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「NPO法20年 その意義と未来は」(視点・論点)

法政大学 名誉教授 山岸 秀雄

 今年はNPO法が成立、施行されてから20年、私がアメリカのNPOを紹介して、日本でNPOの運動を始めてから30年経ちました。そこで今日はNPO、日本語では民間非営利組織と言いますが、その活動と成果、課題等について話したいと思います。

NPOとは「ボランティアや寄付等の社会的資源を活用して公共的サービスを提供する独立・非営利の民間事業体」のことです。 
NPOは、高齢化社会、貧困、環境問題など地域や社会の様々な問題解決に取り組んでいます。
今社会で話題になっている行政と企業の不正、癒着、非効率な社会構造はあまり変わっていません。この現実は行政と企業が中心になって作ってきたものであり、こうした社会の改革のために行政セクター、企業セクターに次ぐ第3のセクターである市民セクターの確立と活躍が期待されています。阪神淡路大震災を契機にNPO法の立法化が推進され、NPO法、すなわち特定非営利活動促進法が実現しました。 この法律の意義は市民が参加して新しい公共を作り、一定の責任も持っていくというものです。
日本は海外の国々の制度から遅れること30年とも100年ともいわれています。3つのセクターが協力やチェック体制を組むことによってバランスの良い社会を構築していく、これは成熟した市民社会への第一歩といってよいでしょう。NPO法の成立は小さな改革にも見えますが、市民が公共に関与するという面で明治維新以来の社会変革をもたらす制度といってもよいでしょう。

NPOは多くの問題を抱えながらも輝かしい成果と発展を遂げているといってよいでしょう。

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図に見るようにNPOの法人数はすでに5万団体を超え働いている人は約50万人になりました。社会貢献の事業を展開しています。NPOの存在が見えるようになったといってよいでしょう。市民が様々な社会問題に取り組み、色々な場面で市民参加が実現してきました。行政の施策段階から市民参加することから市民参画という言い方をします。

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こちらは、NPO法人の活動分野を示したものです。NPOの活動は多様性に富み、市民の思いを形にする可能性に満ち満ちています。高齢化社会、貧困、子供、環境の問題をはじめ 行政の力だけでは政策を実現することが困難な課題がますます多くなってきました。市民はNPOという道具を使って地域や社会の課題解決に乗り出し、社会システムの変革にも参加するようになりました。柔軟で、先駆的な活動を通じて自己実現も果たせるようになりました。図を見てわかるように福祉活動が全体の4割を占め、次が子供の健全育成の課題です。
アメリカでは福祉の実践のほとんどをNPOが担いますが、日本でもNPOの活動が目立つようになりました。福祉の現場では3~4年で異動する福祉担当の行政マンより10年、20年と活動するNPOのスタッフのほうがはるかに専門性が高いという現実があります。
重要な役割を担うNPOですが、継続的に活動を続けるためには収益を上げることも重要です。

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こちらは、NPO法人の一年間の収益を示したものです。
500万円以上の収益を上げているNPOがおよそ60%に達しています。社会貢献をビジネスにするといってもよいNPOの経済力も上昇し、ボランティアや趣味の団体という当初の印象から大きく成長したといえるでしょう。それでもアメリカや各国のNPOがGDPの7%近い数字を占めていることと比べると日本ははるかに及ばないことがわかります。

 そこでNPO経済について現状をお話しますと、NPOにとって、行政との協働の問題が大きな期待でもあり、課題でもありました。しかし最近の政治動向の影響で国の協働事業、自治体の協働予算が削られ、行政との協働は大きく後退しています。さらにNPOを行政の下請けとみる傾向が強まり、契約金も大きく削る傾向にあります。対等な関係の中から生まれる協働原則から遠くなっている傾向が強まっています。
NPOは利益を出すことを主目的にしない組織原則ですが、スタッフの雇用や家賃等の支払いは大きなものになり、資金問題が最大の課題になります。日本の寄付やボランティアは各国の水準から言えば、はるかに低い位置にあり、資金問題はNPOを幾重にも苦しめる結果を招いています。助成金、融資、寄付等あらゆる方法、機会をとらえて必死に努力しているのが現状です。
NPOは企業と違い、人材が占める役割が大きく、難しい時代に対応できる専門性を有する人材確保、訓練が大きな課題になっています。

NPOとっての常に重要なことは、NPOの強みを発見し、発展させることによって新しい連携の形と社会的影響力の転換を図ることです。またアドボカシー・政策提言型の運動展開も行政の下請け組織にならないためにも重要です。
NPOの得意技は社会的関係を横につなぐ力です。

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図を見てください。始めのネットワーキングは約30年前のキーワードですが、市民活動団体間の協力拡大のための運動で「共通の価値観と目的による連携」を表現したものです。
 NPO論議が始まった時に盛んにパートナーシップ論が議論され、「違いを超えた新しい協力関係」協働の在り方の検討が始まりました。
プラットフォーム論(舞台)は主に地域における新しい連携の実験です。プラットフォームとは多様な組織が集まってお互いの強みを生かす舞台・コミュニティのことです。提唱者は私ですが、次第に全国に広まっています。産官学民プラットフォームの実験を首都圏で十数年実践してきましたが、これには10地域、40以上の大学が参加しています。もちろん自治体、企業、商店街なども参加して地域課題を多様性、多分野性、広域性、総合性の中で検討し、大学も地域の財産として参加して、NPOと大学を担い手とする、新しいコミュニティの創造を目指してきました。NPOと大学が対等の形で連携していることが、大きな特徴です。

プラットフォームの例を挙げると、千葉県柏市では柏の葉キャンパスでの実験に民間の不動産関連企業と東大、千葉大、NPO支援センターちば、生協、商店街、行政等が連携して、マンション販売開始から住民も含めた、新しいコミュニティ創りに乗り出しています。
また法政大学もプラットフォームの実験を進めています。法政大学大学院は大学改革を推進するなかで、大学院の研究教育機能を社会的実践性の中で高め、社会人大学院生のニーズに合わせた枠組みを用意し、NPO、労働組合、協同組合によるサードセクターと大学が連携して、労働組合・連合の寄付によって大学院修士コース「連帯社会インスティテュート」を設立し、新しい実験を始めています。NPOの実践と大学の知的財産を結合させ、シンクタンク機能としての政策提言やサードセクターの人材育成に乗り出そうとしています。
これからNPOは社会戦略をもって、社会の支援機能を開発し、「社会が育てるNPO」のシステム形成の実現が試金石になると考えられます。

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