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「国際比較 がんばらない家事のヒント」(視点・論点)

ナチュラルライフ研究家 佐光 紀子

初めまして。
佐光紀子と申します。今日はがんばらない家事について考えてみたいと思います。

20年ほど前に日本に重曹を紹介して以来、掃除や家事について本や記事を書く仕事をしてきました。主婦の中には「掃除が苦手」「きちんと家事をするのは大変」という方がたくさんいます。進まない家事シェアや、ワンオペ育児、介護負担といった状況をどう捉えるか、私なりに考えていることを中心にお話させていただきたいと思います。

日本では1997年以降、共働き家庭の方が多くなりました。妻が稼ぐようになった分、夫も家事を担うようになってきているでしょうか?まずは、2016年にOECDが発表した生活時間の使い方に関する統計をご覧ください。

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これは家事にかける時間と男性の分担率を調べたものです。経済大国と言われるアメリカ、中国、ドイツ、イギリスなどと比較してみると、日本は15%とダントツのビリです。

小学生以下のお子さんのいる20代から60代のご夫婦およそ3000組を対象に実施した国内の調査からも、家事の負担は圧倒的に女性に偏っていることがわかります。

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理想の家事分担について聞いたところ、妻は7対3程度の分担率、つまり夫に3割程度の家事分担を期待しています。最初から半分やってほしいなどとは思っていないのです。
家事は女性がやらなければと、ある程度覚悟して結婚していることがわかります。
男性はというと、理想の家事分担率は3割を切ります。
現実はどうでしょう?
ご覧のように妻の分担率は85%と、理想よりかなり厳しいのが現実です。
一方の男性は22%と理想に近い状態の家事分担と言えるかもしれません。

家事が大変ならば、減らす工夫をすればよさそうなものですが、日本ではなかなかそうもいきません。なぜでしょうか。

日本では「家事はきちんとすることが大切だ」と考えられているからです。
特に、食事に関しては、手作りが大事だ、と考える傾向があります。最近では政府を中心に、朝ご飯キャンペーンも行われていて、きちんとした朝ご飯を食べている子供は成績がよいと言われています。

そうだとすると、国をあげて朝食をとるキャンペーンを行って、質の高い朝食を食べている日本の子供は、他国のこどもより優秀なはずです。
2015年に15才の子供達を対象にOECDが行った国際学力調査の結果は次の通りです。

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シンガポールや香港など、屋台の文化の国々では、朝は屋台やコンビニでというケースも多いようですが、日本より上位にランクしています。こうした結果を見ると、朝ご飯は大事でも、いわゆる「ちゃんとした」朝ご飯でなければと、そこまで神経質に考えなくてもいいのではないかという気がします。

仕事で一緒になる外国の既婚女性達は、日本人ほど、きちんとした食事へのプレッシャーを感じていないように思います。例えば、シンガポール人のワーキングマザー達は夕飯を屋台で買って済ませたり、メイドさんを頼んだりと、外注化が進んでいます。状況は台湾や香港でも似ています。

このように、日本にいると当たり前でも、一歩引いてみると、そこまでやらなくても、と思うことも出てきます。

一つの例をあげましょう。
食器や調理器具は、毎食後洗いますか?
日本では食べっぱなしは「だらしがない」と言われますね。 
でも、2009年に洗剤メーカーが行った調査では、毎食後洗う人が半数以上という国は日本だけでした。アメリカやスウェーデンでは毎食後に洗う人は少数派。だらしがないからと毎食後洗う国は意外に少ないようです。

年末恒例の大掃除が、庶民に広まったのは江戸時代だと言われています。
当時の名前はすす払い。薪で煮炊きして家中についたすすを払う行事でした。
ところが、現代の台所の汚れの主役はすすではなく油です。油は低温で固まりますから、冬のさなかに落とすのはやっかいです。また、住居も江戸時代のように隙間風の通る家ではなく、機密性が高く、暖房を使って室内を暖めています。窓を開け放って掃除をするのは、エネルギーの無駄でもあります。
それならば、年末の忙しい時期の大掃除をやめて、欧米のように、春になったら窓を開けて大掃除という考え方はどうでしょう。

アリソンというアメリカの社会学者は、日本の幼稚園に息子を通わせながら日本の社会研究をしました。お弁当を息子が完食できないと、息子の食欲や体調よりも、量が多かったのでは、彩りや食べやすさに配慮が足りなかったのではと、まず母親の弁当作りを先生が問題視したことに、驚いています。日本の母親は、子どもの学校生活を通じて、正しい母親のあり方を身につけていくとアリソンはいいます。

子供の宿題や忘れもので、学校から電話がかかってくるという経験はありませんか?すると、親は監督不行き届きを先生にお詫びしますね。でも、インターナショナルスクールで教えている友人達は、宿題をしてこない子の親に電話をかけることも、親が謝ることもないといいます。宿題は学校の授業の補完として出されるもので、家庭が責任を持つ物ではないからです。

夫の健康管理はバランスのとれた食事から。夫の健康管理は妻の仕事といった文言は、雑誌やインターネットでもよく見かけます。健康の管理には適度な運動、睡眠、ストレス管理など様々な要素があります。食事で得られる健康には限度がありますし、妻が夫の健康を管理していたら、妻が倒れた時、夫も共倒れです。

家族の面倒を見ることや、いろいろ手作りすることが重視される裏に、家事は、愛情のバロメーターだという発想があります。だから、きちんと家事をし、ちゃんと家族の世話を焼く妻は、愛情深く素晴らしい妻なのです。
しわくちゃのワイシャツで出勤する男性は、奥さんがアイロンもかけてくれない、かわいそうな夫。ちゃんとした朝ご飯を食べられない子どもは、母の愛情の足りないかわいそうな子。妻の愛情不足が家事に出ているという発想です。

では、病気がちで家事の行き届かない妻は、愛情が薄くダメな妻でしょうか?
仕事でお弁当は作れないけれど、夕飯の席で部活の話に一心に耳を傾ける母は、愛情がたりないでしょうか? そんなことはありません。

家事を全部やっていた妻が先立つと、夫の生活が荒れたり、子ども達の世話に追われるケースを考えると、夫の面倒を完璧に見ることが、果たして夫のためになるのか、それが愛情豊かといえるのか、も考える余地はありそうです。

家事は愛情のバロメーターではなく、生活のための技術です。そう考えると、家事を妻が抱えこむのは、必ずしもよいことではありません。

家事は愛情のバロメーター。ちゃんと家事をしてしっかり家族の面倒を見るのがいい妻だという思い込みから、そろそろ私たちは解放されてもいいのではないでしょうか。週末や夕食の時間に外出する妻が、家族の食事を用意して来たというと、仲間達から「偉いわね」と褒められることがよくあります。でも、そろそろ、そういう人を褒めそやすのはやめましょう。
自立できる程度の家事技術を男性も女性も身につけることは、加速度的に進む高齢化社会でとても大切なことなのです。
ありがとうございました。




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