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「所有者不明の土地をどうするか ~鳥取県日南町の取り組みから~」(視点・論点)

鳥取大学 准教授 片野 洋平

昨年11月に所有者不明土地の法律が施行されました。日本全国で、管理がなされないまま放置される山林、耕作が放棄されている農地、居住が確認されない家屋などの問題が顕在化しつつあると言われています。最悪の場合、誰のものかわからない土地が増えることから、最近では所有者不明土地の問題として国内では着目されつつあります。これまで、私は、都市よりも、過疎と呼ばれる地域社会において放置される山林、農地、家屋の問題に焦点をあて研究を行ってきました。
本日は第一に問題の背景について、第二に研究の成果について、そして最後に鳥取県日南町の事例から対策と課題について考えてみたいと思います。

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日本の地域社会には、管理されないまま残された山林、農地、家屋などが数多く存在します。これらの土地の所有者は多くの場合都市に住んでいることから、不在所有者と呼ばれます。地域社会に生まれた者が、高校や大学への進学を期に、都会へでかけた後、親が亡くなったため、結果的に地域社会に土地を所有することになる、というのが不在所有者の典型的なパターンとなります。
放置される山林、農地、家屋は、そのまま放置しておくと、災害を誘発し、生態系に対する被害を与えるなど様々な影響を与える可能性があります。また、放置され、継承が行われていない資産は、後から所有者を探す行政側のコストが膨大になります。

これまで私は、都市の不在所有者に多くのインタビューを行ってきました。それによれば、次のような悩みを抱えていることがわかってきました。

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・所有する財に対し毎年税金を払うのは大変だ
・息子・娘も都会暮らしで、今後継承者はいない
・買い手がないので売れない
・国や村に引き取ってもらいたい
・所有権を放棄したい

 視聴者のみなさまの中にも不在所有者にあたる方は数多くいらっしゃるのではないでしょうか。
私は、地域に資産を残している不在所有者はどのような資産を有し、どのような悩みを抱え、どうしたいのかを明らかにする研究をしてきました。その際、山林、農地、家屋など、特定の資産に着目するのではなく、放置された資産という枠組みから新たに「放置財」という概念を使って研究をしてきました。地域社会では、家屋があれば農地がある、というように、同時に複数の資産を有することが多いからです。
 
これまでの調査や分析を通じて次のような傾向があることがわかってきました。

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重要なものだけとりあげますと、まず、所有する資産は小面積で、複数の資産を同時に所有している場合が多くなっています。特に山林については、家屋や農地に比べて適切に管理されていない場合が多くなっていました。さらに、分析を行ったところ、資産の面積が小さかったり、地域との交流や愛着が減ると、所有者の資産管理意識は薄れることが分かってきました。今後、不在所有者が高齢化し、地域社会との交流が薄れれば多くの資産が放置されることが予測されます。

では、こうした不在所有者の資産問題をどのように解決していけばいいのでしょうか?
もちろん資産ですから、売ったり買ったりできれば、それが一番よいと思います。しかしながら、過疎地域で土地を買おうという人はなかなかいません。
では、国や自治体に譲れば済むのではないか、という意見も聞かれます。しかし、現時点では、国や自治体は、公共性の低い土地は引き取りません。

こうした中、過疎自治体の一つである鳥取県日南町では、従来とは異なる視点から山林のみについて寄付を受け入れる事業を展開しつつあります。

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鳥取県日南町の事例は、包括的な視点で寄付を受け付けようとする姿勢に特徴があります。
例えば、無償で譲り受けた山林を有効活用し林業振興を図るという視点のほかに、ひとたび地域を離れた者であっても、共同体の一員であるという共同体的な責務に応えるという視点や、今後発生する放置資産の所有者探索コストを未然に抑止するという視点、また、放置された資産による災害発生を未然に防止するという視点、水源かんようなど環境保全を図るという視点など、現時点での経済性や公益性をやや拡大的に解釈して、共同体的な責務や将来生じるコストをあらかじめ見込むなど、様々な視点が盛り込まれています。

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現時点では寄付希望者を選出し、寄付希望者がいくつかの条件を満たしていることを確認して、試験的に山林資産の受け入れを行っています。今後は課題の改善を行い、順次その他の寄付希望者の山林を受け入れていく予定です。

不在所有者の資産を寄付してもらうという方策は、所有者不明土地の問題の解決においても有効な手段の一つとなりえます。しかし、課題も数多く残っています。

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具体的には、
・寄付された山林が小面積である場合、経済的利益に結び付かないこと
・山林資産が共有である場合、難しい手続きや費用が発生すること
・現地の確認の作業にも膨大な労力や費用が発生すること
・継承者が自分の資産であることを確かめることが難しくなっていること
・山林資産だけを寄付しても、家屋や農地は今後も残ること

日南町が行う寄付政策には課題や困難も多く根本的な解決にはほど遠いのですが、地域が率先して取り組める策の一つとして、町ではこの政策に前向きに取り組んでいます。

さて、地域社会で放置された資産について、その問題点と対策についてお話をしてきました。所有者側も対策を取りたいのですが、売り手もいない、国や自治体も引き取ってくれないこともお伝えしてきました。鳥取県日南町の取り組みを通じて、とりわけ、地域社会の山林を中心とした放置資産について、私から提示したい論点は3点です。
第一に、所有者自身の意思により行動がとれるような選択肢を増やすべきだと思います。それが売買であっても寄付であってもよいと思います。本課題の背景には、所有する土地への個人の管理意識や責任が経済的価値と共に失われていくことにもあると思われます。この問題を通じて、私たち自身が、土地を所有することの意味や責任について、今一度考えるきっかけになればと考えます。

第二に、地方の創意工夫や個人の考えが生かされる余地があってもよいと思います。所有者不明の土地の問題の対応策について、現在政府や有識者が盛んに議論をしています。この過程では、地域の考えや所有者個人の考えが不在になりがちです。地域独自の取り組みや所有者自身の考えが生かされることを期待しています。

最後に、所有者不明の土地をなくしたあと、その土地をどうやって維持あるいは活用していくのか、その方策についても議論をすべきだと思います。経済的発展ばかりではありません。自然に負荷を与えないような森林のあるべき姿を、自然科学者や一般の方々の考えも交えて議論していくべきだと思われます。
所有者不明の土地問題に対する議論や対策ははじまったばかりです。ぜひ視聴者のみなさまにもこの問題について関心をもっていただけると嬉しく思います。

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