NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「これからの地域医療を考える(1) 2025年の医療・介護の姿は」(視点・論点)

国際医療福祉大学大学院 教授 中村秀一

 この4月1日から、医療機関や介護事業所に対し支払われる診療報酬と介護報酬が改定されます。診療報酬と介護報酬が同時に改定されるのは6年に1度のことなので、それだけでも大いに注目されるわけですが、今回の同時改定はさらに特別な意義あるとして、関係者から注目されていました。
 それは、現在、政府が2025年までを目標に、医療と介護のサービスの提供体制の改革を進めているためです。このスケジュールからすると、今回の同時改定が2025年のゴールに対し、実質的に最後の同時改定となり、極めて重要な意義を持つからです。4月から実施される報酬改定には、進行中の医療・介護の提供体制の改革を後押しする内容が多く盛り込まれています。

医療・介護の提供体制改革が進行中と申し上げましたが、この改革は「社会保障と税の一体改革」いう枠組みの中で進められています。
なぜ、社会保障と税の一体改革なのでしょうか。わが国は1990年代に入り長期的な経済の低迷に陥りました。他方、社会保障費用は増加を続けましたので、90年代後半から約10年間、社会保障の費用を抑制する政策が続けられました。その結果、いわゆる地域医療の崩壊な度、様々なほころびが生じました。そこで、社会保障については、削減ばかりではなく、必要な機能の強化と安定性の確保を図るための改革を行い、そのために必要な財源は消費税の増税で賄うことにしたのです。2014年4月に消費税率が8%に引き上げられ、財源を得て社会保障改革が本格的に始動しました。

 この中で、医療と介護の改革はどう位置づけられているでしょうか。有識者で構成する社会保障制度改革国民会議が、2013年8月に報告書をとりまとめ、その方向を示しています。そこでは、
①    現在の医療制度が形成された1960年代、70年代と比較し、長寿化により国民の医療・介護ニーズが大きく変化してきていること
②    そこで、全ての人が等しく必要な医療を受けられる国民皆保険を維持していくためには、ニーズの変化を踏まえて医療提供体制を改革することが不可欠であること
③    その際、医療と介護は一体的に考える必要があること
④    これからのわが国の医療制度はデータに基づいて関係者が議論し、合意をして改革していくべきであること
などが指摘されました。

それでは、医療・介護の提供体制の改革はどのように進められてきたでしょうか。
厚生労働省は医療の現状は、高齢者が急増したことによるニーズの変化に対応できておらず、戦後のベビーブームで誕生した世代が75歳以上になりきる2025年までに医療提供体制の改革を行うことを提案してきました。

s180313_01.jpg

具体的には、現在の病院のベッドの配置は図のように「ワイングラス型」であるものを、高度の急性期医療を行う病床を半減させ、地域の医療ニーズに対応する病床を増やし、「ビア樽型」に変えていくというものでした。医療提供体制の改革と合わせて、退院した場合など、医療や介護が必要な状態であっても、住み慣れた地域で暮らし続けることができる「地域包括ケアシステム」の構築が提言されました。

s180313_02.jpg

このことを実現するため、2014年6月に医療介護関連の19本の法律の改正が行われました。良質で効率的な医療提供体制の実現を目指すための医療法などの改正と、地域包括ケアシステムの構築を進めるための介護保険法などの改正です。
この医療法の改正で、各病院は自分の持つ病床が果たしている役割と、将来どのような機能の病床としていきたいかを都道府県に届け出ることになりました。
また、都道府県には、県内のそれぞれ地域ごとに地域医療構想を策定することが求められました。地域医療構想は、2025年における地域の医療ニーズを踏まえた機能別の必要病床数を定めるもので、全国でその作業が完成いたしました。

s180313_03.jpg

その結果は、図に示すとおりですが、高度急性期病床は必要量を上回り、回復期病床は不足しているなど、現状の病床配置と必要病床数には齟齬があります。
また、必要病床数の算定では、約30万人分が新たに介護施設、在宅医療等病院外で対応されることが前提となっています。地域医療構想を実現していくためにも、地域包括ケアシステムを作っていく必要があります。

このように2025年に達成しなければならない医療と介護の姿が明らかになりましたが、これを地域の中で作り上げていくことが求められています。地域医療構想の実現に向けては、地域の医療関係者が集まり協議しながら、病床の再編を行っていかなければなりません。この取り組みは各地で始まったばかりですが、協議を急ぐことが要請されています。

地域包括ケアシステムは、住民の身近な地域で実現していかなければなりません。
要介護の人を地域で支えて行くためには、医療や介護の様々なサービスを組み合わせたり、必ずしも制度にはない日常生活上の支援が必要になります。
そのためには、関係者のネットワークが必要です。特に、医療と介護の専門職同士の連携が重要になります。日頃から「顔の見える関係」を築かなければなりません。
専門職による医療や介護のサービスだけではなく、見守りやゴミだしの手助けなど、ちょっとした日常生活上の支援や、気軽に立ち寄れる場の確保など、近隣の住民の方々の理解と協力が必要になります。
4年前に制度が改正され、医療と介護の連携の推進や日介護予防と常生活支援体制を強化する仕組みが導入されました。

s180313_04.jpg

介護保険制度は、3年ごとに市町村で事業計画を策定します。これまでの3年間は制度改正を受けて、各市町村も新たな仕組みの立ち上げに追われた3年であったと評価できると思います。
来月からは新たな介護保険事業計画がスタートしますが、これからの3年間では、医療と介護の連携、介護予防と日常生活支援といった取り組みを本格的に推進していくことが求められます。まさに、2025年のゴールに向けての正念場です。

社会保障と税の一体改革では、当初2015年10月に消費税率が10%に引き上げられることになっていましたが、2度延期され、2019年10月に予定されています。当初のスケジュールより4年遅れたことになります。2025年のゴールを目指す立場からは残念な状況でした。

現在進行中の医療・介護の提供体制の改革のゴールは2025年ですが、わが国の高齢者数は2042年まで増え続けると見込まれています。その際、増加するのは75歳以上の後期高齢者です。現在でも人口の13%を占める後期高齢者の方がわが国の医療費の38%を使っています。介護保険の要介護認定率も80歳台から急速に上がります。
2025年を超えて2040年前後までの長期を見据えた医療・介護のサービスのあり方と財源の確保方策について検討していくべき時期を迎えています。
急速な高齢化の進行と人口減少の中で、あるべき医療・介護提供体制の構築を各地で進めつつ、さらなる課題に向けて医療・介護関係者のみならず、地域の人々全てが手を携えて取り組んでいくことが期待されています。


キーワード

関連記事