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「障害者の雇用をすすめるために」(視点・論点)

文京学院大学 客員教授 松爲 信雄

 「障害者雇用促進法」の改定によって、4月から全従業員に対する障害者雇用の割合が、民間企業で2.0パーセントから2.2パーセントへ、国や地方自治体では2.3パーセントから2.5パーセントに引き上げられ、その対象となる障害に精神障害も含まれることになりました。
 また、すでに昨年の4月から、障害を理由とする募集・採用、賃金、配置、昇進など、労働関係における差別の禁止と合理的な配慮を事業所に課すことが義務化されています。
このような変化の中にあって、障害のある人の雇用をさらに進めてゆくための視点として、4つのことを述べたいと思います。

最初にお話ししたいことは、雇用についての基本的な視点です。
人が仕事に就いて職場に定着するということは、仕事や職場から求められる「役割」に人が応えていることを意味します。それをできるようにするためには、人は自身の能力を向上させて「役割」を遂行する努力が求められますし、また、事業所は人が「役割」の遂行を容易にできるように仕事や職場の環境を改善してゆくことが必要です。障害のある人が雇用されて働き続けるためのポイントも、これと全く同じです。つまり、障害があるからといって、ことさらに心配したり、過剰な手助けをするのではなくて、会社で働く私たちと同じ社員として見るという視点が、最も大切で基本的なことなのです。
二つ目にお話ししたいことは、障害のある人を雇用する事業所の特徴についてです。
障害のある人を雇用して職場定着に成功している事業所の多くは、今お話したことを念頭に置いています。そのうえで、特に、次の9つの共通した特徴があります。

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それは、①障害のある人を雇用することに対する明確な企業理念があること、②そうした理念が事業所や社内全体で共有されている組織風土があること、③経営トップやマネージメント担当者の障害者雇用に対する理解と支援があること、④障害のある人を法定雇用率の達成ではなく「事業所の戦力」と捉えていること、⑤障害のある人の職域開発は全社プロジェクトとして展開していること、⑥同僚社員に対して障害の理解や受け入れに対する教育研修を実施していること、⑦障害のある社員に対して同僚社員が積極的にコミュニケーションや援助・育成などに関わっていること、⑧事業所の規模・業種・採用している障害のある人などで類似したモデル事例や、障害者雇用の優良事業所などの情報の収集に熱心なこと、⑨そうした情報を得たり、相談・支援できる地域の就労支援センターなどと強固なネットワークがあること、などです。こうした特徴を備えている企業は、障害のある人の雇用経験が豊富で、また、採用に当たって特別な不安を持つこともありません。
三つ目にお話ししたいことは、障害のある人の採用についてです。
障害のある人の雇用に成功している会社では、特に「採用」に際しての準備として、次のような段階的な過程を踏んでいます。

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最初は、障害のある人の職域について検討します。企業を取り巻く環境や採用市場などの社会の変化を見越しながら、障害の特性を考慮して社内の職務を再編成したり、新たな事業を展開します。そのため、他社の事例を収集して有効な職務を検討します。
次の段階は、雇用に向けた社内の組織体制の準備です。採用のプロジェクトチームを組織して権限を与えるとともに、従業員に対して教育や研修を重ねます。
その次は、職務を実際に構成します。業務の内容や作業手順を組み替えたり作業効率を高めるためのさまざまな工具を開発したりして、障害の影響を最小限にしつつ、能力の特性を活かす工夫をします。

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さらには、社外の支援機関との連携を強化します。地域の就労支援センターや関係機関とのネットワークを築いて、障害のある人の雇用に関する多面的な情報を収集したり、継続的な相談や援助の約束を取り付けます。
最後の段階として、障害のある本人の就労に対する準備を進めてゆきます。 就労に耐えられる体力や気力、専門性や協調性などの諸能力を教育訓練するとともに、本気で働き続けたいという気持ちや動機づけを高めてゆきます。
四つ目にお話ししたいことは、障害のある人の職場定着についてです。
障害のある人は就職した後の「職場定着」が難しいと、多くの企業が不安を抱いています。事業所がこれに対応するには、障害のある人自身の能力開発と職場の環境整備の双方から取り組むことが必要です。

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例えば、能力開発では、①入社前インターンシップ、②入社後の初期の職場適応の研修、③能力開発に際しての個別教育の重視、④職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用、⑤社内の継続的な相談体制の構築、⑥相談や指導担当者の任命と見守り、⑦新人を育てる際のフレッシュパートナーの配置、などが効果的です。

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また、環境の整備では、①柔軟な勤務時間や勤務形態の採用、②職場に限らず生活面もふくめた継続的な支援、③社内対応が難しい場合の外部の支援機関の活用、④必要に応じて入社時に保護者へのガイダンス、⑤上司や同僚等に対して障害理解のための研修や助言、⑥相談担当者のスキルアップの支援、⑦加齢に伴う能力低下への対応としての、配置転換、新たな業務の切りだし、福祉的就労への移行、などが効果的です。
職務や職場の環境整備の多くは、障害が作業の遂行に影響しないようにする合理的な配慮の内容と重なるところがあります。そうした事例のデータベースは厚生労働省のホームページにも載っていますので、参考にされるとよいでしょう。
いずれにしても、職場定着への支援は、従来から行われて来た集団的な雇用管理の仕方ではなくて、従業員の個々の事情を踏まえた個別的な対応と合意を基盤とした管理が必要になります。
最後に、働くことの意義について改めて確認します。
働くことの意味は、障害のある無しにかかわらず、共通した価値観があります。それは、役割を達成することの満足感や達成感、そして自尊心を満たす心理的な側面に加えて、生計を維持する収入を確保する経済的な側面や、人間関係や人格の形成という社会的な側面があります。
特に、心理的な側面は、私たちの仕事に対する価値観と最も結びついています。それは、自分にとっての「良い仕事」とは何かを考えることにもつながります。

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「良い仕事」となる条件となるのは、たとえば、①真剣に取り組んで責任ある態度が求められる、②仕事を通して自分を成長させてくれる、③社会的に価値のある成果につながる、④生活に必要な賃金が提供される、⑤仕事以外の活動もできる余裕のある生活ができる、⑥自分から望んだ内容が得られる、などでしょう。
2016年の「一億総活躍プラン」の策定や翌年の「働き方改革実行計画」では、障害のある人もまた、その希望や能力を活かした就労を促進することが方針とされています。たとえ障害があろうとも、一人一人がこうした「良い仕事」と肌で感じられる働き方を作り出していくことが、今後の社会全体に課せられた大きな課題と言えるでしょう。

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