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「犯罪被害者支援の歩みと残された課題」(視点・論点)

弁護士 岡村 勲

今年6月3日、全国犯罪被害者の会(あすの会)は、18年間の活動に幕を閉じました。
 設立当時の被害者は、捜査や裁判のための証拠として利用されるだけで、何の権利も有りませんでした。加害者を厳しく処罰して貰いたいと思えばこそ、葬式も済まないうちから捜査に協力するのですが、「捜査や裁判は、公の秩序維持のためにするもので、被害者のためにするのではない」というのが、最高裁判所の判決でした。
 被害者には、犯罪被害者等給付金が国から出ますが、金額が少なく、親族間の犯罪には原則として支払われないなど、厳しい条件が付けられており、一家の働き手を失った遺族は、最低の生活を強いられておりました。
しかも、被害者は、偏見と好奇の目で見られていました。

 2000年1月23日、我慢できなくなった被害者が集まって、シンポジウムを開き、それに続いて設立したのが、「犯罪被害者の権利と被害回復制度の確立」を求める、全国犯罪被害者の会です。通称をあすの会といったのは、「今日は苦しいが、あすは必ず良くしてみせる」という、会員の心意気を示したのです。

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 会が真っ先に取り組んだのは、被害者が刑事裁判へ参加する被害者参加制度と、刑事の裁判と民事の損害賠償請求の裁判を、同じ裁判官が行う損害賠償命令制度の創設でした。

資金を集め、弁護士を募り、この制度を実施しているドイツ、フランスへ調査に出かけ、我が国でもこの制度を採用することが可能である、という報告書が出されました。それに基づいて、北海道から沖縄まで、全国にわたって署名活動を行い、557,215通の署名を集めました。

そして小泉総理に直訴しましたのです。被害者の実情に驚かれた総理は、政府と自民党で検討することを約束して下さいました。その結果、2004年12月1日に、犯罪被害者等基本法が成立したのです。 僅か31条の短い法律ですが、犯罪被害者の権利と尊厳を定め、国や自治体がなすべき18項目の施策を定めた、世界で最も進んだ法律です。この基本法に基づいて作成された犯罪被害者等基本計画に、「刑事裁判は被害者のためにもある」と書き込んで、事実上最高裁判決を変更したのです。 
続いて刑事裁判制度も改正しました。殺人などの被害者は、裁判に参加して、公判記録を閲覧し、検察官の隣に座り、被告人に質問し、論告、求刑もできる訴訟参加制度とともに、自分の費用や国の費用で、弁護士を付ける制度も、実現しました。
そのうえ、参加した被害者には裁判所へ行くための旅費、日当まで出るようになったのです。

 殺人の犯人が15年間逃げ隠れると、刑事責任が追及されなくなる公訴時効という制度がありました。時間が経つと、証拠がなくなるなどの理由によるものでしたが、時間が経っても被害者の悲しみや苦しみがなくなるわけではありません。そこで、あすの会は、公訴時効の廃止や時効期間の延長を求める運動を起こし、殺人犯をいつまでも追いかけることができる制度にしました。
また少年事件の審判を、被害者が傍聴できるようにもしました。
 さらに、犯罪被害者等給付金が一時払いだったのを、重傷病の被害者には、3年間にわたって支給されることにし、親族間の犯罪でも、原則として支払うことに改正しました。

 最近では、あすの会に入ってくる新しい会員は殆どいなくなり、電話もかかってこなくなりました。私たちの活動によって、被害者の権利が大きく前進し、各地に支援組織もできて、あすの会まで来なくてもよくなったのだと、私たちは喜んでおります。
 そこで、幹事の高齢化の問題もあって、解散に踏み切った次第です。
 
とは言っても課題がすべて解決したわけではありません。被害者の社会復帰の問題や、被害を受けた少年の立ち直りの問題など、いろいろあります。
 なかでも、わたしが特に気になるのは、被害者に対する補償制度の充実です。あすの会の設立当時、被害者に支払われた犯罪被害者等給付金は、約5億7000万円でした。加害者の国選弁護人に対する報酬だけでも、年間46億7000万円になっていることを考えると、どうみても不公平です。

 白井孝一弁護士が作成された、2002年から2005年までの世界主要国の犯罪被害者に支払った補償金の比較表があります。

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 この比較表によると、補償金の国民1人当たりが負担金額は、1位がフランスの600円、4位がアメリカの179円、日本はぐっと下がって8円71銭となっています。当時の国連費用の分担割合は、1位がアメリカ、2位が日本であることを考えると薄い保障です。

 わが国の犯罪被害者等給付金は、事件前に収入の多かった被害者ほど多く支給されることになっております。これに対してわたしたちは、事件前の収入ではなく、事件後の生活の困りぐあいに応じて支払うべきだという、生活保障型の制度を提案しております。この提案に基づいて試算すると、年間36億円になりますが、わが国の経済規模からすれば、大した金額ではありません。
ところが、2017年度に実際支払われた支給額は10億2000万円です。凶悪犯罪が減少しているという事情はありますが、これでは、「被害を受けたときから再び平穏な生活ができるまで、必要な支援を途切れることなく受けることができるようにする」という犯罪被害者等基本法の規定は、空文になってしまいます。
 それなら、何故解散するのだとおっしゃる方がいるかも知れません。しかし、そもそも、犯罪被害者が安心して生活できる制度を作ることは、国の義務なのです。被害者にやらせるべき問題ではないのです。

 最後に申し上げたいことがあります。この運動に参加した会員は、どんなによい制度を創っても、過去に起きた犯罪の被害者である自分達は、その恩恵を受けないことをと承知のうえで、運動してきたということです。
 私は、「これからの被害者に、同じ苦しみを味あわせたくない」という崇高な志を持った人達と共に活動できたことを、誇りに思い、心から感謝しております。

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