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「車社会が大きく変わる」(視点・論点)

自動車ジャーナリスト 清水 和夫

日本最大手のトヨタが衝撃的な発表をしました。
一定料金を払えば、一定期間、様々な車種の車を自由に乗り換えられるという「定額方式」を導入するというものです。
これは今までの自動車の概念を大きく変えるものです。自動車は「所有」から「利用」へと全く新しいステージに踏み込もうとしています。

最近世界の自動車の関係者の間で注目される言葉があります。それは「CASE」と「MaaS」という言葉です。これは次世代の自動車技術だけでなく、多くの人が利用できる多用な移動サービスを意味しています。この2つの技術やコンセプトが社会を大きく変えようとしています。それではもう少し詳しく「CASEとMaaS」を説明したいと思います。

 まず、「CASE」ですが、Cはコネクト=繋がること、Aはオートパイロット=自動運転、Sはサービス&シェア=共同利用やサービスのことを意味しています。そして、Eは電動化です。こうした新しい技術やシステムが同時多発的に革新しているのが、現在起きている出来事です。このCASEを産業として見ると、従来からある自動車産業とコンピューターに長けたIT産業がお互いに手を組まないと新しい社会革新が実現できないと思います。

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 ところで、CASEの中身を単独で見てみます。
まずCのコネクトですが、例えば日本は高速道路の料金を自動で徴収できるETCが4千万台以上も普及しています。
これは狭義の意味ではクルマとインフラが通信でつながっているわけです。つまり路車間通信ですね。また、交通情報やクルマ同士をつなげて渋滞情報を提供するサービスも日常的に利用されています。

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 Aはどうでしょうか。まだ自動運転の実用化にはもう少し時間が必要ですが、現在はサポカーと呼ばれる被害低減緊急ブレーキなど、運転の一部の機能を自動化する技術がすでに普及しています。さらに高度なシステムでは歩行者を検知し、注意喚起したり、自動でブレーキを介入したりします。カメラで白線を認識し自分の車線を維持するシステムも実用化しています。ここまではドライバーが運転責任を負うレベル2というカテゴリーになりますが、その先はいよいよ自動運転の世界となります。ドライバーが関与しないでシステムだけで完結するシステムをレベル4と定義していますが、レベル2と4の間にレベル3が存在します。
 システムが自動で運転できる条件を超えると人に運転を代わります。そのとき、安全運転の権限と責任がシステムから人に代わります。しかし、いかなるケースでもリスクをミニマムに設計できる自動車の安全性が求められています。

 Sはどうでしょうか。あまり馴染みがないかもしれませんが、最近はクルマを所有しないで、必要に応じてクルマを借りたりするユーザーも増え、カーシェアという新しい概念が生まれています。
おそらく公共交通と個人が所有する自動車の概念が代わり、自動車の一部はセミパブリック的な意味でのシェアカーとなるかもしれません。そんな時代を展望すると、自動車の差がなくなり皆同じようなものになってしまうのではという心配や自動車が売れなくなるという不安もつきまといます。
 しかし、ドイツのある都市ではシェアカーが普及したことで、町の中を走る自動車の台数が減り、渋滞・騒音・あるいは排気ガスが減ったと市民は好意的に考えています。短期的には自動車の販売台数が減るかもしれませんが、増えすぎた自動車の台数を最適化することはむしろ歓迎すべきではないでしょうか。

 最後のEの電動化ですが、これこそ日本ではすでに20年も前からハイブリット車が普及し、電動化というよりもハイブリットの名前でよく知られています。しかし、最近はハイブリットではなくバッテリーだけで走る電気自動車への期待が高まってきてます。各メーカーが必死になって研究開発を進めています。

多くの人が将来は電気自動車になってしまうのではないかと考えがちですが、実際は2050年になっても、まだエンジンは利用されます。電気モーターとエンジンを組み合わせたプラグイン・ハイブリットも普及するでしょう。バッテリーだけで走るというのはバッテリーの素となるリチウムのような資源の限界もあるからです。なによりも電気は一次エネルギーではないので、どこから電気を作るのか考える必要があるでしょう。電気の作り方を間違えてしまうと、かえって二酸化炭素は多く排出することになってしまいます。

 しかし、化石燃料を燃やすエンジンがないため、排気ガスがゼロとなり、しかも騒音もないために、都市部ではむしろ歓迎される自動車になると思います。一方で郊外を高速で長距離移動するには、やはり従来のエンジンを進化させたほうが結果的に環境には優しいと思います。バッテリーとエンジンをうまく使い分けて、一次エネルギーを無理なく再生可能なエネルギーにシフトする、そんな戦略が必要かもしれません。もちろん電動化する自動車の中には水素を燃料として使う水素燃料電池車も有力です。

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 CASEをすべて備える自動車が数年後には登場しそうです。私の予測では街の中を自動で走る小さなEVをみんなでシェアする。そんなサービスがスマートフォンのアプリを使って、簡単に利用できる。これこそがCASEの狙いかもしれません。

 さて、もう一つの言葉の「MaaS」について説明します。CASEは技術に寄った話でしたが、MaaSはサービスというソフトのことです。モビリティの世界でMaaSを言い出したのはフィンランドの首都ヘルシンキで生まれたベンチャー企業でした。同国では自動車を所有から利用にシフトする大胆な政策が打ちされていますが、あるベンチャーが色々な乗り物、
例えば、飛行機からレンタル自転車まで、スマートフォンに搭載する一つのアプリで予約や支払いまで完結可能なシステムを実現しました。事業者から完全にユーザーファーストのシステムとして世界的に注目されています。

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 CASEは手段としてのテクノロジーとシステムであり、MaaSはその上位概念となる未来のモビリティ社会のグランドコンセプトになるわけです。技術やシステムを水平統合することで、未来への壮大な社会実験が各国で始まっています。

 さらに各企業がどんなビジョンを持っているのか説明しましょう。今年の1月、アメリカで開催された家電ショーCESではトヨタ自動車の豊田章男社長が自らプレスコンファレンスに登壇し「モビリティサービスを提供する企業になる」と宣言しました。これはメーカーからモビリティのサービス企業に転身するという重要なメッセージだと感じました。
一年前はドイツの自動車ショーではドイツメーカーがモビリティのサービスプロバイダーになると宣言しました。これと通じています。

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 こうした流れは世界の潮流となり、巨大な自動車市場を持つ、中国やアメリカでも起きています。いや、むしろ広大な土地を持つ地域こそ、移動の多様性とダイナミズムが必要なので、CASEとMaaSは地球規模で広がっています。
 その背景には地球の人口増加、多くの都市の人口が増加し、渋滞問題や環境問題、あるいはさまざまな問題が悪化することが懸念されています。さらにモビリティを支える労働人口も高齢化し、減少することが予測されています。すべてロボットが人に置き換わるまで、まだまだ長い時間が必要ですが、現状のモビリティはもっと効率的なシステムに進化しないと、私達の社会が成り立たなくなってしまいます。
CASEとMaaSいう言葉を単なるスローガンではなく、
未来社会を築く、重要なコンテンツとなると私は考えています。



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