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「これからの地域医療を考える(2) 問われる『地域の総合力』」(視点・論点)

九州大学 名誉教授 尾形 裕也

本日は、超少子高齢社会、人口減少社会に突入した日本において、どのように地域医療を確保していくかという問題について考えてみたいと思います。

近年、わが国の医療や介護をめぐって大きな改革が相次いでおり、今年は「惑星直列」の年であると言われています。つまり、医療や介護に関する制度改革が集中して実施に移されることから、今年は天文現象である「惑星直列」にも比べられる年であるというわけです。

 医療や介護の改革は、2025年を当面の目標年次に設定していますが、2025年というのは、高齢化のピークの年ではありません。高齢化のピークを迎えるのは2040年代と推計されています。2025年は、「団塊の世代」が皆75歳以上の後期高齢者になる、いわば象徴的な年として捉えられています。
その場合、医療や介護に対するニーズが質・量両面で大きく変わる可能性があります。量的には言うまでもありません。正に「団塊の世代」ですから、大きな塊の人々が後期高齢者になります。しかし、それだけではありません。質的にもニーズが大きく変わる可能性があります。つまり、現在の高齢者を前提にして、団塊の世代以降の人々が高齢者になった場合を考えると、大きくニーズを見誤る可能性があるということです。

図に質的な変化の一例を示してみました。

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この図は、日本人がどこで亡くなっているかについて、この60年間の推移を示したものです。これを見ると、1951年には、8割以上の人が自宅で亡くなっていたことがわかります。これに対して医療機関で亡くなった人の割合は1割強でした。この割合がその後急速に変化しました。図でわかるように、現在ではこの状況は全く逆転しています。8割近い人が医療機関で亡くなり、自宅で亡くなる人は1割強と、1951年当時と全く逆になっているわけです。

ここで注意しなければならない点が2点あります。1つは、この急激な変化は、たかだか過去50年程度の間に起こったものであるということです。つまり、現在、常識と考えられているようなことでも、少し前には全く違った状況だったわけです。
第2に、この図をよく見ると、すでに次の変化の兆しが現れています。

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医療機関で亡くなる人の割合はピークを過ぎ、8割を切っています。一方、自宅で亡くなる人の割合が上昇に転ずるとともに、介護施設等で亡くなる人の割合が急速に増加しています。過去の大きな変化が近々この50年の間に起こったことを考えると、今後またこの図のような大きな変化が今度は逆方向に起こる可能性が十分あります。こうした質・量両面での大きな変化に対して、現在の医療・介護サービスの提供体制で対応できるのか、というのが、2025年を見据えた改革の基本的な問題意識であると言えます。

 一方で、医療や介護の提供体制については、地域による差異、いわゆる地域差の問題があり、これを無視することはできません。たとえば、次の図をご覧ください。

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この図は、都道府県別に見た人口10万人に対する病院の病床数の地域差を示しています。これを見ると、都道府県単位で見ても病床数には大きな地域差があることがわかります。一般に西日本が高く、東日本が低い傾向が見られ、これを称して「西高東低」などと呼んでいます。また、通常の医療が完結する地域として設定されている2次医療圏単位で見ると、同じ都道府県内でも大きな地域差があります。こうした地域差については、できる限り縮小していくべきですが、一方で、地域の医療や介護の問題を全国一律に論ずることも現実的ではありません。人口動態を含む地域の実情を十分踏まえた上で、各地域に適合した提供体制の姿を考えていく必要があります。そのため、2次医療圏単位を原則とする地域医療構想を都道府県が策定することになったわけです。

都道府県がまとめた地域医療構想のイメージについては、次の図をご覧ください。ただし、これはあくまでも全国ベースで積み上げたデータですので、実際の姿は、2次医療圏を原則とする構想区域ごとに見る必要があります。

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 この図において、右の柱は、2025年における4つの機能ごとの必要病床数の推計結果を示しています。4つの機能というのは、高度な治療を行う高度急性期、その他の急性期、さらに回復期及び慢性期です。これに対して、左の柱は、2014年に各医療機関から報告された機能別の病床数です。両者は時点が違いますし、データの考え方も違いますので、当然ギャップが生じています。たとえば、高度急性期と急性期については、報告が必要病床数推計を大きく上回っていることがわかります。そして、これをちょうど相殺する形で、回復期については必要病床数推計が報告を大きく上回っています。なお、慢性期を除いた一般的な病床の合計数については、基本的に現状維持を前提とした推計なので、必要病床数が過大推計になっている可能性があります。
これに対して、慢性期については、地域差を縮小する措置をとった結果、2014年の各医療機関の報告数が必要病床数推計を大きく上回っています。ただ、これに加えて、右下の赤いボックスにおいて、「介護施設や高齢者住宅を含めた在宅医療等で追加的に対応する患者数」が30万人程度示されています。ここでは、自宅だけではなく、広い意味での在宅でのケアが想定されていることに留意する必要があります。

 地域医療構想においては、地域における病床機能のアンバランスを調整するとともに、こうした在宅ケアの新たなニーズに対応していくことが目指されています。これは、先ほどお話しした今後のニーズの変化に対応したものであり、私は、これを「楯の両面」と呼んでいます。このどちらを欠いても、地域医療構想は完結しません。


 地域医療構想は、昨年3月末に、全ての都道府県で策定が完了しました。2025年に向けて、今後、構想区域ごとに設けられた地域医療構想調整会議の場において具体的な議論と調整が行われます。この会議には、関係医療機関のみならず、医療費を負担する側である医療保険の保険者も参加していることが注目されます。

現時点においては、率直に言って、地域医療構想の進捗状況には大きな地域差が生じています。都道府県によって、また構想区域によって進捗度合は異なっており、具体的な調整が進んでいる地域もあれば、まだこれからというところもあります。いずれにせよ、どこでも通用する「一般解」ではなく、地域ごとの「特殊な解」を工夫する必要があります。そのためには、地域の現在及び将来の課題について、データに基づいて分析し把握した上で、説得的な議論を展開しなければなりません。これには行政、医療機関、保険者等地域の総力を挙げて取り組む必要があります。地域医療構想は、正にこうした地域の総合力が問われる「試金石」なのです。

未曽有の超少子高齢社会、人口減少社会に突入したわが国において、地域における医療や介護のあり方は、「この国のかたち」を決定する重要な前提であると言えます。今後の地域社会をどのように形作っていくかという観点に立って、議論が進められることを期待したいと思います。


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