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「教育の現場と著作権」(視点・論点)

コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事 久保田 裕

著作権法の一部を改正する法律が5月18日に成立しました。著作権法は、他人の著作物を利用するときは、その著作権者から許諾を取る必要があることが規定された法律ですが、例えば、報道目的であったり、特定の条件を満たした場合の引用など、著作権者の許諾を得ることなく自由に利用できる例外規定も数多く定められています。

著作権法では、この例外規定のことを、著作権者だけが持つ著作権を制限するという意味から、制限規定と呼んでいます。今回の改正では、この例外にあたる制限規定が、時代に合わせて拡張されました。
具体的な改正の中身として、情報解析サービスなど、著作物が含まれるビッグデータを活用したサービスのために著作物を利用する際、著作権者の許諾なく行えるようになり、また障害者の情報アクセス機会の拡大整備や、アーカイブの利用・活用を促進するための規定も新たに盛り込まれています。
そして、私がもっとも注目しているのは教育の情報化に対応した例外規定として、権利の制限規定を整備したことです。
他人の著作物を学校教育で利用するためには、冒頭で説明したとおり、原則として著作権者の許諾を得ることが必要ですが、例外的に今までは、授業のための複製と、場所の異なる学校間における同時授業のための公衆送信に限り、許諾なく行うことができました。
今回の改正著作権法では、この条件を満たさない場合であっても、学校の授業に関わる利用であれば、授業時間だけでなく、例えば予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材を、ネットワークを通じて生徒のパソコンやタブレット端末などに送信する行為についても、教育機関が補償金を支払うことで、個別の許諾をえることなく行えるようになります。
本改正で、ICTの活用による教育の質が向上し、また、教育のあり方事態も大きく変わることが期待されます。
改正著作権法の施行期日は平成31年1月1日ですが、教育の情報化に対応した権利制限規定についてだけは、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。これは、教育機関における補償金制度を新たに整備するための期間が必要だからです。
このように、教育をめぐる著作権の制度が大きく変わり、先生方も今以上に既存の著作物を教育に積極的に活用し、授業の内容もより深まっていくことでしょう。また、子どもたちの学習内容も、新学習指導要領では知的財産権教育の充実が図られており、私も委員として知的財産権教育のための教材作成に加わっています。
新学習指導要領が小学校では2020年度、中学校では2021年年度、そして高等学校では2022年度からそれぞれ全面実施されます。
私は、来たるべき将来に備えて、先生方には、知的財産権、とりわけ著作権の正しい知識を身につけていただきたいと考えています。それは、児童・生徒たちの知財教育は表現を伴った創作行為を通じて学ぶことが多いからです。さらに、先生方が授業を行うための教材の充実や授業そのものに著作権の知識が必要であることは言うまでもありません。
 これまで私は、全国の高校や大学における著作権教育に携わってきました。現在では著作権という言葉を知らない先生はいませんが、著作権のルールの内容を正しく理解されている先生はまだ少数です。
例えば、「学ぶ」と「まねぶ」という意味を取り違え、教育のためであれば何でも自由に使えると思い込み、著作権法で定める教育機関における複製という権利制限規定の範囲を超えてしまったり、違法送信してしまっている場合があります。一方、著作権法には罰則もある事から、本来は利用可能であるのに、他人の作成した文章や写真、イラストなどの著作物の活用を差し控えてしまっている場合もあります。
すべての教員が正しい知識を持てば、このような差し控えや解釈ミスを起こすことなく、適切に著作物を活用できるでしょう。また、そもそも著作権のルールは「他人の著作物を利用するときには著作権者から許諾を得る」というのが原則ですから、権利制限規定の解釈に悩むのであれば、許諾を得てしまうという方法もあるのです。
 さて、先生方が正確な著作権知識を得て、子どもたちへの指導力を身につけていただくためには、教員養成課程において、著作権法を必修科目とすることが一番だと考えています。また、教員免許更新の際の研修必修科目としていただきたい。しかし、現状ではいずれも実現していないことから、当協会は別の角度から先生方の学びをサポートしています。
 例えば、教育委員会の実施する情報化研修の一環として、ICTを活用した教育にともなう著作権法の注意点や情報モラルについて講演を行ってきました。タブレットや電子黒板の活用など、すでに様々なICTを活用した教育を実践されている先生方は問題意識が高く、法とモラルの違いなといった抽象的な質問から、AIの作った作品の財産権といった新しい分野への質問など、たくさんの質問をいただきましたが、すべての教育委員会で実施しているわけではありません。
 現在、私は、山口大学、東京工芸大学・松本大学など、さまざまな大学に著作権教育の成果をお伝えし、知識とノウハウの共有を図ってきました。
一方で、著作権学習の成果をはかるために、ビジネスと著作権に着目した検定があります。私はその検定試験の委員長として普及に努めていますが、同時に学校・教育機関に特化した、先生および先生を目指す学生さんに向けた検定の必要性を感じていました。 そんな折り、数年前に大阪教育大学の片桐教授と山口大学の木村教授から、教員志望の学生向けに著作権の指導と著作権検定試験について相談を受け、すぐに開発に着手し、福岡教育大学の大和教授などの協力を得て、教育に特化した著作権検定を今年初頭からスタートさせました。 本検定の特色は、情報化社会全般に視点を置きつつ教育現場に特化した内容であることが挙げられます。そのうえで、検定は合格、不合格、という形式ではなく、得点率をもとに5段階で知識レベルの認定を行うものです。先生方には現在の自分の著作権の知識レベルを知ることで、今後の著作権学習に活かしていただくことを目指しています。 今年2月には、大阪教育大学、京都教育大学、奈良教育大学をテレビ会議システムで結び、教員志望の学生向けに新検定問題を利用した著作権の特別講座が開催されました。
 著作権は、絵や文章や写真などを創作した時点で、自動的に発生する権利です。プロだけに与えられる権利ではなく、小学生が描いた絵や作文にも著作権はあります。
 著作権と一言で言いますが、その中には複製権や公衆送信権、上演権、演奏権などのさまざまな権利が含まれています。また複製権などの財産権だけでなく、意思に反して自らの著作物を変更されない同一性保持権などの著作者人格権が含まれます。 講義を受けたある学生から、「小学生時代に、自分の作品を先生に直されても当然だと思っていた。自分が教員になったら、著作権の知識を踏まえて子どもの作品の表現や意味を損なわないように適切な指導を行いたい。」との感想をもらいました。
 児童学生の創造創作を引き出し醸成させるという使命を担っている先生方には、ぜひ創作を大切にする著作権教育を実施していただきたいです。最後に、改正著作権法の施行状況についても注意を向けてください。

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