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「知っていますか? コミュニティナース」(視点・論点)

Community Nurse Company 代表取締役 矢田 明子

皆さん、こんにちは。今日は「知っていますか?コミュニティナース」ということで、お話をさせていただきます。Community Nurse Companyの代表をしています、矢田明子と申します。10年前に私の出身の島根県のほうでコミュニティナースの活動を開始しました。

現在、色々な行政の方や病院のほう、それから場合によっては企業の方など様々な方に関心を持っていただけるようになりましたので、今日は、改めて皆さんに、コミュニティナースとはなんぞや、というお話と、具体的に広がっている活動、それからこれからの可能性についてお話していきたいなと思っています。

 最初にコミュニティナースとは、というところを皆さんに簡単にご説明したいと思っておりますが、こちらの図をご覧ください。

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右側に病院、それから訪問看護、これはお家に看護師さんが訪ねて行って治療をするような取り組みですけれども、これ、看護師さんて言われると皆さん、大体右側のイメージを持たれるんじゃないかなという風に思います。
 
病気になってから、ご自身の病気の治療のお手伝いをしてもらうような、そういう専門家ですね。今、日本に160万人ぐらいの働いている看護師がいますが、90%以上はこちらの黄色い枠の中で働いています。
コミュニティナースは左側ですね、地域看護と言われる分野から名前を活用していますが、地域の中で看護をしていく、皆さんの暮らしのまさに身近な場所で看護を使って活動をしていくところにコミュニティナースという言葉を使っています。こういうことをする、決まったことをするのがコミュニティナースというよりは、この枠組みの中で国民の皆さんがもっと元気で、安心して楽しく暮らしていけるような、そういう活動を看護の専門性を使いながら展開する、そういった概念として、この言葉を使っています。

 私がこの活動を島根で開始したのは10年前ぐらいになるんですけれども、なんで、わざわざ看護師さんを取ってからも町の中でやろうと思ったのかというと、ほんとに身近なところに1つ出来事あったのがキッカケになっていて、

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この次の写真、これが私の生まれ育った町ですけれども、「なぎらのタカさん」っていうのは私の父です、この写真、商店街なんですね。彼は55歳の誕生日ぐらいの時に病気になって亡くなってしまうんですけれども、病気になったら病院の中で受診して、色んな視点を貰ったりとか、自分の体への対処の方法などの情報を貰ったんですが、この商店街の中でそれがあってもよかったんじゃないかなという風に思ったんですね。
 なので私が看護を取ったら、まさにこの商店街の中に入り込んでいって、お父さんのような人と出会って、お節介にも「その症状は早く行こう」とか、親しい関係になって相談を受けたりとか、そういうことをやろうと思って開始した写真がこちらになっています。

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これは私がコミュニティナースの活動をやっているところの写真なんですけれども、こちらをご覧いただけますでしょうか、お魚屋さんの店員さんとして、この商店街に存在してみたりしています。
 これ以外にも喫茶店で存在したりとか、色んなことしてみたんですけれども、病院の中だとですね、病気の話を中心にしてもいいんですが、町の中で、じゃあ皆さんがどういう関わりを求めているかというか、基本的な明るい挨拶とかですね、「先週、お孫さんとお出掛けされたそうですがどうですか?」みたいな、そういう日常会話できちんと個人と個人として認識したりとか、繋がりを持って、そして、どうもこの明子ちゃんはお魚屋の店員さんもしてるけど看護師さんらしい、ということがちゃんと知っていただけて、「なんか困ったことがあったらまた相談してくださいね」って声を掛けておくとですね、関係性ができてると早めに相談してくださったりとか、「実はうちのおばあちゃんがさ、こういう症状があるんだけど、もう行ったほうがいいのかな」という、病院に行くまでもないんだけどという相談が始まったりとか色んなことが開始していきました。

 こういった町への存在の仕方というのは、看護の大学ではなかなか学ぶことができなかったんですね。私1人では活動の広がりに限界がありますので、色んな人とこのコミュニティナースの取り組みを広げたいなと思った時に、1つ大変参考にさせてもらったのが、島根県の中に雲南市という中山間地域がありまして、そこで行政が予算をつけて様々な町の課題を解決してくれる若者を育成する幸雲南塾という事業があったんですね。
 そこに私自身も受講生として参加しますと、町の普通の、さっきの商店街のおばちゃんのような人や、食事の分野の人、それから教育の人、様々な観点からコミュニティナースとして町に存在するんだったら、健康相談ですって書いて存在するんじゃなくて、まずはほんとに1人の町の町娘さん、魚屋のおねえちゃんとして存在しながら関わったほうが、よほど健康相談が必要な人に早くから出会っていけるんだよとかですね、そういう町の中への効果的な存在の仕方など、たくさん教えてもらったんですね。

 なので、コミュニティナースを育てていく時には、まさにこの幸雲南塾で身につけさせてもらったような視点、それから町の存在の仕方、結果的にどんな風に町の人と関係を築いた後に、「それは早めに受診しましょうね」とか、「そこを困っておられるんですね」というような聞き方をみんなに身につけてもらいながら広げていこうという風になったのが、今から2年半ぐらい前になりまして、実際にコミュニティナースプロジェクトという形で、そういった視点とか、実際の効果的な事例などを意思ある受講生の皆さんと共有するというのが開始されました。

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これはこのコミュニティナースプロジェクトの活動の様子の写真なんですけれども、ほんとに受講してくださっているのは北海道から沖縄まで、幅広く受講生が集まってくださっていて、140名以上の人が今、ほんとに実験的に暮らしの中に入っていって、町の人達と一緒にどういう存在の仕方をしようか、どういう関わりをすれば効果的なんだ、ということを本当に模索しながら今、広げています。

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 実際に広がっている事例もこちらにちょっと持ってきましたので、見ていただけたらと思うんですけれども、ガソリンスタンドのおねえちゃんとして関わって、挨拶をして、お客様と知り合っていって、実はこの人ナースらしいということもお客様が知っていって、ガソリンを入れるついでに相談をするとかですね、認知が広がっていくと、相談のためだけにガソリンスタンドに来られる方もいらっしゃるんですけれども、こういうモデルが広がったり、それからカフェの店員さんのような存在の仕方をしたりとか、町の市場の店員さんとして存在する、ここは全部共通してるんですが、病気になったからといって行く場所じゃないですよね、元気なうちからあたり前に皆さんがコーヒーを飲みに行ったり、ガソリンを入れに行ったり、そういうところに店員さんとして存在することで、挨拶をして知り合っていって、そしてナースであることも伝わっていって、早めに相談が開始されたりとか受診に繋がったりということが広がっています。

 こういう事例を見ていただくと、皆さんもお気づきかなという風に思うんですけれども、今までこういう医療の専門の者っていうのは、専門家がある種、自分達で作っていて、働きも医療保険や介護保険の枠組みの中で、お金が貰える範囲がここになっていましたので、そこで存在していたんですが、ガソリンスタンドや喫茶店や産直市といったように、全然、今までだったら医療と関係なかった人達がこのコミュニティナースという取り組みに共感をして、町の中に存在させてくださったりとか、売上げも含めてどうやって町の方にこの価値を認めていただいて、ナースにも部分的にお金が回るようにしたらいいんだろうかという風に、ある種、国民の方達が一緒になって考えてくださっているというのもこの活動の特徴なんじゃないかなという風に思っていますが、最後にもう1度、皆さんに、この活動の先に見ている可能性についてお話したいなという風に思っています。

 コミュニティナースは、繰り返しになりますが、特定の活動というよりは、暮らしの身近な場所でもっと皆さんが元気で楽しく暮らしていけるには、こんな活動があったらいいよね、こんな存在の仕方があったらいいよね、というのを看護の専門ももちろん使っているんですが、皆さんと一緒になって新しく作っているという、これがコミュニティナースの活動の特徴です。どうやってこれが当たり前に日本の中に広がっていくのかというのは、これから病院や行政の方ももちろんですが、国民お一人お一人の方や、その取り組みに共感してくださる企業の方達と、ほんとに具体的に広げていきたいなという風に思っていますので、ぜひコミュニティナース、知っていただいて、できればご一緒できたらという風に思っています。

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