、どのように利益を配分するかという具体的なルールを作る必要があります。多国籍IT企業のあげる巨大な利益を、居住国・生産国と消費国・市場国の間で、どのように配分するのかというルールです。

この点については、例えばユーザーが、「いいね」ボタンを押すと相手側を評価したことになり、相手側の価値が上がるわけで、このようなユーザーの価値創造参加という点に着目し、ユーザー所在地である消費国・市場国に課税権の一部を配分するという考え方が提案されています。
また、顧客基盤づくりなどのマーケティング活動やブランド価値に着目して、消費国に利益の配分を認める考え方や、従業員・資産・売上・ユーザー数といった基準にそって配分すべきといったフォーミュラアプローチなどもあり、今後議論を詰めていくことになっています。

注目すべき点は、課税見直しの対象が、GAFAなど高度にデジタル化された企業だけでなく、伝統的なビジネスにどこまで及ぶのかということです。データを収集しAIを駆使して展開するIOTや自動運転など、経済活動の隅々にまでデジタル化が普及しつつある中で、デジタル経済だけを切り分けることがはたして可能なのか、ということです。

もう一つ大きな問題があります。それは、欧州各国が導入し始めている独自のデジタル課税との関係です。
フランス、スペインなどは、独自に売上税という形で、デジタルサービスに課税する準備を始めています。フランスは、19年1月から3年間、一定規模以上の売上げのあるプラットフォームサービスやオンライン広告に、売り上げの3%を課す税の法案を審議中です。
英国も、2020年4月から、プラットフォームサービスや検索サービスなどの売上げに2%の税率で課税する税を導入すると表明しています。
一方で欧州各国は、それ以前にOECDで国際合意ができた場合には適用しないこと、引き続きOECDなどの国際的な議論には参加していくことも表明しています。

こうした国々が売上税としたのは、相手国との合意が必要な租税条約に縛られずに、独自に導入できるためです。しかし売上税は、企業にとって、二重課税や赤字課税となるので、経済非効率の問題が生じます。また自国企業も負担することになるので、GAFAとの競争上の不公平は是正されないという指摘もあります。
これは、GAFAに課税するのか、それともGAFAのサービスを享受する消費者に課税するのかという問題でもあります。
 
厄介なのは、各国がばらばらな税を導入すれば、二重課税・赤字課税という問題だけでなく、これまで積み上げてきた国際的な協調行動が台無しになるということです。わが国は、G20の主要メンバー国として、米・欧・新興国の間での合意形成を目指す立場にあり、まずは合意に向けて議論を進めることが重要です。

一方わが国には、GAFAに次ぐプラットフォーム企業や、自動運転・IOTなどデータを活用してグローバルなビジネス展開を考えている企業も多く存在します。わが国としては、産業の将来像、自動運転やIOT産業の未来図を念頭に、国益を踏まえた合意を目指す必要があると考えます。

デジタル経済の健全な発展をつぶすことなく、各国が税収をあげて、適切に配分していくという大変困難な課題の解決が求められています。

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