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「アホウドリ復活へ保全の成果と課題」(視点・論点)

山階鳥類研究所保全研究室 室長 出口 智広 

みなさんはアホウドリという鳥をご存知でしょうか?
100年少し前までは数百万羽もいた鳥ですが、乱獲によって一時は絶滅の縁に立たされました。その後、研究者らの献身的な保全活動が続き、小笠原諸島への移住作戦が始まってから今年で10年を迎えました。
本日は、アホウドリのこれまでの保全活動とその成果、そして残された課題についておはなし致します。

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わが国の特別天然記念物であり、国際自然保護連合の絶滅危惧II類にも指定されているアホウドリは、北半球で見られる中で最も大型の海鳥で、翼を広げると2.4m、体重は5kgに達します。

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かつてアホウドリは、伊豆諸島鳥島や小笠原諸島、大東諸島、尖閣諸島、台湾周辺などの島々で大集団をつくり、繁殖していたと言われています。
しかし、明治中期以降、布団や羽飾りの材料として海外で需要が高まっていた羽毛が、蒸気船の発達で輸出が容易となったことにより、乱獲されるようになりました。さらに、肥料として化石化したふんを採掘するため、営巣地の破壊も行われるようになり、アホウドリは急速に姿を消しました。

このような状況を心配し、伊豆鳥島で現状確認を行った当研究所の創設者 山階芳麿博士はアホウドリを禁猟とするよう政府に強く働きかけましたが、時既に遅く、1949年には絶滅と報じられました。
しかし、その2年後、気象観測所の職員によって約10羽の生存が再確認されました。繁殖の失敗を防ぐため、ひなを捕食するおそれのあるノネコの駆除や、営巣地の整備が1960年代まで続けられました。これらの活動は一時途絶えましたが、1980年代から東邦大学の長谷川博氏により、営巣地保全管理のための砂防・植栽工事が行われ、アホウドリは繁殖成功率を約70%に維持するようになりました。

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さらに、再確認された伊豆鳥島の営巣地は地滑りで崩壊しやすい急斜面のため、1992年から島のなだらかで安定した場所に誘引するためにデコイと呼ばれるアホウドリの模型と音声装置を設置し、新しい営巣地を作る取り組みが環境省と山階鳥類研究所によって始められました。

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これらの努力によって、ご覧のグラフのように、伊豆鳥島では繁殖個体数が年率7%以上の速度で増加し、2017年時点でつがい数約800組、総個体数約4600羽にまで回復しました。

 このようにアホウドリは順調な回復を遂げてきましたが、個体数の増加にともない新たな問題も生まれました。

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渡り鳥であるアホウドリは、非繁殖期の夏から秋をアリューシャン列島周辺やベーリング海で過ごすのですが、この海域で盛んに行われる延縄漁業の際に、アホウドリが誤って捕獲され死亡するという報告が1995年から目立つようになったのです。
この状況を受け、アメリカ政府は2000年にアホウドリをアメリカの絶滅危惧種に指定しました。アメリカの絶滅危惧種法は、対象種の回復計画の作成を義務付けています。そこで、アメリカ政府が事務局となって、日本やアメリカらの専門家からなるアホウドリ回復チームが組織されました。これ以降、アホウドリは国際的な協力の下で保全活動が進められるようになり、日本側は営巣地、アメリカ側は非繁殖期の餌を得る海域での取り組みが主な役割分担となりました。回復計画には、アホウドリの繁殖状況の継続調査、餌を得る海域の特定、漁具の改良などが組み込まれています。中でも、もっとも重要と考えられた営巣地の分散を、山階鳥類研究所がアメリカ政府と日本の環境省の協力を得ながら取り組むことに決まりました。
営巣地の分散とは文字通り、営巣地を増やすことです。
 回復チームが組織された時、アホウドリの営巣地はわずか2か所でした。

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一つは全繁殖個体の8割以上が営巣する伊豆鳥島ですが、過去100年で4回も噴火した活火山の島で、最近では2002年にも小噴火しました。もしこの島が繁殖期に大噴火すれば、アホウドリは再び絶滅の危機に陥るでしょう。
もう一つは、推定で数十つがいのアホウドリが繁殖する尖閣諸島ですが、上陸調査ができないため現状把握が難しく、まして十分な保全活動など不可能です。そこで、この2か所以外に営巣地を設けることが、アホウドリという種の存続には不可欠という合意に達し、過去に失われた聟島(むこじま)列島の営巣地を復活させる試みが決まりました。

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聟島列島は小笠原諸島の北側に位置し、鳥島から南東に350キロ離れています。噴火のおそれや政治問題の無い無人島です。ここでは、1930年頃までアホウドリが繁殖しており、近年、再び飛来が確認されるようになりました。
 聟島列島では、アホウドリの繁殖ができるだけ早く始まるように、デコイと音声装置を設置して誘引することに加え、伊豆鳥島で生まれた幼いひなをこの場所に運び、調査員が巣立ちまで育てるという、全く前例のない、より積極的な取り組みの実施も決まりました。これは、巣立ちしたひなが海上で数年間暮らした後、幼い頃に育った場所へ戻り繁殖するアホウドリの行動特性を生かした方法です。
 事前に2年間、近縁種で行った試験調査の結果をふまえ、2008年から2012年にかけて、アホウドリの幼いひなを毎年10〜15羽、計70羽を伊豆鳥島から聟島列島の聟島にヘリコプターで運びました。

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そして、調査員が現地で毎年100日間、巣立ちまで飼育しました。その結果、野生のアホウドリの繁殖成功率と同等の69羽が無事巣立ちました。さらに、ひなに装着した衛星発信器の追跡結果から、飼育個体の巣立ち後の生存率や移動軌跡は、野生個体と同等だったことが分かりました。
 また、聟島の飼育地には、2009年からアホウドリの野生個体が、2011年から飼育個体が飛来するようになり、現在は十数羽の飛来が毎年確認されています。
そして、その中から1組のつがいが生まれ、2016年から毎年、ひなを誕生させるようになりました。

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加えて、聟島近くの2つの島でもアホウドリの繁殖が確認されるようになりました。幼いひなを運び育てるという世界で初めての試みによって、聟島列島ではアホウドリの繁殖が80年ぶりに再開されるようになったのです。

 聟島列島での繁殖確認の早期実現は、現繁殖地に問題を抱える他のアホウドリ類にとって希望の光となっています。

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ニュージーランドのチャタム諸島では、小さな島1か所のみで繁殖するチャタムアホウドリの営巣地の分散を図るため、アホウドリの取り組みを手本として、他の島に運び育てるプロジェクトが進められています。さらに、ハワイでは、温暖化による海面上昇がもたらす繁殖地水没の被害を軽減するため、海抜数メートルの北西ハワイ諸島から標高の高いオアフ島の安全な保護区内に、クロアシアホウドリのひなを運び育て、新しい営巣地を創る取り組みが進められています。

 さて、これまで、アホウドリはただ一つの種群と考えられてきました。しかし、最近の研究結果から、伊豆鳥島を主な営巣地とする集団と、尖閣諸島を主な営巣地とする集団とでは、遺伝的には別種と言えるくらい異なっており、形態や行動にも違いがあることが分かってきました。

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伊豆鳥島や聟島列島では、片方の集団に属する個体だけでなく、どちらも繁殖に訪れています。今後は、個別の集団として保全を図ること、特に、個体数がまだ少ないと推定される、尖閣諸島由来の集団の独自性を守る事が、これからの研究者の重要な務めとなるでしょう。


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