「これからの女性の再就職支援」(視点・論点)
2019年05月22日 (水)
リクルートワークス研究所 主任研究員 大嶋 寧子
出産や育児、配偶者の転勤などを機会に仕事を離れたのち、再び働く女性が増えています。
しかし、これからお話するように、女性の再就職をめぐっては、今も問題が横たわり続けています。そこで今日は、「ためす」「つながる」「思い描く」の3つをキーワードに、女性が安心して仕事を再開し、生き生きと働き続けるための支援について考えます。
まず、女性の再就職をめぐってどのような問題が残されているのかをお話します。
1つめは、働く希望をなかなか実現できないことです。
全国の約5万人を追跡調査する「全国就業実態パネル調査」を用いて、夫や子供がおり、働きたいと考えている25~54歳の女性の2年後を確認してみました。すると、2年後に仕事に就いていた人は約4割に止まり、約2割は働く希望をもったまま、3分の1は働く希望をなくしました。仕事と家庭を両立できるかなどの不安があり、仕事に踏み出しにくいのです。
2つめは、再就職した後にふたたび離職する女性が少なくないことです。2018年に、3年以上仕事を離れた後、再就職した経験のある女性を対象とするアンケート調査を行いました。これによると、再就職した女性の約3割は、再び仕事を離れていました。なかでも再就職の最初の仕事で働く時間が長かった場合など、仕事と家庭の両立を難しいと感じやすい時に、女性が再び仕事を離れやすい傾向がありました。
3つめは、再就職したあとのステップアップが難しいことです。多くの女性は家庭と両立しやすい時間で再就職をしています。しかしその結果、再就職の際に過去の経験を生かせなかったり、その後も応募できる仕事の範囲が限られやすい状況にあります。
それでは、女性がスムーズに仕事を再開し、安心して働き続け、さらにステップアアップしていくために何が必要でしょうか。そのヒントを探るため、出産や育児などで仕事を離れた後に再就職し、現在は本当にやりたい仕事に就いたり、そのために準備を行う女性たちにインタビューをしました。
そこから見えてきたキーワードの一つが、「ためす」です。多くの女性は働きやすい時間で仕事を再開したあと、未経験の仕事をためしながら、家庭と仕事の両立に慣れたり、自分の強みを再発見したり、本当にやりたい仕事を見つけていました。
会社で必要とされるスキルや仕事の内容は、日に日に変化しています。あらかじめ自分にぴったりで、長くやっていける仕事を見つけるのは、誰にとっても難しいものです。そうであるなら、再就職の最初から理想の仕事につこうとせず、しばらくは「キャリアのおためし期間」と考えて、少し興味がある仕事をためしてみることが、働くことへの自信を取り戻したり、本当にやりたい仕事をみつける近道になるのかもしれません。
もう一つのキーワードが、「人とつながる」です。インタビューを行った女性の話には、しばしば「人」が登場します。その形は様々ですが、共通しているのは、人と新たに接することで、新しい考え方や次の行動のヒントを手にしていることです。例えば、ある女性は、仕事を再開したあとに、家庭も仕事も思うようにいかず、この先にどうしたいかが分からなくなったと言います。そんなとき、勇気を出して女性支援のセミナーに行き、そこで聞いた少し先をいく女性の話を自分なりに実践しながら、挑戦の幅を広げていきました。この女性は現在、人材サービスの企業で正社員として経験を積みながら、自らも女性を支援する団体を運営しています。
最後のキーワードは「思い描く」です。インタビューした女性の多くは、仕事をする中で見付けた「こんな働き方・仕事をしてみたい」という思いを、次の仕事や学びのきっかけとしていました。自分の心の声に耳を傾け、少しでも「こうしたい」「こうありたい」と思い描いていれば、今無理なくできることを見つけたり、次のチャンスが来た時に手を伸ばしやすくなるのだと思います。
このような3つの行動は、より多くの女性にも当てはまるのでしょうか。再就職した女性へのアンケート調査から、3つの行動と現在のキャリアの関係を見てみました。
すると、調査の時点で本当にやりたい仕事に就いているか、これからの仕事について見通しや準備をしている人の割合は、「ためす」「つながる」「思い描く」の3つの行動を全て行っている女性で約6割に上ったのに対し、1つも行っていない人では約3割にとどまりました。再就職したあとの3つの行動は、女性のキャリアとかかわりを持つ様子が伺えます。
これまで地方自治体などによる女性の再就職支援は、女性が「仕事に就くこと」を主な目標としてきました。しかし、これまで見てきたように、再就職を希望する女性が不安を抱いているのは、再就職した後の生活や仕事です。また、再就職した後の行動は、女性のキャリアと関りを持つ可能性があることも確認できました。
そうであるならば、これからの女性支援は、「再就職した後」を見据えた内容としていくべきです。そのための方法として、女性向けのセミナーで再就職後しばらくの間を「キャリアのお試し期間」とする考え方を紹介することや、女性が仕事を再開しやすい1日2~3時間の仕事を地域に作り出すことが考えられます
実際にそうした仕事づくりに取り組む地域があります。
例えば三重県鳥羽市では、1日2~3時間の仕事を地域に生み出すことで、これまで仕事に就くことが難しかった女性や高齢者と、人手不足に悩む地元企業をつなぐ取り組みを行っています。市がアドバイザーとともに、事業者への聞き取りを行い、業務内容の分解を提案しながら、短時間で始めやすい内容の仕事を作り出しているのです。それと同時に、短時間の求人を掲載したカタログを作成し、仕事内容の発信を行っています。
再就職した女性がステップアップできる機会を作ることも必要でしょう。たとえば、短時間で始めた後、本人の希望や意欲に応じて、働く時間や担当する業務の範囲を広げられるような仕事や、フルタイムで働けなくても、研修や配置の見直しなどを通じて、成長できる機会がある職場を増やことなどが考えられます。
さらに、女性が人とつながりながら、これからの仕事や人生を思い描ける機会を作ることが大切です。そのような場づくりの例として、北海道釧路市で行われている女性の就職支援講座についてご紹介します。
全20回の講座を通じて参加者は、キャリアカウンセリングを受けたり、これからを考えながら、自分達で学びたいテーマの講座の企画をします。参加者は同じ経験や希望を持つ女性とのネットワークを作れるだけでなく、アフタースクール制度によって講座が終了後もしばらくの間、仕事や生き方について相談ができます。講座終了後も相談できる場があることで、受講者が次の行動に踏み出しやすくなっているそうです。
これまで「ためす」「つながる」「思い描く」の3つをキーワードに、女性が安心して仕事を再開し、生き生きと働き続けるための支援について考えてきました。そこから見えてきたように、仕事を離れていた期間がある女性が、希望する仕事に近づく道筋はちゃんとありますが、その道筋を歩みやすくする支援が必要です。より多くの地域で、再就職した後を見据えた女性支援が行われることが望まれます。