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「増える成人のアレルギー」(視点・論点)

アレルギー専門医 福冨 友馬

最近の調査では日本人成人の二人に一人が何らかのアレルギー疾患をもっているということがわかっています。
 気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎は3大アレルギー疾患と言われ、生活環境の近代化に伴って世界中で増加してきた病気です。一方、最近10年ぐらいで特に増加し社会問題になっているのは食物アレルギーです。私は10年以上内科医として、成人の食物アレルギー患者さんを診療してまいりました。今日は成人の食物アレルギーにフォーカスを当てて成人のアレルギーの現状についてお話ししたいと思います。

 食物アレルギーといえば、小児の卵、牛乳、小麦などのアレルギーを思い浮かべることが多いと思います。しかし、成人になって新しく発症する食物アレルギーも決して珍しくありません。しかも、こどもの食物アレルギーと比較すると、成人発症のものはその原因の食物、症状などが大きく異なっています。

成人の原因食物はどんなものが頻度が高いのでしょうか。

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私が診療しております相模原病院での成人の食物アレルギー患者さんの原因食物を見ると、最も頻度が高いのが果物・野菜で、次に多かったのが小麦、甲殻類でした。ここで重要なのは、こどもの原因アレルゲンとして重要な卵や牛乳は成人の原因としては頻度が低いということです。

食物アレルギーでは通常、原因食物を食べた後2時間以内に、じんましんやかゆみなどの皮膚症状、咳、呼吸が苦しいなどの呼吸器症状、腹痛、吐き気、下痢などの消化器症状、血圧低下などの症状が起こります。これが普通の食物アレルギー症状です。しかし、成人の食物アレルギーでは、誘発される症状にも特徴があります。

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成人では、OAS、FDEIAという症状の出方になる患者さんが比較的多いです。OASはoral allergy syndrome口腔アレルギー症候群の略称で、食べ物を食べた後、くちびるがはれる、のどがかゆいなどの、口とのどに限られた症状が出ることを言います。FDEIAはFood-dependent exercise-induced anaphylaxis 食物依存性運動誘発アナフィラキシーの略称で、原因食物を摂取しただけでは症状は起こらず、原因食物を摂取した後運動した時にのみ症状が起こることを意味しています。

さらに成人の食物アレルギーの特徴の一つとして、その発症のメカニズムが多様性に富んでいるという点も挙げられます。一般的には、食物アレルギーは、食物を食べているうちに、腸の粘膜を介して食物アレルゲンにさらされて、だんだんアレルギーになっていくものだという認識をされてきました。しかし、大人でこのような食べることによって発症している人は全体の半分程度で、残りの半分は食べること以外の様々な要因で食物にアレルギーになります。
食べること以外のことが原因となる発症パターンの代表が、先ほど成人では最も頻度が高いとご説明した果物・野菜アレルギーです。これは、決して果物・野菜を日常的に食べているから発症するわけではなく、その発症の原因は花粉アレルギーであることが知られています。
成人の果物・野菜アレルギーの原因は、花粉症の原因アレルゲンと形の似ているアレルゲンが果物・野菜の中にも存在することにあります。ヒトの免疫は形の似ているアレルゲンを区別できないことがあります。ですので、花粉アレルギーの患者さんの一部が、花粉と区別できずに果物や野菜に反応してしまいます。

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例えば、毎年カバノキ科花粉を吸った結果、カバノキ科花粉アレルギーを発症した患者さんの一部が、同時にカバノキ科のアレルゲンと似たアレルゲンをもつリンゴにも反応するようになります。そして、リンゴアレルギーを発症します。このような現象を花粉食物アレルギー症候群と呼びます。

この例のように、皮膚や鼻や目の粘膜にアレルゲンが入ってきて、結果的に食物アレルギーの発症の原因になるという例が他にもたくさんあります。

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昔から有名な事例が、ラテックスアレルギーです。医療従事者の間でラテックス手袋の使用で、ラテックスアレルギーになり、ラテックスアレルゲンと似たようなアレルゲンをもつ、クリ、アボカド、バナナなどの食べ物でも食物アレルギーを生じるようになるという病気があります。
また、洗顔石鹸中の添加物の小麦成分に、皮膚や鼻や目の粘膜を介してアレルギーになった結果、小麦アレルギーを発症してしまう事例が多数報告され、2011年ごろに大きな社会問題になりました。残念なことに、その成分が(旧)茶のしずく石鹸という大人気商品に含有されていたために、2000人を超す被害者を出すという大事故につながってしまいました。
調理師や食品加工業のかたは、頻繁に同じ食物を触ったり、食物をボイルした蒸気を吸入したりするため、皮膚や粘膜を介して食物にアレルギーになり、最終的にその食物を食べてもアレルギーを発症することがあります。特に、手荒れがあるかたは、手の皮膚のバリア機能が低下していますので、毎日手の皮膚を介して同じ食物アレルゲンにさらされることにより、その食物にアレルギーになりやすいです。
このような食べること以外のことが原因で食物アレルギーを発症している人は、例えば原因になった化粧品を使用しないなど、発症の原因となったアレルゲンにさらされないようにすることによって少しずつ食物アレルギーが良くなっていくことがあります。ですので、患者さん一人ひとりの発症の原因を突き止めることが、食物アレルギーへの対策を講じるうえで非常に重要になります。

最後にアレルギーの診断を受けるときに、注意する点についてお話します。
アレルギーの原因を特定するために行う検査として、医療機関で最もよく行われる検査は、採血を行いどの食物にIgE抗体というアレルギーに関わる抗体の反応があるか調べる検査です。この検査は採血を行うだけで調べられますので、非常に役に立ちますが、その検査結果は完全には実際の症状と一致しないことがあるので注意が必要です。

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血液IgE検査が陽性で、本当にその食物で症状があるのであれば、アレルギーと診断して、その食物は除去の対象になるというのが原則です。しかし、血液検査は陽性でも症状は誘発されてないこともあります。検査が陽性でも間違いなく症状がないのであれば、それはアレルギーとは診断しませんし、除去の対象にはなりません。一方で、間違いなく症状があるのにも関わらず血液検査は陰性であることがあります。その場合は、検査を他の方法でやり直したりもしますが、やはりどのような検査を行ってもIgE反応が示されない場合があります。このような場合でも症状を起こす食物は除去の対象になります。
このように食物を除去するかどうかは検査結果ではなく、最終的には、本当に症状があるかどうかで決定します。血液検査が陽性というだけで、症状がないにもかかわらず食物を除去すべきなのだと勘違いされているケースは非常に多いので、その点は注意が必要です。

 今日は、成人の食物アレルギーについてお話しさせていただきました。アレルギーは子供の病気と思われていることが多いですが、アレルギーは成人にも発症し、症状や原因も子供とは大きく異なっています。成人のアレルギーは、個々の患者さんの長年にわたる様々な生活習慣を反映していることが多いので、原因を突き止めることが難しいことも多いです。今日は、これまでにわかっていることをお話ししましたが、まだまだ分かっていない病気や治療法もたくさんありますので、今後も研究を続けていく必要があります。

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