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「大規模水害の特徴と課題」(視点・論点)

東京理科大学 教授 二瓶 泰雄

ことしは例年より多くの台風が発生し、全国各地で大雨による災害が多く発生しています。その中でも、平成30年7月の西日本豪雨では、11府県に大雨特別警報が出され、非常に広い範囲で、長期間にわたる大雨が降りました。この豪雨により、死者・行方不明者が220名を超えるなど、平成最悪の豪雨災害となりました。その中でも、岡山県倉敷市真備町では、小田川とその支流の洪水氾濫により、大規模な浸水が発生し、死者が50名を超えるなど甚大な豪雨災害が発生しました。

西日本豪雨により発生した小田川とその支流の洪水氾濫被害の特徴は、次の4つが挙げられます。
まず、一つ目の特徴は、5メートルを越える浸水が広範囲で発生したことです。

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土木学会の調査結果によると、紫色が示す浸水の深さが5mを越えた場所が東西3、5km、南北1kmに及んでおり、最大で5、38mを記録したことが分かりました。また、浸水範囲の大部分が3m以上となっています。

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浸水の深さと建物の高さを比べてみますと、深さ3mだと建物の1階がほぼ水没し、深さ5mだと2階の大部分が浸水し、大人でも立っていられない状態となります。避難には、避難所などへ水平方向に移動する「水平避難」と、自宅の1階から2階などへ移動する「垂直避難」があります。今回のように2階も水没する場合には、垂直避難が通用しませんので、雨が強くなる前で、明るいうちに早めの水平避難が必要です。

 このような大規模浸水が生じたのは、小田川とその支流の堤防決壊と洪水氾濫によるものです。

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堤防の決壊は、本川の小田川で2カ所、支流で6カ所において発生しました。堤防決壊により、大量の河川水が氾濫し、大規模浸水を引き起こしました。
今回の浸水エリアは、高梁川と小田川の堤防で囲まれた低地であり、一端、水が氾濫するとたまりやすい地形です。そのため、水深が5mを越える深い浸水が発生しました。堤防がどのようなメカニズムで決壊したかに関しては、現在、調査中ですが、いずれにしても、各河川において高い水位を継続したことが引き金になっていると考えられます。堤防などの河川施設は、一定の洪水規模を越えると、今回のように氾濫や堤防決壊が発生します。堤防はどんな洪水をも防げる万能な施設ではないことを知っておく必要があります。

三つ目の特徴は、今回の洪水氾濫が夜間から発生したことです。
7/6夕方より降雨量が増加し、それに伴って小田川では21時以降に水位が急上昇しました。その結果、7/6の23時台には氾濫が始まり、氾濫した水が低地部分を広がっていったものと思います。住民の聞き取り調査結果を元に氾濫シミュレーションを実施したところ、夜間に広い範囲で浸水が進行していることが分かります。特に、支流の高馬川や末政川の周辺では、短時間で水位が急上昇し、明け方には、浸水の深さが3mを越えています。氾濫に気づかずに1階で就寝中の方が逃げ遅れた可能性も考えられます。また、場所によっては、避難所がある山側の北側から氾濫水が押し寄せたところもあり、避難所に行くに行けない状況になった方もいたものと考えられます。
 最後の4つ目の特徴は、住民避難の遅れと孤立者が多数いたことです。
正確な数字は不明ですが、真備町では2000名以上の方が一時的に孤立し、自衛隊や消防団等に救助されたと言われています。真備町の人口が2万2千人であるため、およそ1割の方が逃げ遅れて孤立したことになります。
2015年に鬼怒川で大規模水害が発生した時も、住民の約1割に相当する4300人が救助されました。逃げ遅れた要因としては、三つ目の特徴で述べたように、洪水氾濫が夜間に発生したことが挙げられます。既に就寝中の人もいたでしょう。夜間に氾濫している状況下での避難は危険と判断して避難しなかった人もいたでしょう。次に、「まさか自分の家が水没するはずはない、大丈夫」と油断した方もいたと思います。
真備町における直近の大きな水害は昭和51年と、42年前にさかのぼり、このときも床上浸水程度でしたが、今回の水害は昭和51年の水害よりも水位が3m以上高くなりました。もっと大規模な水害は明治26年に発生していますが、この水害の存在を知っている人は非常に少ないものと思います。そのため、大規模で二階まで水没するような水害が発生するなんて考えもしなかったことが、避難の遅れにつながったでしょう。

今回は記録的な大雨により、雨量や河川水位に関しては、観測史上1位を記録した地点が多数ありました。では、今回の水害は想定外と言えるでしょうか?

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小田川の洪水ハザードマップに示される浸水深マップを見ると、浸水深が5~10mを示すエリアが広範囲にわたっており、その範囲が今回の災害の浸水範囲と概ね一致しています。 2015年の鬼怒川の水害でもハザードマップと実績値は同程度でした。このように、今回の浸水の深さや範囲はハザードマップである程度予想されており、記録的な大雨でそれが現実に起こったと言えます。

国土交通省の「重ねるハザードマップ」というホームページでは、地域で発生するかもしれない洪水、土砂災害、津波のリスクを知ることができます。今回の真備町と同じように、堤防と堤防に挟まれた低地や平野部において浸水が5メートルを越えて大規模水害が発生する地域は、全国にいくつもあります。

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特に首都圏では、利根川や荒川、江戸川の氾濫により東京東部において広域の大規模水害の発生が懸念されています。ハザードマップを見ると、浸水深が5mを越えるだけでなく、浸水が継続する時間が2週間以上の地域が広範囲に存在しています。この地域は高層マンションが多く、水害発生時には垂直避難を試みる住民が多いと思いますが、一旦、垂直避難すると、長時間浸水が続くため、孤立し、その数が多いと救助もままならないものと予想されます。このような場合も垂直避難が通用しないため、早めの水平避難が必要となります。

 我が国は、歴史的に見ても水害は繰り返し発生しています。また、洪水ハザードマップより、多くの地域で洪水氾濫の発生が懸念されています。発生頻度の高い一定の洪水規模に対しては、これまでの河川施設の整備を着実に進め、災害発生を防止する「防災」の考え方が重要です。一方、より大きな洪水規模に対しては、河川施設だけでは災害を防ぎきれないので、少しでも被害を減らす「減災」が重要となります。このように、水害が起こることを前提とし、それに向けた準備が必要となります。
 そのために、私達が今できることとして、「3つの知る」を実践することが大切です。

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それは、まず①「昔を知る」です。過去、住んでいる地域に何が起こったのかを学ぶものです。次に②の「今を知る」です。住んでいる地域のリスクをハザードマップなどで知る必要があります。また、大雨時の気象情報や避難情報を受け身ではなく自ら取りに行く姿勢が重要です。最後に、③「他を知る」です。他の地域で起こった災害を「我が事」として捉え、「もし地元で同じことが起こったら」と想像してください。

「想定外」といえる自然災害が続き、今後の災害の傾向を予測することは難しいかもしれません。しかし、行政だけでなく地域住民も、「昔を知る」「今を知る」「他を知る」という姿勢で災害を学んでいただき、今後の災害に備えることが大切だと考えます。

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