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「これからの地域医療を考える(3) 『地域まるごとケア』とは」(視点・論点)

東近江市永源寺診療所 所長 花戸 貴司

滋賀県南東部に位置する東近江市永源寺地域は、東側には鈴鹿山脈、西側には湖東平野が広がる山間農村地域です。この地域の人口は5400人、高齢化率は35%を超えていますが、地域には永源寺診療所のほかには、開業医さんが1軒と介護施設は3か所だけで、医療や介護施設が決して充分にあるとはいえない地域です。
きょうは、この地域が取り組んできた、医療・介護の連携と地域コミュニティの支えあいの形、「地域まるごとケア」を紹介させていただき、これからの地域医療のあり方、そして「地域包括ケア」の目指すべき姿について考えたいと思います。

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私が永源寺地域に赴任してきたのは平成12年。今から18年前でした。総合病院から診療所に赴任した当初、私は「患者さんの病気を治すことが医師の仕事」だと信じて疑いませんでした。
しかし、診療を続ける中で、病や老いを抱えながらも、住み慣れた地域で暮らし続けることを望んでいる多くの患者さんを目の当たりにし、家に赴いて診察をする訪問診療を始めることにしました。
ところが、訪問診療をおこない始めて感じたことは、医師の役割が病院とは全く違うということでした。病院では医療だけを行なっていればよかったのですが、家では病気だけではなく、移動や着替え、食事、排泄など生活の中での問題もみえてきます。生活全般を支えようとすると医師だけではなく、看護師、薬剤師はもちろん、歯科医師、栄養士、そして介護スタッフなど、多様な職種の連携が必要だということを実感しました。そこで、書類だけのやりとりだけではなく、普段から顔の見える関係になれるよう医療や介護の専門職が集まる会議を、月に一度、定期的に開くようにしました。退院後の患者さんの様子など、病院の中だけではわからない施設や在宅で各々の職種がどのような仕事をしているのか、互いに理解しあえるよう情報交換を始めたのです。しかし、医療や介護の現場では、なかなか医師に対して意見の言いにくいものです。ですので、できるだけ皆が発言しやすいように、始まりの堅苦しい挨拶はせず、車座になって、お互いの名前と顔、そして仕事の内容を理解し合えるようにしました。このようにお互いの仕事がわかると自分の専門外のことについても理解を深めることができ、お互いが顔見知りになると、現場でわからないことや困った場面に遭遇した時、気軽に連絡をとったり、相談をすることができるようになりました。病院から退院するときはもちろん、お家での生活に何か問題があると誰かが気づいたら、いろんな人とすぐに連絡がとれるようになりました。

また、実際の現場でさらにわかったのは、先ほど述べた専門スタッフだけではなく、家族やご近所さん、友人、ボランティアなど専門職以外の人達も大きな役割を果たしているということでした。
そこで多職種の会合に、地域のボランティア、民生児童委員、市職員、警察官、消防士ら多様な分野の人たちにも声をかけるようにしました。当初は、医療介護関係者のみの集まりだったものが、地域の人たちと一緒に会合を続けています。

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このような集まりが、永源寺地域でだけではなく、東近江の各地域で行われ始めました。
超高齢社会を迎え、地域の人々が安心して生活するために、国は「地域包括ケア」を提唱しています。医療や介護の専門職が連携し、自宅や施設でも、医療保険や介護保険という制度にのっとった「サービス」のもと病院以外の施設や住まいでも高齢者を支えるための仕組みです。
しかし、現場で感じたことは、医療や介護といった制度に則った「サービス」だけではなく、制度以外の「つながり」が必要だということです。

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在宅における「つながり」には、医師や看護師などの専門職といつでも連絡がとれる24時間対応のサービスだけではありません。普段から、友人や顔見知りのご近所さんが訪ねてくれる、心配なことがあればすぐに相談できる人がいる、そして、そのような地域の人達が我々、医療や介護の専門職と繋がっている、そのような地域社会の中での「つながり」なのです。
実はここに、超高齢社会を迎えた日本で目指すべき「地域包括ケア」の形があるように思います。

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つまり、老いや病を支えるための医療・介護の連携(Integrated care)と、地域コミュニティの中で支え合い(Community based care)がうまくつながり合うことです。私はこのようなつながりを、「地域包括ケア」よりもさらに広くつながることを意味する「地域まるごとケア」と呼んでいます。
そのような地域全体で支えあう取り組みもあって、永源寺地域では約半数の方が最期まで在宅で生活をされています。全国平均の18%と比べてもそれなりに高い割合だと思っています。これは永源寺地域の人々が年老いても安心して、住み慣れた地域で最期まで暮らしておられる結果だと思っています。
このように医療と介護の連携がうまくいき、住み馴れた地域でいきいきと生活を送る高齢者を見ていると、医療は一歩下がり、生活の支援に重点を置くことが大切であると実感しました。これは、決して「年老いたら、医療を諦めろ」と言っているのではありません。じつは病気や障がいなどが起こって間もない時は、病気を管理するための医療が主役となります。しかし、病気が慢性化しリハビリや介護が必要な状態となった時には、生活を支えるために医療と介護の双方が必要となります。さらに、よりよい生活の質を求めるようになると、医療から介護に、あるいは病院から地域に重心を移すことが必要となる時期が必ず訪れるのです。そのような一人一人の状態・時期に合わせた適切なケアが必要となるのです。 
 これからの医療介護に求められることは、病院や施設で働いている人たちが、目の前の病気や障がいだけではなく、人々の暮らしをみること。そして、生活している地域の人たちと共に活動することだと感じています。
 そして、将来を見据えて、皆さん自身にもできることがあります。今、元気で暮らしておられる方も、高齢になると男性の方で9年、女性の方で約12年の介護が必要な期間が訪れます。もちろん健康である期間を延ばし、介護の期間を短くするよう健康に気をつけることも大切です。そのためには、普段からの健康の管理、あるいは病気の早期発見・早期治療だけではなく、生活のことも相談できる「かかりつけ医」を持つことはとても大切です。
 それ以外にも、元気なうちに自分達が地域のためにできることを見つけ、地域のつながりである「お互いさまの貯金」を蓄えてはいかがでしょうか。その蓄えは、ご近所さんとあいさつをすることから始まるかもしれません。地域のお祭りやボランティア活動などを通じ、親しい友人を見つけることができれば大成功です。多少、面倒なこともあるかもしれませんが、お金だけでは解決できない問題だからこそ、お金以外の蓄えがここぞという時に役立つはずです。
 今こそ、少子高齢化を迎えた地域であっても、安心して暮らし続けるため、皆さんの住んでいる地域にも、医療や介護の専門職だけではなく、地域の人達とのつながりを作りましょう。そうすれば、今、皆さんが抱えている漠然とした将来の不安が安心に変わり、明るい未来がきっとある。そう信じています。


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