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「高齢者雇用 企業と社員の覚悟」(視点・論点)

学習院大学 名誉教授 今野 浩一郎

わが国は働く人が減少するという深刻な問題に直面しています。これに対応するには、多くの高齢者に就労の場で活躍してもらう必要があります。そのためには、企業と高齢者は何をすべきなのか。今回は、この点を考えてみます。

まず問題になることは、何歳を高齢者と考えるかですが、いま多くの企業が定年年齢を60歳としているので、60歳以上の方を高齢社員と呼ぶことにします。また、後の説明との関連で定年前の方を現役社員と呼ぶことにします。

まず、高齢社員の人数規模を確認することにします。

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こちらは、労働力人口の年齢構成の変化を示したものです。これによると、労働力人口に占める60歳以上の割合は、2014年で19.4%です。この傾向は将来も続くと思われ、2020には20,0%、2030年には22.8%になると言われています。つまり、日本全体で、将来にわたって「労働力人口のほぼ5人に1人が60歳以上」です。これは企業の平均的な社員構成を表すので、企業は「社員のほぼ5人に1人が高齢社員」という時代を迎えています。 ここまでくると高齢社員を戦力化することは、企業にとって「覚悟」をもって取り組まざるをえない重要な経営課題といえます。高齢社員についても、定年後は余生のように働くということが許される時代ではありません。60歳を超えても職場の戦力として働くために、キャリアと働き方を考え直す「覚悟」が求められます。どんな施策を考えても「覚悟」がなければ機能しませんし、「覚悟」さえあれば道は開けます。

 それでは、会社と高齢社員は何をすべきなのか。それを考えるにあたっては、企業における高齢社員の現状を確認しておく必要があります。

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企業は高年齢者雇用安定法によって、希望者全員を段階的に65歳まで雇用することが義務づけられ、多くの企業はそれに対して、60歳定年を維持し定年以降は嘱託等の非正社員として再雇用するという方法をとっています。このように60歳定年が一般的ですが、希望者全員が65歳まで雇用されるということですから、実質的には、すでに65歳定年制の時代にあるといえます。
それでは、そのもとで高齢社員はどのように働き処遇されているのか。この現状をみてみます。

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定年前の仕事を続けるが仕事上の責任と会社から求められる成果は低下する、転勤や残業はしない等働く場所や働く時間の制約は強まる、という働き方になります。賃金については、定年時の賃金から一律に低下し、その後は働きぶりにかかわらず変わらない。 これが現状の一般的な姿ですが、高齢者に活躍してもらうという点からみると多くの問題があります。
賃金の決め方が「能力、仕事あるいは成果に基づいて決める」という基本原則に反しているので、成果を期待しないというメッセージを高齢社員に発する制度になっているからです。
成果をあげてもらうことが雇用であることからすると、現状の雇用は「福祉的雇用」と呼ぶにふさわしい状況にあるといえます。
高年齢者雇用安定法によって65歳まで雇用を確保することが義務化されていることが「福祉的雇用」を生んでいますが、その将来はあまりに暗いといえます。つまり、これでは「仕事内容と賃金が合わない」「成果をあげても賃金があがらない」との不満が大きくなり、高齢社員の労働意欲が低下する恐れがあるからです。

それでは企業は今後何をすべきでしょうか。まず高齢社員の活用の面から考えてみます。定年までに積み上げてきた経験と能力を生かしてもらうために定年前の仕事を継続してもらうが、社員の間の世代交代を進めることが必要であること等から、役職から降りる等して仕事上の責任を下げ、現場の担当者あるいは特定の業務のプロとして働いてもらう。 これが活用の主流になると考えられます。

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そのさいに重要なことは、会社は「高齢社員に何の仕事を通して、どのような貢献を期待するのか」を、高齢社員は「何の仕事を通して、会社にどのような貢献をするのか」を明確にし、それをもとに話し合い、お互いのニーズの擦り合わせを行うことです。
つぎに賃金について考えてみます。

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高齢社員の賃金も、「高齢社員ならでは」の特性を配慮して決められねばなりません。
たとえば高齢社員は、想定されている勤務期間が例えば65歳までと短いので、「いまの能力を、いま活用する」という短期雇用型社員の特性があります。この特性に合にわせると、仕事の内容によって賃金を決めることが合理的になります。

これを「仕事原則」 と呼ぶことにします。長間雇用を前提にした現役社員で合理的であった年功的な賃金は、高齢社員にとっては合理性のない賃金です。
もう一つの特性も重要です。

現役社員の多くは、業務ニーズに合わせて転勤する、残業するという点で働く場所や働く時間に制約のない働き方をします。

この種の社員は働き方に制約がないことから私は「無制約社員」と呼んでいます。こうした現役社員も高齢社員になると、転勤はしない、残業はしない、あるいは短時間で働くなど働き方に制約のある、「制約社員」と呼んでいる社員タイプに転換します。賃金はこの「制約社員」としての特性に合わせる必要があります。

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つまり、会社にとってみると、高齢社員は業務上のニーズに沿って機動的に活用することが難しい制約社員なので、賃金は同じ仕事に従事する無制約社員の現役社員に比べて低くなります。これを賃金決定の「制約配慮原則」と呼ぶことにします。
賃金については、高齢社員だからといって特別なことはありません。「貢献に見合って決める」が原則で、これまで説明した「仕事原則」と「制約配慮原則」に沿うことで合理的に決めることができます。

高齢社員も変わる必要があります。65歳まで働くことが普通になり、さらに70歳までも働くかもしれない時代になっています。このようにして働く期間が長くなると、多くのビジネスパーソンは高齢期のどこかでキャリアと働き方を転換することが必要になり、現状では、定年がその契機になっています。

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そのため高齢社員は定年後に職場のなかで新しい役割を担うことになり、それに合わせて「働く意識・行動と能力」を見直すことが必要になります。
しかし、「働く意識・行動と能力」を見直すことは高齢社員にとって大変なことです。高齢社員はそのための準備を早い段階から、できれば遅くとも50歳台に入ったら始める必要があります。定年直前では遅すぎます。企業も、こうした高齢社員の努力を研修体制を整備する等して支援することが求められます。
これまで会社と高齢社員がすべきことを考えてきました。いずれも、これまで経験したことのない難しい挑戦ですが、高齢社員が活躍し、活力ある企業、経済を作り上げるうえでは避けて通れない道です。高齢社員と企業には、「覚悟」をもって新しい方向に踏み出すことを期待したいと思います。


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