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「『海賊版サイト』にどう向き合うか」(視点・論点)

弁護士 福井 健策

今年は、急速に拡大するマンガやアニメのオンライン海賊版の問題が、社会の大きな注目を集めました。代表格とも言えるのは「漫画村」と言われるサイトです。
これは5万点以上の最新の雑誌やコミックスを、オンラインで無断で読み放題にしていたサイトで、誰でも簡単に、最新の人気雑誌などを無料で読むことが出来ました。昨年夏ころから急速に勢力を伸ばし、最盛期には、実に月間1億6000万以上ものアクセスを集めたと言われます。
これは、正規版の電子コミックサイトのアクセス数をはるかにしのぐ異常な数値で、個々の人を示すユニークユーザー数でも、実に日本の全中高生を合わせたより多い数の国内のユーザーが、日常的にアクセスしていたことになります。こうしたアニメ・マンガの海賊版サイトは、およそ数百が存在すると言われます。

これに比べて、紙のマンガの売上は昨年過去最大の13%もの下落を記録し、更に順調に伸びていた電子コミックの売上さえ、秋頃から急速な鈍化が報告されるようになりました。蔓延する海賊版の影響は明らかと言えそうです。
無論、アニメ会社や出版社は従来からこうした海賊版への削除要請や警告、警察との協力による摘発などの対策を行って来ました。が、海賊版サイトの多くは海外のサーバーにあって、匿名で運営されていて運営者の身元の特定は容易ではなく、また海賊版の削除要請などにも応じません。海外の、特に責任追及の難しい国に置かれた、サーバーへの法的措置はしばしば難航します。
仮にあるサイトを閉鎖に追い込めても、すぐに後継の海賊版サイトにアクセスが集まるイタチごっこでした。匿名技術を逆手に取った犯罪の頻発する、ネット社会の影の部分とも言えるでしょう。

こうした事態に、政府は4月、緊急対策を発表します。その内容は、特に悪質とされた3サイトへのアクセスをインターネット接続事業者が遮断することは、緊急的な措置として許容される、とするものでした。

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これを受けてNTT系の接続事業者が遮断方針を発表しましたが、政府発表には出版社などから歓迎の声が上がる一方、特に法制度抜きの遮断について、ユーザーの通信の秘密を害するなど多くの批判も寄せられました。この前後で3サイトは自ら閉鎖するなどしたため、実際の遮断措置は取られていません。しかしこれにより、海賊版被害とその対策をめぐる社会の関心は急速に高まりました。

現在、電子コミックの売上は好転も伝えられ、また海賊版へのアクセス数は、4月以前の約50%近くまで落ち込んだとも言われます。しかし、なおそれが高い水準にあり、抜本的な対策が足りないことは変わりがありません。
確かに無料で数万のコミックやアニメを見られる海賊版は、ユーザーにとって魅力でしょう。しかしこの規模での蔓延が進めば、クリエイターへの収入の手段は途絶え、アニメ会社や出版社が新たな作品を生み出すことは難しくなりかねません。その意味で、海賊版蔓延の最大の被害者は、ユーザーであり社会だとも言えるでしょう。現在、政府の知的財産戦略本部では、海賊版の被害と対策を広く議論する検討会議が多様な関係者の参加で設置され、私も委員として加わっています。そこでは、これまでも議論されて来た多くの対策が再検証されています。

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まずは、海賊版サイトの運営者の身元を突き止め、直接に責任追及するための、専門家や政府・裁判所の協力体制を更に進めることが本丸でしょう。責任追及を難しくしている元凶である海外サーバーについて、他国政府への協力要請も重要です。また、中継サーバーなどへの法的措置も、課題はありますが試みられています。
海賊版の収入源を絶つ試みも進んでいます。海賊版サイトはしばしばサイト上の広告から収入を得ています。こうした広告は複雑な仕組みで自動配信されており、その結果、時には日本の大手企業からも、相当な額の広告料が海賊版サイトに流れていたと言われます。現在、インターネット広告の関連団体と権利者が協力して、ブラックリスト化された悪質な海賊版サイトへの広告を、自粛する取り組みも進んでいます。もっとも、アダルトなど確信犯的な広告主や、海外の広告事業者にどう協力させるのか、実効性は今後の課題です。
更にグーグルやヤフーなどの検索エンジンが海賊版を表示しないよう、検索結果から削除する取り組みも既にあり、更なる改善が議論されています。また、悪質な海賊版へのリンクばかりを集めて紹介する、リーチサイトと言われるリンク集も、海賊版サイトとの共犯的な関係に立って、ユーザーを誘導する上で大きな役割を果たしています。現在、こうしたリーチサイトに海賊版のリンクを投稿する行為を規制する、著作権法の改正が文化庁で議論されています。重要な取り組みですが、特に悪質なサイトに対象を限定するなど、濫用の防止にも注意すべきでしょう。
また、海賊版サイトへのアクセスの遮断は、現在ヨーロッパなど42ヶ国で法令や判例として導入されているとされます。海賊版へのアクセスがかなり減少したというデータもある一方、抜け道があるという指摘もあります。現在政府では、その実効性や濫用防止策について海外からも情報収集しつつ、制度としての導入の是非が検討されています。客観的な情報に基づく議論が必要でしょう。

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いずれにしても、ネット社会では匿名化をはじめ技術の進化のスピードは極めて速く、仮にひとつの対策で効果があがっても、すぐに次の抜け穴が生まれてしまうでしょう。例えば、広告収入以外でも、海賊版サイトにアクセスしたユーザーの端末をサイト側が勝手に操作し、仮想通貨の取得を手伝わせていた例が報告されるなど、海賊版の収入の道は多様化しています。現実の変化と並走しつつ、その時点で最も実効的な対策を複数組み合わせるのが、現実的な対応と言えるのでしょう。

同時に、正規版のマンガやアニメを、リーズナブルな価格で提供する努力も必要です。音楽の世界では海賊版への対策と共に、音楽の定額聴き放題サービスの広がりで、産業全体の売上は長期の減少からやや持ち直した、という報告もあります。漫画界でも、主に旧作の絶版マンガを広告のある無料版と、広告のないプレミアム版の両方で読み放題にするマンガ図書館Zというサイトが読者の支持を集め、大手出版社などがこれに出資して協力していくことが発表されるなど、様々な取組が広がっています。
もっとも、いくら正規版サービスが充実しても、新作をすべて無料で読ませてしまう海賊版が蔓延していては難しいでしょう。その点で、海賊版を抑え込む最後の柱はユーザーと社会の協力です。海賊版蔓延により新しい優れた作品が生まれにくくなれば、その最大の被害者は読者自身であり、現在と未来の社会です。そのため、出版社やアニメ会社は数年前から、海賊版を蔓延させないようユーザーの協力を訴えるキャンペーンも展開しています。
実効的な法的措置、正規版サービスの充実、そして社会の理解。豊かで多様な作品が生まれつづけ、それへのアクセスが守られるための社会に向けて、今、真剣な取り組みが求められています。

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