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「無理なく 楽しく ごはん作りを」(視点・論点)

料理研究家 コウケンテツ

料理研究家のコウケンテツです。
本日は世界各国の旅で学んだ「日々のごはん作り」についてお話しさせてください。

平成17年6月10日、第162回国会で食育基本法が成立し、同年7月15日から実施されました。以降、積極的に食育活動に取り組まれている自治体、学校、園の関係者の
みなさまが確実に増加していると実感しております。とても素晴らしいことですね。

以前、脳科学の専門家の方と雑誌で対談をさせていただいたことがありまして、
先生こんな風におっしゃっていました。「料理は脳に良いんだよ」と。
それはどういうことか? まず献立を考える。そして必要な材料をリストアップ。買い出しに行き、料理を作る。この一連の流れは非常に多彩な能力が求められます。

それぞれの料理、野菜によって違った下処理が必要になる。ゆで時間、煮る時間、火加減、味付けなど考えながら、それらを同時進行で調理していかないといけない。。。段取りが大事。時間の管理プラス数学的思考も必要になるのです。しかも料理しながら使った調理道具を洗い、拭き、片付ける。お茶碗やお皿の準備も並行して行わないといけない。さらに使い終わった残りの材料を保存袋に入れて冷蔵庫にしまう。冷蔵庫の中も整理しながらの作業になるので空間的なセンスもいる訳です。さらにいきなりピンポーンと宅配便が届いたり、お隣さんが回覧板を持ってきたり。。。こういう時はとっさの対応力も問われます。我が家の場合は、1歳半の娘をあやしながらですからね!大変です。料理が完成したら美しく盛り付け。美的センスも養われる。
まさに脳がフル回転!!この状況を脳センサーで測定したら前頭前野真っ赤ですよ。でも改めて考えるとやっぱり日々のごはんづくりって本当に大変ですね。

そしてこの料理を作るという作業。子供にとっては、創造性、協調性が育まれ、自信もつき、脳の成長と発達を促してくれます。ジャガイモの皮をむく、4等分に切る、無理に一品全ての作業をこなす必要なんて全くない。むしろ1工程で十分です。お互い疲れますしね。できる範囲でお子さんに料理を作る楽しさを体感させてあげてください。

さて、これを見ていただきたいのですが、、、。

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去年フランスにロケに行かせていただいたときに撮った、パリのあるご家庭の朝食です。バゲットにバターとジャム塗っただけ。これが典型的なパリの朝食。ほとんどのご家庭がこんな感じです。子どもにいたってはシリアルで済ませるケースが多かったですね。平日は自宅であまり料理をしないご家庭が多いのです。かなり衝撃でした。
しかしそれには理由があります。フランスの女性の就業率は80〜85%以上だと言われています。
ほとんどの方がお仕事をされているのですね。フランス語でengagéと言う言葉があります。積極的に参加することという意味ですが、特に政治、社会参画することの意味合いが強いようです。主婦の方も積極的に社会活動をされる方が多く、とにかく時間がない。
取材先の女性に聞いたのです。「栄養バランス心配じゃないですか?」と。こう返されました「あら、そう? わたし全然時間がないんだけど、じゃ、誰が作ってくれるの?」と。基本的に「家族が、人が、社会が幸せになるには、まず自分自身が幸せにならないと」という考えが根底にあり、だからこそ決して無理しない。だからこそできる範囲で家族やパートナーで協力し合い、ごはんを作って食べる姿がとても印象的でした。
 
「食卓をつくる」という言葉があります。世界的に見ても日本を含む東アジアではまだまだ女性の役割なのだという印象が強いです。わたしが海外ロケで多くのご家庭で取材させていただいたときに見た光景は、「食卓はみんなでつくる」ということ。それは例え他のアジア地域の山奥でも、ヨーロッパの大都市でも変わりありません。

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 写真はラオスのビエンチャン郊外にお住いのお宅にホームステイさせていただいた時のものです。この44番のお父さん。魚の養殖と野菜の栽培のお仕事をされている陽気な働き者のお父さん。お母さんが魚を揚げている間、食器の洗い物をしているのですよね。ラオスには食べ物は皆でシェアするという考え方が根本にあり、尊い行為をされています。
 お父さんは言います。「苦しみも楽しみも良いことも悪いことも全て分かち合うのが家族。家事も料理も当然分かち合うのがうちのルールだよ」と。「お前ももううちの家族なのだから、美味しいごはんとお酒を分かち合おうぜ!」って。チャーミングで素敵なおやっさんなんです。ご恩は一生忘れません。

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他にはヨーロッパ各国では、基本的に料理をしない人がテーブルに食器を並べ、食べ終わったら片付けをするご家庭が多かったです。小さなお子さんが一生懸命テーブルセッティングをする姿はとても可愛くて。パパがさ〜っと食器を下げて洗い、ママはテーブルでゆっくり、、、なんて光景もよく見ました。最高ですよね!
 
 デンマークにロケに行ったとき。取材先のお宅でママが「昨日の晩御飯はパパが作ってくれたのよ」と。何を作ってくれたのかを聞くと「宅配ピザ呼んでくれたの〜」と。ここのお宅ではパパがピザを呼んだだけで、晩御飯はパパが作ったことになる。ハードル低っ!!
 日本の家庭料理は見た目、味、栄養バランス。どれを取っても世界的に見ても最高だと思っています。でも毎日きっちり作るにはちょっとハードルが高すぎじゃないですか!? ぶっちゃけ、そんなに一生懸命ごはん作らなくてもいいのでは? なんて最近思ってきたのですよね。。。

 確かに心のこもった手作りのごはんは大切です。家庭での食育も大切。ただ、社会は大きく変わりつつあります。そんな中日々の献立作りは本当に本当に大変!
最近、料理が苦手だという女性からこんなお話を聞きました。一生懸命考えて頑張って作って料理を出しても、味が濃いだの薄いだの、レパートリーがないだの文句を言われる。つらいです、と。
また、「家で料理をする時間がない、美味しい料理を作ることができないというのは、女性が怠けているだけだからね」と言っている男性がおられました。
もうね、聞くだけで、なんだろう。胸が苦しくなりますね。こんな毎日まさに生き地獄です。苦しさしかないです。ひょっとするとスポーツの世界や芸術の世界なら、この苦しいトレーニングの先には新記録が! この産みの苦しみの先には斬新なアイディアが!という面があるかもしれませんが、ことおうちでのごはん作りに関して、苦しみの先には何も生まれないです!

 毎食手作りじゃなくてもいいじゃないですか。むしろ何を食べるかよりも誰とどんな風に食べるか。
 スーパーのお惣菜、インスタント、冷凍食品などもうまく利用したらいいんですよ。ハレの日には外食に行ってもいい。そして気持ちに余裕ができたら、おうちで手作りのごはんにしようか!と。やっぱりおうちのごはんっていいよね、てなれば最高ですよね。

そんな風に全ての方が、ごはん作りを手軽に無理なく楽しめる環境になることを切に願っております。その際、ごはんを作らない方はテーブルセッティング、後片付け、是非お願いいたします。そして出されたものはなんでも美味しい美味しいと言って食べてね。

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