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「これからの地域医療を考える(4) 迫る多死社会 最期をどう迎えるか?」(視点・論点)

訪問看護師 秋山 正子

訪問看護を1992年から東京都内で始めて以来、高齢者の方のみならず、がん末期の方、障害や難病を持つ方、時にはお子さんまで、様々なお宅に訪問し、必要な看護ケアを届ける仕事に携わってきました。また、町の中に、もっと気軽に医療も含めた相談の場所があればと考え、高齢化の進む団地の商店街の一角に、「暮らしの保健室」という、よろず相談所を2011年に開きました。

多くの方は、寝たきりになりたくない、そしてあまり寝込まずころりと逝きたいと願います。そして、最期まで、家に居たいと半数以上の方が望みます。
最期の時間を家でと望んだら叶うように、沢山の職種の方々と協力して活動してきましたので、私たちの訪問看護で関わらせて頂いた方の7割は、自宅やグループホームなど、暮らしの中での看取りを実現できるようになりました。都会の中での訪問看護なので、半径3kmぐらいで、自転車で移動できる範囲のなか、16人の看護師が約170名の訪問看護を担います。出来るだけ家でと願っても、介護家族が疲れ果てたりしないようにショートステイで支えられたらと、「通ってよし・泊ってよし・我が家で良し」の看護小規模多機能型居宅介護「ミモザの家」を2015年から、ご家族を自宅で看取られた遺族の方の協力を得て、四谷坂町に開設しました。

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良い看取り、すなわち本人も穏やかに、見送る人も納得が得られ、関わったものも満足がいくお見送りが出来ることを心掛けてきましたが、それがすべてうまくいくとは限りません。
これからは多死の時代が音を立てて迫ってきています。自分たちが望む最期をどこで、どう迎えるのか?一人一人がしっかりと考えねばならない時期が本当にやって来ます。
 団塊の世代が75歳以上となる2025年を目指して、地域包括ケアの仕組みづくりを各行政が具体的に取り組み始めました。地域包括ケアは、住み慣れた地域で、最後まで暮らし続けられるよう、つまり、エイジング・イン・プレイスを実現することでもあります。
病院死が8割という時代がここ20年続いていて、生まれるのも病院、死ぬのも病院と言う「病院の世紀」続いています。この死ぬ時も病院と言う事が、本当にこれでいいのだろうか?多くの医療機器に囲まれた死ではなく、出来るだけ穏やかに、出来ればお世話をしてくれる人に囲まれて人間らしく息を引き取りたいと思うのは誰しもの願いではないでしょうか。
そういった意味で、「暮らしの場においての看取り」をもっと増やしていこうという動きが始まっています。「暮らしの場」ですから自宅だけではなく、終の棲家と定めた「住まい」であればよいわけで、それがグループホームであったり、老人福祉施設であったり、サービス付き高齢者住宅だったり、有料ホームであったり、また宮崎市内で始まった空き家を活用したホームホスピス「かあさんの家」であったり、様々な形態が生まれてきています。
ケアに当たる人が、自然な老衰の形をとる人生の最期の様子を見たことがない事がほとんどで、死は怖いもの、遠ざけておきたいものという考え方になってしまいます。いつまでたっても、ギリギリのところで救急車を呼んで病院へ運びこむそんな最期が後を絶ちません。そのために、ケアする人を育てようという試みも始まっています。

一方で、子どもの数が少なくなって、親の介護を担うものが夫婦共に一点集中の状態で、しかも同時にのしかかってくる、そんな時代がもうやってきてダブル介護と言う言葉が生まれています。「暮らしの保健室」といった相談支援の場でその悩みを伺う事も増えてきました。
高齢者対策が考え始められた1970年代、家族制度が壊れたとはいえ、まだまだ長男が親を看る時代が続いていました。それでも、30年近い年月を経て2000年の介護保険施行に至り、介護の社会化が進んだと言われました。
しかし、そうはいっても、親の面倒は子どもが見て当然とする考え方がすぐに変わるものではなく、なおかつ、社会化をしたのだからと、すべてを公的なサービスで賄ったら財源不足が結末として付いてきました。
働き盛りの40代、この頃はまだまだ子育てにも時間やお金がかかるために、多くは共働き。そこで夫婦共に老親の介護が一気にのしかかってくる=これがダブル介護の実態で、両方の親の介護問題を同時に担うのがダブル介護、これに、高齢出産で比較的まだまだ手のかかる子育ての時期、そのケアも担うのが「ダブルケア」と言われます。
働き盛りには、税金を納めるという大事な使命と共に、40歳以上は介護保険料も払う年代となり、給料から自動的に引き落とされています。
この年代は、目の前にある、仕事や子育てで、精一杯なために、実は高齢者への地域サービスの仕組みがどうなっているのかは、良く分からず、どこに相談したら良いか分からない状態のうえに、日中動ける時間が限られていて、公的な窓口に出向くことや、じっくり相談に乗ってもらう時間を取ることも難しい。そのうち、どんどん老親×2組の状態は困難を極める状況となり、「ギブアップ」と施設へ預けて一安心という結末を迎えてしまう例も多々見受けられます。
一人一人が、どこで、どのように暮らし続けたいのかを、本当に真剣に考えておかないと、将来は暗澹たるものとしか言いようがありません。

多くの人が子どもの世話にはなりたくないと、まだまだお元気な高齢者がつぶやきます。そのためには、日頃の健康管理と、将来へ向けた計画を、日頃から風通し良く語り合っておくことであり、親族のみではない地域のつながりを持っておくことが必要です。子どもが地域の中で認められるのに、公園デビューが必要のようですが、高齢期の入り口に、仕事人間からの脱却で、地域デビューが本当に必要になっています。働くばかりではなく、働きながら、地域デビューも少しずつして、ダブル介護やダブルケア状態になる前に、お互いに対策を練っておく必要があるのではないかと思います。
ダブル介護の状態の方々は、一人で抱え込まずに、早めに地域の中の相談窓口に繋がるように。勇気を持って一歩踏み出すことをお勧めします。
介護は社会保険方式の「共助」の仕組みに頼るだけでは、財源、人材面での不足が明らかになってきています。地域全体で、お互いに助け合い、どのように見守り機能を果たしていくかがカギと言われています。自分の住んでいる地域の仕組みを知り、元気なうちから、その仕組みを支える側に回っていくことも、必要とされます。地域デビューを果たすことや、相談窓口に繋がることは、その一歩と言えるでしょう。
住み慣れた地域で暮らし続けることを望み、人生を終えることができる地域を、他人任せにせずに、「わがこと」として創り上げていくために、まずは、この4月から新しく示される各市町村の介護保険事業計画や高齢者保健福祉計画を見てみることも大切です。障害福祉に関しても変化が起こっています。
新しい地域の居場所づくりをと公民館活動の見直しや、サロンを開くなどの活動も活発化しています。訪問看護の経験を活かして開いた暮らしの保健室はその一環。医療の知識を持つ看護師が暮らしの中での困りごとも含めて相談に乗っています。
皆さんも住んでいる地元を、まず知ることから始めてみて、積極的に地域の一員として活動するきっかけづくりになることを期待します。


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