NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「地球温暖化への適応」(視点・論点)

京都大学防災研究所 教授 中北 英一

最近は、災害が発生するたびに、地球温暖化の影響が出だしているのではないか?と皆さんは思われているのではないでしょうか? 地球温暖化の影響を受ける時代では、今までの常識が通用しなくなります。異常に暑い日が続く、秋なのにまだ温かい、よく豪雨が起こるようになった、たくさん降るようになった、強く降るようになった、こんなところでも、などと思うようになり出すことは、地球温暖化の影響がじわじわと忍び寄ってきている可能性が高いのです。もちろん、皆さんが忘れていただけかも知れません。したがって、温暖化の影響かどうかは科学的にしっかりと調べないといけません。

もし温暖化の影響だとしたら、まだまだ大丈夫だろうと私達が思っているよりも速く温暖化が進行します。後悔しないよう今からの対応が必要になります。治水の基礎体力を向上させて、また自助・共助としての防災力も高めないといけません。これを温暖化に対して「適応」すると言います。
適応を考えるためには、過去の災害からの教訓に学び、科学的な温暖化後の将来予測に基づいて、今後を考えて行かないといけません。

s181203_01.jpg

 科学的な温暖化予測は、気象の物理法則をスーパーコンピュータで計算することによって実現されています。この写真のように、21世紀末での低気圧や高気圧、台風や梅雨前線の振る舞いが描き出されます。
その結果、我が国の台風や梅雨への温暖化の影響として次のようなことがわかってきています。
まず台風ですが、大きな河川流域、ここで流域とは降った雨が下流に出てくるその受け皿になるエリアのことですが、そのエリアが大きな河川流域でも洪水を起こしかねません。あちこちで深刻な土砂災害をもたらしますし、高潮・高波による浸水や強風をもたらします。
21世紀末にかけて、日本に台風が到来する回数が減るとは予測されていますが、やって来る台風は、中心気圧が低い強力なスーパー台風である危険性が高いと予測されています。大型化というよりは強力化するのです。

 一方、梅雨豪雨は、中小河川の氾濫や深刻な土砂災害をもたらします。将来的には、集中豪雨がおきる回数や地域が増えること、7月上旬・8月上旬で増えることが予測されています。

<VTR>
この映像は、スーパーコンピュータにより描き出された21世紀末7月上旬の梅雨豪雨の姿です。地球平均気温が産業革命以来おおよそ4度上昇する場合の21世紀末のシミュレーション結果です。20年間の集中豪雨をこの映像からピックアアップしたところ、この図の赤点のようになり、北海道や東北でも集中豪雨が発生しています。現在に対する結果がこれですが、全国至る所で増えていますし、日本海側や瀬戸内海でも増えていることがわかります。また、同じ時間内で総雨量も増えるとも予測されています。南からやってくる水蒸気量が温暖化によって増加することが大きな原因だと考えています。
また、集中豪雨の将来変化の影響で、治水の基準となるべき河川流量が全国で増大すること、そのためこのままではダム操作の有効性が変化すること、斜面崩壊の危険性が増大すること、高潮・高波が主要湾で悪化することなどが予測されています。

次に、今年の災害を振り返りましょう。
7月上旬の西日本豪雨の特徴は、梅雨前線が数日間停滞したことにより、梅雨豪雨としては珍しく、長期間にわたり、しかも広い範囲で膨大な総雨量がもたらされ、それによって西日本一帯の多くの山腹斜面・河川流域・ダム貯水池が満身創痍(まんしんそうい)な状態になったことにあります。そこを、西から東に「次々と通過する線状の雨域」がもたらした降雨が、トンカチでたたき続けるように斜面崩壊、洪水、ダムの緊急放流などの被害や影響を発生させました。また、なぜ逃げることが難しいのか?という、情報伝達のあり方など避難に関する、多くの検証すべき視点ももたらしました。一つの豪雨災害として亡くなられた方が200人を超えたのは、昭和57年の長崎大水害以来のことで、本当に甚大で悲しい災害となりました。
今申し上げました「満身創痍」とは、山の斜面などが雨で満杯になっていて、さらに降雨が少しでももたらされると土石流・斜面崩壊・崖崩れ・河川洪水が生じやすい状態のことを表しています。満身創痍にした多量の長雨は、多量の水蒸気が海からもたらされたことが大きな原因です。昭和47年にもやはり梅雨前線が停滞して全国で土砂災害などが発生しました。梅雨前線の停滞そのものは必ずしも温暖化で増えるわけではありませんが、入ってきた水蒸気は今回の方が格段に多く、将来はより珍しくなくなると予測しています。

一方、9月4日に近畿地方を通過した台風21号は、高潮・高波災害と強風災害をもたらしました。
大阪での瞬間最高潮位は第2室戸台風がもたらした潮位を超えて史上最大で、治水の基準となる潮位にあと30数cmところでした。このように高潮で満身創痍である大阪湾を、高波がさらに襲いました。その中、室戸台風、ジェーン台風、第2室戸台風を経て設けられた水門の威力が初めて示されました。災害対応に当たっていた人は、その効果がぎりぎり発揮されている姿に震えが止まらなかったそうです。この極端な高潮潮位は世紀末にかけて、台風の強力化や海面上昇によってさらに高くなると予測されています。

s181203_02.jpg

さて図の赤線は、豪雨などの災害を起こす力、青線は治水対策などでそれに対応する力、すなわち適応する力を表しています。
戦災で国土が満身創痍であった時代から、まだ目標に100%至っているわけではありませんが、着実に一歩一歩治水対策が進められてきました。それにもかかわらず、今年の災害は「戦災での満身創痍」を私に思い出させました。温暖化でゴールがさらに遠のくという科学的な予測があるからです。すなわち、満身創痍にならないよう、温暖化への適応として、ハードを含め治水の基礎体力としての「治水力」を上げていく必要があると、愕然と認識させられました。

温暖化による影響はすでに出初めていますし、さらに大きくなるものと、私達は科学的にそう考えています。今十分な温室効果ガスの削減が実現できたとしても、残念ながら影響はなくなることはありません。たとえば、災害の際には、国、都道府県、市町村、消防団・水防団、そして自治会、住民の皆さんが、人の命を守るためにぎりぎりの有事対応をしてこられています。このような「しんどい対応」をしなければならない事例がじわじわと増えます。ではどうすればよいでしょうか?私達はそれに対応する力、すなわち適応力を上げていかないといけません。
12月には温暖化に対する「気候変動適応法」が施行され、国や地方自治体は法的にあらゆる温暖化適応を進めることが求められます。国は治水の基礎力としての基準をどう見直すべきかの検討も始めています。それと平行して、共助・自助も適応して行く必要があります。
科学的な将来予測を基軸に、治水の基礎体力を上げて行くこと、それと同時に国土や地域の計画の変更、新しい街づくり、そして防災教育や避難の高度化によって、総合的に水害に対する防災力をあげてゆくという総合的な適応が今求められています。





キーワード

関連記事