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「南北・米朝首脳会談と平和への模索」(視点・論点)

早稲田大学大学院教授 李鍾元

 板門店(パンムンジョム)での南北首脳会談に続き、米朝首脳会談の開催が視野に入ってきました。朝鮮半島の平和への模索が本格化している、といってよいと思います。まだ課題が多く、安易な楽観論は許されません。しかし、北朝鮮の核問題に突破口を見出し、65年間続いた朝鮮半島の戦争状態を終結させる大きな機会であることは間違いありません。

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 去る4月27日、板門店で開かれた首脳会談で、南北の首脳は「完全な非核化」の実現と、朝鮮戦争の終結宣言、休戦協定の平和協定への転換を進めることに合意しました。2007年の南北共同宣言でも同様の試みがありました。しかし、今回は、南北首脳会談だけでなく、史上初となる米朝首脳会談がセットで進められているという点に特徴があります。
 4月27日の南北首脳会談で出された合意文書「板門店宣言」の要点は、①「完全な非核化」、②「朝鮮戦争の終結宣言」、③南北関係の発展の3つであります。

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この3つの議題は密接に連動しています。第1の非核化が進展しなければ、第2の戦争終結も、第3の南北関係の進展も期待できないという構図です。要するに、米朝首脳会談で非核化の問題が解決されない限り、南北だけでは前に進めない状況になっています。
 その点で、第1の「完全な非核化」の明記は意味を持ちます。確かに問題の重大さに比べて、抽象的な表現にとどまり、核放棄への具体的な道筋は示されていません。しかし、キム・ジョンウン委員長が初めて非核化への意思を文書で表明したことが、米朝首脳会談開催の土台になったといえます。
アメリカは、CVID、すなわち「完全かつ検証可能で、不可逆的な核廃棄」を求めています。

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その中で、とりあえず、C、「完全な」非核化を約束した形です。Vの検証可能性やIの不可逆的という部分は、いわば核廃棄にいたる「ロードマップ」に関わる事柄であり、トランプ大統領とキム・ジョンウン委員長との間の会談で交渉されることになります。重要なのは核廃棄に至る「期間」の長さです。ロードマップの期間が長ければ、その間は、北朝鮮の核保有を事実上認めることになります。アメリカはトランプ政権の任期内、つまり2年以内の完了をめざしていると伝えられています。
 本当に北朝鮮は核を放棄するのか。蓋を開けてみなければ分かりません。北朝鮮の核開発をめぐっては、長年にわたって不信感が深まり、依然として大きな溝が横たわっています。今回、韓国とアメリカは、キム・ジョンウン委員長との様々な接触を通じて、北朝鮮の姿勢が以前よりは真剣であると判断し、史上初の米朝首脳会談を主な手段として、一気に核問題の解決を図る戦略を取っているように思います。報道では、ポンペオ長官の訪朝など水面下の接触で、北朝鮮はアメリカ側の条件をほぼ受け入れたといいます。
 なぜ、キム・ジョンウン委員長は、核の放棄に応じる姿勢を示しているのか。基本的に「経済」がキーワードであると思います。より正確には「経済建設」です。強力な国連安保理の制裁で、北朝鮮の貿易の大部分が抑制されています。経済制裁で北朝鮮が現に危機状況にある訳ではありませんが、その負担は重くのしかかっています。しかも、若い指導者であるキム・ジョンウン委員長は、制裁を何とか凌いで、生き残りを図るだけには満足せず、北朝鮮の経済再建をめざす野心的な計画を打ち出しています。そのためには、国際社会の支援が不可欠であり、アメリカとの関係を改善するためには、核を放棄せざるをえない、ということは、金委員長も良く知っているはずです。
 第2の焦点は、「朝鮮戦争の終結宣言」です。平和協定の締結は、以前からの北朝鮮の主張ですが、朝鮮戦争の終結宣言は、2007年以来、韓国が提案したものです。今回も、「今年に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換」することに合意しました。

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国際的な条約である平和協定の締結よりは、関係国の首脳による戦争終結の宣言が現実的に進めやすいという判断だと思われます。そのための枠組みとして、「南・北・米の3者または南・北・米・中の4者会談」が併記されました。韓国としては、現在朝鮮半島で軍事的に対立する主体である南北とアメリカの3者がまず緊張緩和措置を実行することで、平和協定の行方が米中関係の動向に影響される事態を避けたいという思惑があるのかも知れません。しかし、中国は終戦宣言の段階から加わる意思を表明しており、南北と米中の4者で進めるのが現実的でしょう。トランプ大統領はすでに終戦宣言を支持する意向を明らかにしており、米朝首脳会談で非核化に合意すれば、朝鮮半島の平和体制をめぐる動きが本格化することになります。
 第3の議題である南北関係の進展については、2007年の共同宣言の内容を含め、多くの交流・協力事業が列挙されました。その中で、韓国が重点を置いたのは、軍事的な緊張緩和措置と、南北協議の枠組み、すなわち、首脳会談の定例化や南北共同連絡事務所の設置などです。米朝首脳会談が「成功」した後に、南北間の交流と協力を迅速に進めるための体制づくりと言ってよいと思います。
 現在までの状況を総合すると、米朝首脳会談では、北朝鮮の「完全な核放棄」という原則に加え、数年以内の廃棄に向けたロードマップの概略が合意される可能性があると思われます。ただ、その実行過程には多くの不安定要素があるのも事実です。北朝鮮が誠実に合意を実行するかをしっかり確認する査察が重要になります。また、どの時点で、どのような見返りを与えるかについても、国際社会のコンセンサスが不可欠です。核だけでなく、ミサイルや人権などの問題がどのように扱われるのかも注目点です。
一方で、終戦宣言や平和協定など、朝鮮半島の冷戦対立に終止符を打つための外交が急展開を見せる可能性もあります。朝鮮半島の分断状況がどのように変わるのか。その方向性やスピードをめぐっては、南北はもちろんのこと、関係国の利害は必ずしも一致しません。朝鮮半島の平和への模索そのものが、激しい外交戦の舞台になるかも知れません。
朝鮮半島の平和プロセスは、日本の外交や安全保障にも様々な課題を突き付けることになります。近年、日本では「戦争への備え」が議論の中心をなした感がありますが、それを踏まえつつ、「平和への構想」も必要になってくるのではないでしょうか。核問題だけでなく、中距離ミサイルの脅威や拉致問題など二国間の懸案を抱える日本の立場に即した、平和的解決の構想と戦略が求められる局面を迎えています。

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