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「ほめるコツ しかるコツ」(視点・論点)

落語家 立川 談四楼

立川談四楼でございます。今日は、「ほめるコツ しかるコツ」ということで、話をしたいと思うんでございますが、この、ほめることもしかることも実は、けっこう難しいんですよね。

とにかく相手があることですから。ですから普段から相手のことをよく知らないと、行動とか、どういう性格ですとか知っていないと、つまり洞察力をちょっと働かせないと、いざという時、効果が少ないものなんでございますね。幸いのことに、私は楽屋育ちでございまして、年寄りがいっぱいいまして、色々とレクチャーを受けたわけなんでございますけれども、彼らが言うのは必ず「ほめる時は長く、そしてしかる時は短く」ということをおっしゃってました。そりゃそうですよね、ほめられた時は延々とやられたほうが気持ちがいいですよ、それはね。で、しかる時、小言を食う時は、もちろん短いほうがいいに決まっているわけでございます。そして、いずれの時にでも、そのポイントを外さないほうがいいと、こんな風にも教わったものでございますね。
ほめる時はちょっとズレててもいいけれど、しかる時、小言を言う時なんかは、ポイントを外さずに短くポンポンと言いなさいよと、こういう風に教わったもんでございます。
楽屋なんかの師匠連を眺めてますとですね、ほめる時は人前でほめなさいと、こういうことを言いましたですね。で、叱る時は人前ではやらないほうがいいよと。さっきも言いましたが、人前でほめられると、つまりギャラリーがいてちょっと誇らしいですよね、嬉しいもんで、この時間が長く続けばいいっていうようなもんでございますけれども、人前で叱られたり小言を食うとですね、恨みを買うことがあるんでございますね。
つまり、ちょっとだけアドバイスみたいに叱ったつもりでもですね、大勢の前ですから恥をかかされたといって恨みを買うことがほんとうにあるんでございますよ。ですから、その人の性格なんかもよく知ってないと、小言、つまり叱ることも難しいということなんでございますね。
で、こういうことわざ、皆さんご存じでございましょうか、「小言は言うべし酒は買うべし」と、こういうことわざなんでございますね。これは、つまりは小言を言う際には、例えばこれを会社に例えるとですね、社長さんがちょっと社員になんか言いたいことがあると、そういう時には、もちろん言ってもいいんですけれども、ちゃんとした、つまり環境づくりですね。給料がいくらいくらでもって、厚生施設があって、そしていわゆる残業なんかはそんなにないよという前提だと、小言が、つまり叱っていることが伝わるらしいんですね。
給料は安いわ、残業は滅茶苦茶あるわ、今で言うブラック企業でございますね、そういう人に向かって、苦労してる人に向かってなんか言ったって、それは通じるもんじゃないと、こういうことなんでございますね。つまり、サラリーマンですと上司がですね、ちょっと部下になんか言いたい時。小言のようなことをですよ、叱りたい時は気軽にですね、「どうだ、君、今晩空いてるか、ちょっとどうだ」なんてんでね、居酒屋なんかに誘ってですね、「まあまあ、飲みなよ、飲みなよ」ってなもんで、「どうだ、プロ野球がいよいよ始まったな」とか、そういったところから入ってですね、相手がほぐれたところで、「先日の仕事の件だけどね、ああいう時は、こうしたほうがいいよ」とか「こんな手もあるよ、こんな方法もあるよ」と言って、「もうお終い、お終い、お終い、お終い。さあさあ、大いに飲もうじゃないか」なんというのを、「小言は言うべし酒は買うべし」と、私はそう理解をしているんでございます。

ここで私が接した、いわゆる「ほめる人 しかる人」ちょっと身近なところで申し上げますと、私の師匠の立川談志という男でございますね。この人は毒舌でならしておりまして、小言を言う時のボキャブラリーは豊富でございますよ。よくこんな言葉を知ってるなというぐらい、それが立て板に水で、トントントントンと来ますからね、もう完膚無きまでに叩きつけられましてですね、もう立ち直れないぐらい凹んだりなんかもするんでございますが、のべつにこれを言われてると、不思議なことですね、慣れるんですね。ですから小言を言われつけてない人に言う時は、やっぱり気をつけなくちゃいけないですね。いきなり言うとほんとに意気消沈しますので、その耐性のある人にはバンと言ってよしと、こういうことなんでございます。で、談志の毒舌というのは営業品目なんですね、実は。そういう人がいないとバランスが取れないからって呼んでもらったりしてたんですけれども、実は談志は褒めるのも上手いんでございますよ。
これは意外でございましょう。いわゆるジャンルを跨いで、全然別の業界に素晴らしい人がいるとすると、談志はその人を訪ねてったりするんですね。それでズバっと、「こないだのあれが素晴らしかった。会えて良かった」てなことを言って握手を求めたりして、向こうも感激して、そこから親交が始まるというようなのを何度か私、目撃をしてるんでございます。で、その人がなんと弟子をほめることもあるんです。こっちが落語やってると、楽屋かなんかにいるんでしょうね、下りてきて、「お先、ありがとうございました」てなこと言うと、「誰に習った?」こう来て、なんかこれしくじったかなと思うと、そうじゃない、「いい、いい、誰だ、うん、あ、あの師匠なら間違いない。で、お前、よくそれを解釈して、うん、これはお前、売りもんになるぞ、商売もんになるぞ、しっかりやれ」なんてことを言われて。ほめられたことが滅多にないだけに、これは滅茶苦茶に嬉しいんですね、ぽーっとなってしまうぐらい。その使い分けといいますか、談志が言ってたのは「ほめる時に照れるな」ってことを言ってました、よく。ですから真顔でほめてくるんですね。だから説得力があるというやつでございまして、どうも人をほめる時ってやっぱり照れてしまうんですね。だから、ちょっとこう笑い顔でほめたりすると威力が半減するのでございます。ですから照れずにストレートで勝負しろと。どこがいいか、どう素晴らしいかを言いなさいってことを談志は言ってました。
それで、もう1人業界人を紹介したいんですが、古今亭志ん駒さんと言いましてですね、ご親交いただいたんでございますけれども、惜しいことについ先だってお亡くなりになって。この人が業界からどう言われてたかというと、「よいしょの名人」と、こう言われていたんでございますね。とにかくもう朝起きると家族へのよいしょから始まるっていう人なんですね。で、もう世間へ出たって、歩いてる人が客に見えてしょうがないという。もうよいしょしまくりで、なんとこの人には指紋がないと言われてるんですね。というのは、これですね(揉み手をする)よいしょ、どうも、どうもっていう、盛んによいしょでとうとう指紋がなくなってしまったと言われるくらいの方なんでございますが、この人がやっぱり「ほめてるばっかりじゃダメなんだよ」ということ言ってましたね。
いわゆる落語に枕があるように、周辺からほめていくんですね。着ているものとか、「いいおみ足、靴履いてらっしゃいますね」とか言って、それでいて相手が少しほぐれたところでもって、ピンポイントでズドンと一番相手がほめてもらいたいところを察してほめる。「これが、あんちゃんコツだよ」ってなことをおっしゃってましたですよ。この人が格言みたいなのを残してるんですよ、ことわざみたいなの。「よいしょは、される身になり丁寧に」と、こういう言葉なんですね。そうなんです。相手の身になってよいしょも、そしてしかったりすることも必要だと、こういうことなんでございますね。なかなか難しいんでございますが、この「ほめるコツ しかるコツ」を心得るとなかなか人生楽しくなるんではないでしょうか。ぜひ1つそのスキルを磨いて楽しく生きようではありませんか。

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