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「最新技術によるピラミッド調査」(視点・論点)

名古屋大学 CHT共同研究員 河江 肖剰

わたしは15年にわたってエジプトのピラミッドの研究、調査をしていますが、近年、大きな転換期を迎えています。1980年代後半にはピラミッドを造った人々の町「ピラミッド・タウン」が発見され、四半世紀続く発掘調査によって当時の生活が明らかになりつつあります。
2013年には、紅海沿岸の遺跡から、エジプト最古のパピルス文書が見つかりました。これは大ピラミッドを作ったクフ王に仕えていたメレルという監督官の日誌でした。さらに、素粒子ミューオンによる透視調査やドローンによる3D計測など先端技術を用いたピラミッド研究も進んでいます。
今日は、そういった最新技術によるピラミッドの考古学調査についてお話ししたいと思います。

1980年代、パトリス・ゴワダンとジル・ドルミオンという二人のフランス人建築家が、大ピラミッドの北面にある正規の入口は、中心軸より約7m東にずれており、内部の部屋や通路も東に位置しているのは左右対称を伝統とする古代エジプトの建築様式からすると奇妙だという指摘をしました。

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彼らは、もしかすると大ピラミッド内部の西側には、発見されていない未知の空間があるのではないかと仮設したのです。
大ピラミッド内部の一番奥には「王の間」と呼ばれる埋葬室があります。

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この部屋と、そこに安置されている棺は、花こう岩でできています。興味深いのは、この部屋の天井の一部にひび割れがあることです。

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ピラミッド建造中に入ったのなら、そのような危ない部屋を王の埋葬室にするか、疑問が湧きます。フランスチームはコンピューター・シミュレーションによって、天井のひびは建設途中に入ったと推測しました。そして、もしかすると隠された埋葬室が別にあるのではないかとも示唆しました。
大ピラミッド内部にあるかもしれない、こういった未知の空間を調査するために、2015年、最先端の科学技術を駆使する国際プロジェクト「スキャン・ピラミッド計画」が始まりました。
この計画に、名古屋大学の同僚である物理学者の森島邦博先生が参加しています。彼はX線で人体を透視するレントゲンのように、宇宙から降り注ぐ素粒子ミューオンでピラミッド内部を透視する試みを行いました。その際、使用したのは、「原子核乾板」と呼ばれるミューオンを検出するための特殊な写真フィルムです。

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調査の結果、大回廊と呼ばれる巨大な通路の上に、大回廊並みの断面積を持つ、長さ30m以上の巨大空間が発見されました。さらに、ピラミッドの入口付近にも、高さと幅が1~2mの、通路と思われる空間も発見されました。

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ピラミッド内部は素粒子ミューオンによって計測されていますが、外側はドローンを用いた3D計測が、私のチームよって行われています。

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じつは、大ピラミッドの詳細な実測図というのはまだ作製されていません。特に、内部の石組構造を示すような記録が取られていません。現在、推定されている石組構造は、次の三つの説です。

⑴    整形された石が整然と水平に積まれている 
⑵    中心部に大きな階段状のコアがある。
⑶    石材がピラミッドの中心に向かって傾斜しながら積まれ、レイヤー状の付加構造になっている。
数百万個と言われる石材を高い所まで運び上げた方法も、ピラミッドの謎の一つです。これまで多くの説が唱えられてきましたが、その中で最も支持されているのが、傾斜路を使って石を上に運んだという説です。では、どんな傾斜路だったのでしょうか。傾斜路の形状は、石組構造にも深く関わってきます。

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 - 直線説。石組が水平に整然と積まれている場合、直線の傾斜路を、ピラミッドの高さに合わせて高くしていった。
 - ジグザグ説。石組が中心にコアがある場合、その水平面にジグザグに傾斜路を設置した。
 - らせん状説。石組がレイヤー状の場合、ピラミッドの傾斜に寄りかかるように傾斜路を設置した。

これまで、いずれの説も内部構造についての観察を欠いた仮説であるため、結論は出ませんでした。
ギザの三大ピラミッドの建築水準は高く、保存状態も良いため、他の時代のピラミッドのように崩れた部分がほとんどありません。しかし、ピラミッドの内部の石組構造が観察できる場所が、じつは、いくつかあります。それらは、大ピラミッドの入口付近、北東の角80メートルの凹み、頂上部などです。

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あるいはカフラー王のピラミッドの上部には化粧板と呼ばれる良質な外装石が残っているところがあり、その場所を記録することで、ピラミッド建造の手がかりを得ることができます。
2013年と2015年に、私は大ピラミッドの北東の角80メートルまで登りました。石組構造を観察しました。
その場所は石材が剥がれ落ちてできた「窪み」があり、その奥に「洞穴」のような空間があります。

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そこを記録すれば、内部の石組構造について新たな知見が得られると考えました。実際に登って観察すると、ピラミッド内部は表面とは違ってかなり不規則でした。
この場所をもっと理解するには実測図が必要でしたが、安全のため、重い調査機材などは運ぶことができず、細かい記録や計測はできませんでした。そこで、撮影した画像を用いて、チームメンバーのコンピュータ・サイエンティストの先生に協力をお願いし、「ストラクチャー・フロム・モーション(SFM)」という技術を使って、3Dデータを生成することにしました。結果、ピラミッドの石組構造はガタガタで、これまで考えられていた三つの説のいずれとも違っていたのです。

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2017年、さらに、私達は、ギザの三大ピラミッドの包括的な3D計測調査を行うために、ドローンを用いた産学官共同のオープンイノベーション・プロジェクトとして実施することにしました。
昨年に行われたこの調査において、ドローンを用いピラミッドのそれぞれの面を細かく撮影し、計1万5000枚以上の写真を取得しました。そして、そこから3Dデータを生成しました。

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これに加え、「全地球航法衛星システム」(GNSS)と呼ばれる衛星を用いた測量技術によって、ピラミッドの周囲に基準点を設置し、それらのデータを3Dデータと統合することで、ピラミッドの石材の精確な大きさ位置や方位情報を得られるようにしました。

従来のピラミッド研究では、まず仮説があり、測量データの裏付けが乏しいまま、どの仮説が正しいかという議論をしていました。しかし、私たちはドローンなどの先端技術を駆使して実測し、現場検証によって、客観的データに基づいた実証性のある仮説を提唱しようとしています。今後、大ピラミッド内部の未知の空間については、ミューオン・ラジオグラフィーの森島先生が新しい知見を発表するでしょう。ピラミッドの外側については、私のチームが3D調査を続行しており、年内にその研究成果の発表をする予定です。
こういった最先端調査による新しいデータ、「ピラミッド・タウン」に代表される住居考古学から得られる情報、メレルの日誌などの古文書の解明、多様な考古学データを用い、この時代における建造技術の変容と、さらに、そこから当時の社会の全容も明らかにしたいと思っています。


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