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「フードバンク活動から見えた子どもの貧困」(視点・論点)

NPOフードバンク山梨 理事長 米山 けい子

みなさんは日本の子どもの貧困率をご存知でしょうか。13.9%、実に7人に1人といわれています。私は、フードバンクという活動をしていますが、きょうはその活動から見える「子どもの貧困」についてみなさんと一緒に考えたいと思います。

まずはフードバンクの活動についてご説明しましょう。

日本でまだ食べられるのに廃棄されてしまう食品ロスは、なんと、年間621万トンに上ります。
これは世界食糧計画による世界全体の食料援助量320万トンの約2倍といわれています。
フードバンクはそのようなもったいない食品を無償で寄付していただき、生活に困っている人たちや児童養護施設などに無償で届ける取り組みです。
日本には多くの食品ロスとなる食料がある一方、今、明日の食べ物にも事欠く子どもの貧困が広がっています。

日本の子どもの貧困といわれても、イメージすることが難しい方が多いのではないでしょうか。私は10年前に仕事を退職した後、一人で自宅からフードバンク活動をはじめました。私もフードバンク活動をしていなければ、日本の子どもの貧困に気づいていない1人だったと思います。

貧困の定義は大きく2つに分ける事ができます。1つめは、食べ物がない、家がないなど人間として最低限の生存条件を脅かす様な「絶対的貧困」です。
▼2つめは、必要最低限の衣食住は確保できるものの、普通とされる平均的な生活が困難な状態の「相対的貧困」です。
皆さんは日本の子どもの貧困はどちらだと思いますか?多くの方は世界第3位の経済大国である日本であれば、後者の「相対的貧困」と思われる方は多いと思います。しかし私達のフードバンク活動からは、明日の食べ物に事欠く「絶対的貧困」に近い子どもたちの現状が明らかになっています。
私が日本の子どもの貧困に気づいたのは、フードバンク活動で食料支援を受けている方からの返信ハガキからでした。この返信ハガキは食品と共に同封し、私たちと利用者をつなぐ、とても大切な役割を果たしています。

ご紹介させていただきます。
「品物が届きました。ここ数年、本当に大変な思いをしていました。2年前、1日に豆腐1丁しか食べさせることが出来ない時がありました。体の大きな孫は空腹で眠れずに、夜中にふと気付くと台所でボーっと立ちすくんでいました。その姿は今でも忘れることができません。」という内容でした。夜中に台所でお腹を空かせた子どもを見た祖母のどうにもできない悔しさや悲しみが内容から伝わってきました。

 では、何故いまお伝えしたように、非常に状態の悪い子どもの貧困の実態が社会には見えにくいのでしょうか。私はその要因は日本に根付く「恥の文化」だと思っています。
「恥の文化」とは、思いやりがある、礼儀正しいなど日本人の長所ともされてきました。反面、自己表現が消極的、人目を気にしすぎているなど貧困に陥った場合は「人に知られたくない」といった、SOSを出しにくくしてしまう短所でもあるのです。これから紹介する返信ハガキからそれを汲み取る事が出来ます。

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「この度は、食料支援をしていただき本当にありがとうございました。子どももとってもいい笑顔で喜んでいました。フードバンクの車でフードバンクのジャンバーを着た人が配達してくれるものと思っていたのですが、郵便配達でご近所に知られる事もなく、少しホっとしました。いろいろとご配慮していただき感謝いたします。なんとか今の苦境を乗り越え頑張っていこうと思います。」

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利用者がSOSを出しやすいように、食品を宅配便で送る配慮もその1つです。
本来、明日の食べ物にも事欠く状態であれば、「私は困っています、助けて下さい」と手を挙げSOSを発信すれば、ご近所や親族、会社の同僚などが手を差し伸べてくれることでしょう。
しかし、日本人特有の「恥の文化」で声を挙げずに食費を削って我慢するなど、自分で何とかしようとさらに貧困を重篤にしてしまっているのが現実です。そして最もその影響を受けやすいのが弱い立場の子ども達です。
2016年に実施した子どもの貧困の把握に関する教育機関向けアンケート調査があります。それによると「子どもが貧困状態にあると感じた経験」は約半数(47%)の先生が「ある」と回答しています。

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さらに「子どもが貧困状態にあると感じたのはどの様な場面、状況ですか」という回答では、何らかの集金の未納や子どもの衣服の汚れ、綻びなどが一番多くなっています。しかしここで私が一番注目するのは、「親からの困窮状態についての相談」が最も少なかったことです。
では何故親は生活が困窮しても先生に相談しないのでしょうか?これもまた「恥の文化」が大きな要因となっていると思います。さらに調査の記述回答には、学校から見える子どもの貧困の厳しい実態が見えてきました。

・かなりサイズが合わなくなった衣服が見うけられる。上履きなどもボロボロになっても使うしかない状態。
・弟や妹にご飯を食べさせる為に自分はあまり食べない。
・給食時に食べることに必死な姿を見ることがある。
・お腹が空いて何もやる気にならない

では、これから私達大人や社会が子どもの貧困対策をどう進めていくべきか考えたいと思います。私は、貧困問題の専門家でも研究者でもありませんので、1人の活動家として現場からの意見としてとらえて下さい。

日本の子どもの貧困は見えにくいのですが、これまでお話したように私達が思っている以上に深刻化しています。それはリーマンショック後の経済状況の悪化に加え、本来、セーフティネットとして機能するはずの、地縁、血縁、社縁、つまり会社を基礎とするつながりが衰退したことも要因であると思います。

私達フードバンク山梨では、学校給食のない夏休みに食料支援・学習支援・体験型イベントなどを実施する「フードバンクこども支援プロジェクト」を始めています。

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このプロジェクトは食品・運営費の寄付、ボランティアと多くの企業・市民が参加できる仕組みです。利用者に送る食品は誰からの寄付なのか顔の見える関係ではありません。寄付者にとっても誰を支援しているのか分かりません。それはこれまでの顔と顔の見える縁ではない新しい縁と言えるでしょう。全国でそのような新しい縁の再生、つまり、つながりを作っていくために、学習支援・こども食堂、そしてフードバンクなどの民間団体が活躍していくことが大切だと思っています。

最後に3000通を超える返信ハガキの中から、その新しい縁を感じる一通をお伝えしたいと思います。

「最初は私なんかが支援を受けて良いのだろうか?などと悩んでいましたが、テレビで高校生たちのボランティアの方たちが箱詰めしてくれているのを見て、胸が熱くなりました。支えてくれる人たちがいるという事や私達と同じような境遇の人も沢山いるという事を知り、頑張っていこうと新たに決意しました。」

このハガキから新しい縁により親子の前向きな姿を感じ取ることができます。
この様な子どもたちが、夢や希望を失わないように、今を生きる私達大人がそれぞれの立場からできることを行動に移していくことが最も大切なことだと思います。


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