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「まちに開かれた保育園」(視点・論点)

まちの保育園・こども園 代表 松本 理寿輝

私たちは、まちぐるみで、子どもを育くむことを大切にする、保育園・認定こども園の運営をしています。人格形成期の子どもたちに、まさに“一生もの”となる、出会いと実体験を、地域・社会から手渡していきたい。
また、地域に子どもや子育て家庭が参加し、多世代交流が活発になることを、様々な世代の生活が、一層充実することにつなげていきたい。
いわば、園が、子どもの学び・育ちのためにあるのと同時に、「まちづくり」の担い手ともなれるのではないか。さらには、このつながりが、子育て家庭にとっても、支えになることがあるのではないか。
そのような想いから、保育・教育・子育て、そして地域の充実のため、コミュニティを大切にした、取り組みを行っています。

今日は、私たちが、現場にいるものとして感じていることを、2つの視点から、お届けしたいと思います。

一つ目は、園が「まちづくりの拠点」となる、可能性の豊かさです。

私たちは、都内に5つの園を運営しています。
私たちの園には、入り口に、カフェなど、地域に開かれ、交流を支える場があります。また、ただ場があるだけでなく、園と地域をつなぐ「コミュニティコーディネーター」という職員が常駐しています。

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彼らは、保育士と連携し、子どもの興味と、地域の想いをつなぐ支援をします。例えば、着付師・鳥博士・パティシエなどの専門家や、高齢者・中高生他、これまでたくさんの人に保育に参加いただきました。また、音楽会やバーべキューなど、保護者の企画の実現も助けます。さらに、町内会活動の企画や、高齢者サークル、学校との連携など、地域活動に関わることもしばしばあります。
私たちは、まちに開かれた園のため、このような幾つかの工夫をしています。

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人生100年時代、生涯を通じた学びが大切にされています。また、今後、高齢化等に伴い、大半の時間を地域で過ごす人の比率が、増えると言われています。園や学校は、これからの社会で、それぞれの生活の充実のため、人が「学びでつながりあう拠点」として、一層の役割が期待されていくのではないかと感じます。
つまり、これからの園・学校の価値創造は「まちづくり」にもあり、地域との共存関係を、保育・教育活動の充実や、地域の福祉につなげる「コミュニティの創造」にあるのではないかと思います。
まちづくりにおいては、若い世代の参加に課題を抱える地域が少なくない、と聞きますが、園・学校の特性は、保護者を中心とした、地域の若い世代をつなぐことにあると思います。園・学校は、子どもや、若い世代の参加から、まちづくりが考えられる「まちの主体」なのです。
私たちの町では、若い世代が中心となり、子どもも高齢者も参加するお祭りや、親子の広場をつくる動きが生まれました。高齢者の方から「おしゃれをして出かけるようになった」、また、子育て家庭から「地域で子どもの話ができる人や、子どもと出かけられる場が増えて嬉しい」など、伺うこともあります。

「理想的な子どもの環境づくりは、理想的な社会づくり」ということをよくコミュニティで話します。園・学校が、人生100年時代のまちづくりの中核となることに、私たちは、大きな可能性を感じています。

2つ目は、0~6歳の子どもの豊かさです。

皆様は、0~6歳の子どもに、どのようなイメージをお持ちでしょうか。この「子ども観」は、保育・教育、子育てにおいて、いつも立ち戻る「原点」であると思います。
私たちは、子どもの持つ大きな力や、可能性を信じ、願うものですが、現に様々な研究から、乳幼児期の有能性がわかってきました。今、世界中で、乳幼児は、未熟で無能な存在ではなく、豊かな可能性を持つ、有能な学び手であるという「子ども観」が広く認識されるようになってきました。

実際、私たちは日々、子どもの力に、新鮮な驚きと感動をもらっています。

一つ例をお話しましょう。
ある日、5歳のクラスの1つのグループで、子どもたちのアイデアから「美術館をつくりたい」ということになりました。

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子どもたちは、じっくり語り合い「葉っぱの美術館」にすることにしました。
そこで、公園に葉っぱを収集しに行き、展示方法を考えます。私たちの園の入り口には、ギャラリーがあるのですが、そこが展覧会場になりました。また、カフェのお客さんにも見て欲しいということで、カフェの待合室も「特設会場」になります。
そして、子どもたちは、出来上がった美術館を多くの人に見てもらおうと、招待状をつくることにしました。

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その中に、「青いグラスに、水を張り、葉っぱを浮かべる」展示をした子どもがいました。
美しい表現ですが、私がもっと驚いたのは、その子がくれた、こちらの招待状の内容でした。

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石は水に沈むけど、「はっぱは どんなに おおきくても みずにうかぶ」
そのことを、彼女は、不思議に思ったのでしょう。まさにセンス・オブ・ワンダーです。そして、次のように表現しています。
「つちからできたものは しずんで
 うえにできているものは うかんでるように 
 みえるので うかびます」
つまり、
地上では、葉は木にあり、浮かんでいるように見え、石は地面にある、
同じ原理が、水中でも働くのではないか。
好奇心を持ち、深く考え、自らの仮説を、詩的に言葉で表現し、人に伝えてみせた。

このような子どもの姿を、私たちは日々、目の当たりにします。
ここで、大切にされることは、このような活動のプロセスが写真等を用いた記録で可視化され、コミュニティに共有されることです。

子どもの豊かな個性、みずみずしい感性や創造力、学びの力が、具体的な姿から届けられる。コミュニティ全体でそれを分かち合い、面白がり、時には、自分ができることで参加する。このコミュニティからの眼差しと参加が、子どもの自己肯定感や意欲を支え、一層の力の発揮につながる。コミュニティで私たち大人の「子ども観」を豊かにすることは、この子どもの育ちに大きな意味を持つと信じています。

今、OECD加盟国において、保育・幼児教育の充実は主要なトピックの一つとなっています。個人にとって、質の高い保育・幼児教育への参加が、いわゆる「非認知能力」、例えば主体性や忍耐力などのことですが、その能力の発揮に関係もし、学業成績や、人生の向きに影響があること。また、国・社会にとっては、その「投資」により、経済的・社会的・文化的効果が高いことが、様々なエビデンスからわかってきました。保育・教職者が、高度な専門性と共に、社会で重要な役割を担っていくことは、言うまでもありません。
このように保育・幼児教育が、日本でも大きく動いている今、私たちは、子どもにどのように育ってほしいか、社会全体で対話を重ねる時だと感じます。

ここで、最後に思うことがあります。

子どもの育ちにおいて、「私たちが子どもに何をするか」と同じくらい大事なことは「私たち自身がどうあるか」ということです。私たちは、子どもの中に長く生きるモデルとなるからです。
この時、私たちが、まだ手にしていないことを子どもに願うのではなく、私たち自身が、ありたい姿のために対話し、行動し、手にしていくことを、子どもたちに渡していくことが、大切なのではないかと思います。
それは、難しいことではなく、子どもたちに願うのと同じように、私たち自身が、子どもを真ん中に、つながりあい、それぞれの違いを認め合って、各々が主人公として輝く社会を、描いて行くことの中にあるのだと思います。

保育・教育・子育て、そして地域は、人のつながりあいが豊かにする。
地域での素敵な出会いが、いつも、そのことを、私たちに教えてくれるのです。

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