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「朝鮮半島をめぐる外交の展望」(視点・論点)

日本総研国際戦略研究所 理事長 田中 均

シンガポールで行われた米朝首脳会談は、具体性に乏しかったという意味では、期待を下回ったということだろうと思いますが、しかしながら朝鮮半島の緊張を大きく緩和したこと、そして非核化の入り口を作ったと、こういう意味で私は評価されることだと考えています。これからは非核化のプロセスを作っていくということになりますけれども、その非核化のプロセスを作るというのは決して簡単なことではありません。

2つの大きな課題があると思います。1つの課題というのは、非核化のプロセスの中で果たして北朝鮮が本当に真剣に非核化を進めていくことになるのかどうかということを示すことが重要になってくるわけです。実は、北朝鮮の核開発の歴史というのは過去30年にわたるわけでありますが、何回となく非核化の交渉がされてきたわけですね。

しかしながら北朝鮮は結果的には、ほぼ核を保有するに至ったという状況になっているわけですね。ですから今回は、ほんとに非核化を進めていくということを示すことが大変重要になると思うのですが、そのためには、まず北朝鮮が核の施設がどこにあるのか、どういう核の施設を有しているのかということを全て開示すると、申告という行動が大変大事なことだと思います。申告がなければ核の廃棄はできません。申告をするだけではなくて、そこへの査察ということが認められなければいけません。これが最初の段階で全て行われるということになれば、北朝鮮の非核化というのは、相当見通しが出てくることになるのではないかと思います。

同時に米朝の首脳会談は平和の体制を作ろうということになり、米国は安全を提供するということになっているわけですが、この面についても決して簡単ではない問題が横たわっているということだと思います。まず第一に、米国による安全の提供ということの中、要するに平和レジームを作るということとほぼ同じなんですが、2つの大きな課題があるというふうに思います。
1つは、現在、朝鮮半島には停戦協定というものしか存在しないのですが、これを平和条約に変えていくという作業があると思います。で、この平和条約ができると結果的に国連軍は撤収していくということになるわけですが、実は皆さん、ご存じかもしれませんが、色んな国連軍の機能というのは日本にも存在しているわけですね。ですから国連軍を解消していくということ自体、国連を関与させていかなければいけないし、色々実務的な問題が横たわっているということになると思いますね。

それから平和条約を作るというのは、北朝鮮と韓国との間に、まあ、一定の領土の線を引くということなので、北朝鮮と韓国の間で領土を巡る係争というものもありますから、国と国との境界を確定するというのは、そんなに簡単なことではありません。この平和条約を作るということにもずいぶん色んな国の協力が必要になると、こういうことになると思います。
もう1つの課題というのは、米国と北朝鮮の正常化、日本と北朝鮮の正常化ということだと思います。米国と北朝鮮の正常化というのは、恐らく日本と北朝鮮の正常化に比べればより簡単ではないかと思いますが、ただ米国は北朝鮮を敵国であるというふうに見なして、米国の国内法上色々な規制を設けているので、正常化をするという行動は北朝鮮と正常な国家関係を持つということなので、そういう敵対国に当てはめられているような諸々の法的な制約を解いていくということになる、これも簡単なことではありません。

日朝の正常化というのは、これもなかなか難しいということが言えると思います。
それは、実は2002年に小泉総理大臣が訪朝し、結果的に日朝ピョンヤン宣言というものが求められたわけで、その中で正常化のための基本的な原則が書かれています。これは韓国と日本が、日本と韓国が正常化をした1965年の基本条約の形とほぼ基本的な考え方は、それを踏襲しているわけでありますけれども、北朝鮮の場合にピョンヤン宣言に基づいて正常化をするためには、これは基本的な前提になるわけですが、核の問題やミサイルの問題が解決されねばならないし、同時に拉致の問題が解決されなければならないということですね。そういう問題が包括的に解決をされて、初めてピョンヤン宣言に基づく正常化ということになり、正常化のあと経済協力が出ていくという形になるわけです。

この経済協力をやるための正常化、これは国会で承認を受けるということになるので、当然のことだけれども、国会で承認を受けるためには核やミサイルや拉致の問題を解決しなければいけないと、こういうことなんじゃないかなというふうに思います。この拉致の問題ですが、私達が北朝鮮と交渉し、結果的に2002年の小泉総理大臣の訪朝により何人かの方が帰国された。その前提として当時のキム・ジョンイル総書記は、拉致は北朝鮮が行ったことだと、それを認め、謝罪をし、生きている人を帰す、死んだと言われる人については徹底的な調査を行うと、こういうことになっているわけです。私は、この拉致の問題については、やはり真っ直ぐにこの問題を見て、正面から向き合って、まず第一にやらなければいけないことは、果たして拉致された人々がその後どうなったかということについての事実関係を明確にすると、事実を作るということがまず先決であろうというふうに思います。このためには、私は調査団を派遣する、で、合同で北朝鮮と調査をする、共同作業として一人一人について最後まで情報を求めるということが必要なんじゃないか、このためには、私はピョンヤンに日本政府の連絡事務所を設けるといったようなことも検討されるべきではないかというふうに考えています。

いずれにしてもあまり時間をかけてこういう作業を行っていくべきではない、できるだけ早く生きてる人を帰し、そうでない人達について一体どうなったのかということについての正確な情報を得るということが大事になると思います。そして、こういうふうに朝鮮半島をめぐり平和条約の方向性が明らかになり、あるいは正常化の方向が明らかになり、非核化の方向が明らかになると、大きな機会が出てくることも間違いありません。既に中国やロシア、韓国は朝鮮半島に、今あるブラックホールですね、北朝鮮が基本的な政策を変えていくということを前提に、経済的により大きな可能性を求めて既に計画作りを始めています。これは朝鮮、中国にとっての朝鮮との国境付近の経済開発を進めるっていうことは、中国の経済にとっても極めて重要な課題になるということでありますし、ロシアにしてみても、シベリアから朝鮮半島に抜けるルートをつくるという意味では大変価値があることです。韓国については、まさに南北の先般のパンムンジョム宣言に基づいて経済協力を進めていくという要因が極めて明確になっていくわけだと思います。私は日本についても、朝鮮半島がより安定していくということを念頭に置いて、経済のみならず政治的な枠組みを含めて、日本が積極的に関与していくということが必要だと思います。私は、今必要なのは日本の能動的な外交であると、こういうふうに考える次第です。

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