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「土砂災害の特徴と対策」(視点・論点)

国士舘大学 教授 山﨑 登

6月に入って西日本から東日本までが梅雨入りし、今年も大雨の被害が心配な季節になりました。また地球温暖化の影響が大きいとみられますが、最近はかつてはなかったような猛烈な雨が東日本や北日本でも降るようになり、土砂災害が深刻化する傾向にあります。そこで最近の土砂災害の特徴をみながら、対策を考えてみたいと思います。

私は去年の9月まで、NHKで自然災害と防災を担当する解説委員をしていて、全国各地の土砂災害を取材してきましたが、最近の土砂災害の特徴は大きくいって3つあると思います。

一つは、土砂災害はひとたび巻き込まれたら助かることが難しい災害だということです。
国土交通省が突出して犠牲者が多かった阪神・淡路大震災と東日本大震災を除いて、1967年(昭和42年)から2011年(平成23年)までの44年間に起きた自然災害全体の犠牲者に占める土砂災害の割合を調べたところ41パーセントもありました。

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被災地で実際に経験した人に話しを聞くと、「ごろごろと大きな石が濁流とともに流れてきて生きた心地がしなかった」とか「あっという間に隣の住宅がなくなっていた」と声を震わせながら、土砂災害を目の当たりにした恐さを話していました。

二つ目は、土砂災害に襲われる場所はある程度限られているということです。静岡大学防災総合センターの牛山素行(うしまや・もとゆき)教授が、2004年(平成16年)から2014年(平成26年)までの10年間の土砂災害の犠牲者243人について調べたところ、災害に遭遇した場所が公表されている土砂災害危険箇所の範囲内だった犠牲者が72パーセントいました。

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また危険箇所から数十メートル以内の「範囲近傍」は15パーセントで、両方を合わせると87パーセントに達しました。土砂災害は予想もつかない場所で起きるのではなく、ほとんどの場合「起こる可能性が高い場所」で発生するのです。

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また屋内での被災が多いのも土砂災害の特徴です。河川の決壊や洪水などの災害は屋外で避難の途中に被災することが多いのですが、土砂災害は多くの場合、避難が間にあわず屋内で犠牲になっています。

三つ目は、土砂災害は単独で発生することもありますが、河川の氾濫や地震、火山の噴火など大きな災害に付随して起きることが多い災害です。去年の九州北部豪雨では山あいを流れる中小河川が相次いで氾濫を起こし、周辺の土砂や流木を巻き込んで流れくだりました。また2年前の熊本地震でも土砂の被害が出ています。したがって最近地震で強い揺れがあったり、火山の噴火で火山灰などの堆積物がたまったりしている地域は、今年の雨に特に注意が必要です。

“最近の雨の降り方は昔に比べて激しくなった”と感じている人が多いと思いますが、それを雨のデータから裏付けることができます。ニュースや天気予報が「非常に激しい雨」と表現する雨は「1時間に50ミリから80ミリ」の雨のことをいいます。滝のようにゴーゴーというほどに降る雨で、土砂災害の危険性が高まり、地域によっては避難の目安となる雨です。

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気象庁が1時間50ミリ以上の雨の年間発生件数を調べたところ、1976年からの10年に比べて、直近の2007年からの10年のほうが全国平均で33.5%増えていることがわかりました。
実際に去年(2017年)7月の九州北部豪雨では、24時間の雨量が福岡県朝倉市で545.5ミリ、大分県日田市で370ミリなど各地で観測史上1位を記録する豪雨となりました。

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このため山あいを流れる中小の河川があちこちで氾濫し、流木や土砂を巻き込んで流れくだり大きな被害をだしました。また2011年(平成23年)8月から9月にかけて紀伊半島を中心に大きな被害がでた豪雨災害では、奈良県上北山村(かみきたやまむら)で、72時間の降水量が1652.5ミリに達し、国内の最高記録を更新しました。

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この豪雨で紀伊半島の各地で、通常の土砂崩れよりも深いところから崩壊する深層崩壊と呼ばれる大規模な土砂災害が起きました。こうして雨の降り方が激しさを増してきて、土砂災害が深刻化する傾向がみえはじめています。

 では対策をどう考えたらいいのでしょうか。主なポイントは3つあると思います。
一つは、土砂災害の危険箇所を知ることです。「土砂災害防止法」は土砂災害が発生した際に住民に危害が及ぶ恐れがある区域を、都道府県が調査した上で指定し、対策を進めることを求めています。

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指定には2種類あって、住民に土砂災害の危害が生じる恐れがある区域は「土砂災害警戒区域」です。その中で特に生命に危害が及ぶ恐れがある区域は「特別警戒区域」です。「警戒区域」では市町村がハザードマップを作って、住民に危険区域と避難場所などを知らせ、危険が迫った際には避難する仕組みを作ることになっています。また「特別警戒区域」では、新たに住宅や福祉施設などを建てるのを制限する一方、既に建てられている建物には擁壁を作るなどの安全対策を求めています。これらの地域については、市町村がハザードマップを作って各世帯に配布したり、ホームページで公表したりしています。自分の家が、もし「警戒区域」に入っていたら、危険が迫ってきたときには速やかな避難が必要です。特に「特別警戒区域」に入っていたら、土石流などの直撃を受ける恐れがあって、住宅はひとたまりもありませんから、家を離れて安全な避難所などに行く必要があります。
二つ目は、土砂災害が発生する危険性が高まったことを知らせる「土砂災害警戒情報」が出たら、避難など安全を確保する行動を始めることです。「土砂災害警戒情報」は、多くの場合大雨警報が出た後に出る情報で、過去にその土地で土砂災害が起きたのと同じような状況になる2時間程前に出る情報です。「土砂災害警戒情報」は市町村が避難勧告を出すことを検討する手がかりとなる情報ですから、自分の住んでいる地域にこの情報がでたら早めに避難など安全を確保することを考えて欲しいと思います。

三つ目は、周辺で土砂災害の前兆とみられるような、いつもと違う現象がいくつも確認されるようなら迷わず避難をすることです。土砂災害の前には大きな音がしたり、土臭い匂いがしたり、斜面から石などが落ちてきたり、付近の川の濁りがひどくなったり、水位がいちじるしく上がったり、下がったりといった現象が報告されることがよくあります。過去の災害では「土砂災害警戒情報」が災害に間に合わなかったことがありますから、不安を感じたら避難などの行動に移すことが重要です。

ここまで土砂災害の特徴と最近の雨の傾向をみながら対策を考えてきましたが、土砂災害は専門家でも発生を的確に予測するのが難しい災害です。ひとたび巻き込まれたときの被害の大きさを考えると、危険が迫ったら迷わず安全確保の行動をとることを徹底しておくことが重要なのです。国土交通省によりますと、全国には土砂災害の危険箇所が52万5307ヶ所もあります。
土砂災害は他人事ではありません。全国の自治体と地域で備えをすすめ、今年の土砂災害を防いで欲しいと思います。

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