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「地方議会 なり手不足問題」(視点・論点)

立教大学 教授 外山 公美 

現在、地方議会は様々な課題に直面しています。その一つが、地方の町村議員の「なり手不足の深刻化」という問題です。
ご存じのように、わが国では、国の唯一の立法機関として国会が置かれています。また、都道府県と市区町村にも地方議会が設置されています。国会も地方議会も選挙で選ばれた議員が政策決定をおこなう点では相違がありません。

このうち、市区町村は基礎的な地方公共団体として、私たちの生活に密着した身近な事務を取り扱っていますので、その政策決定のために私たちの代表者によって構成される議会は、極めて重要な役割を演じています。特に小規模な町村議会においては、一般的に議員と住民との距離が近く、地域課題をきめ細やかに把握し意思決定に反映させるという、地域住民の代表としての機能がより強く求められています。

地方議会の議員数は、各地方公共団体の条例によって定数が定められています。

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近年、特に町村議会の議員数は大幅に減少しています。この要因には、もちろん、いわゆる「平成の大合併」によって市町村の数が減少したこともありますが、議員報酬に対応するための財政不足や「なり手不足」つまり「立候補者の不足」なども指摘されています。

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統一地方選挙において無投票当選者つまり立候補者が定数を満たさず、選挙を実施しなかった議員数の割合は増加しています。直近の平成27年度に実施された統一地方選挙においては当選率つまり競争率が1.13倍となっており、人口1000人以下の小規模な町村では実に6割以上が無投票つまり選挙を実施せず、住民の信任を得ずに決定されています。このように町村議会のなり手不足は、大変深刻であると言わざるを得ません。

特に人口減少と高齢化に苦しむ過疎地では議員の後継者がおらず、なり手不足が深刻化しています。また、地方政治への関心の低さや不信感、議員報酬が低額であること、兼業がしにくいことなどの要因も指摘されています。

このような議員のなり手不足の対応策については、これまでも法律の改正や町村の創意工夫によって様々な改善策が講じられ、提案がなされてきています。例えば、夜間や休日に議会を開催することで、フルタイムの勤務員いわゆるサラリーマンなどが議員となる可能性を増大させるという手法もその一つです。同様に議会が通年開催されることとし、定期的に指定日のみに議会を開催するという方法もあります。これは、主婦や学生などの多様な層の幅広い住民が議員として活動できるように工夫したもので、すでに導入している町村もあります。今後もより柔軟な議会開催や運営などを工夫することによりこれまで議会への参画が困難だった人たちを含む、より広くより多くの住民が参画できるような議会のあり方を考えていくことは重要です。もちろん、地方公務員の負担増大や十分な審議時間の確保などに配慮することは当然必要です。

また、議員資格や待遇の改善などの視点からも様々な対応策が提示されています。選挙権は、平成28年に地方議会も国会と同様にその議員選挙の投票権について年齢が20歳から18歳に引き下げられました。しかし、被選挙権については、引き下げられておらず、町村議員は25歳以上となっています。私たちの身近な問題を取り扱う基礎的な地方公共団体である市町村議会議員の被選挙権年齢をもっと引き下げて、若年層の議員を増大させていくべきではないかという意見もあります。同時に地方議員の立候補者に課せられている3ケ月の住所要件を撤廃し、長のように幅広い人材が全国から立候補できるしくみに改めるべきであるという意見もあります。これに対しては、身近な問題に取り組む地方議会では、その地方や地域のことをある程度理解した人が議員となるべきであるという反対意見もあります。

さらに、現在、規定されている様々な立候補の制約を緩和することも一つの手法です。公務員などとの兼職の禁止の緩和なども提案されています。地方自治法の歴史を繙けば、そもそも昭和22年の地方自治法制定時には地方議員は国会議員との兼職のみが禁止されており、都道府県や市町村の議会議員相互の兼職は認められていました。また、地方議員は同一地方公共団体での有給職員との兼職は禁止されていたものの、他の地方公共団体の有給職員との兼職は認められていました。その後、昭和26年までに徐々に兼職禁止職が拡大され現在のような規定になったのです。

その一方で、議員のなり手不足解消のため、議員の人数を少なくし、議員の待遇を改善することも、考えられますが、あまりにも議員数を少なくした場合、住民の多様な意見をどのように反映させるかが課題となるでしょう。

さて、わが国の地方自治法第94条には、町村総会の規定があるのはご存知でしょうか?

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これは、議会を設置せず、代わりに有権者全員で構成される住民総会を設置するというもので、町村のみに認められている制度です。この制度ではそもそも議会が存在せず有権者全員で構成される総会が議決機関となります。議員を選挙する必要もありませんので、なり手不足という問題も生じません。平成29年に、高知県の大川村でこの制度の導入が検討されたことで、ご存知の方も多いと思います。

過去には、八丈小島の宇津木村で行われていたという記録も残っています。長野県王滝村でも検討されたことがありますが、現在、わが国では、この町村総会を行っている町村はありません。海外に目を転じれば、アメリカのニューイングランド地方においては、現在もなお、タウン・ミーティングとして多くの小規模な基礎的自治体でこの制度が導入されています。またスイスの自治体においても実施されています。

この制度の導入にあたっては、わが国の場合、町村総会を実施する際は地方自治法第95条で「町村議会の規定を準用する」ことが規定されていることから、住民の2分の1という定足数や開催場所の確保などの課題が生じてくることになります。導入可能とするためには法律や条例などの制定を含む環境整備やIT技術を活用した在宅での出席などの検討や工夫が必要でしょう。

このように様々な対応策が考えられますが、どの手法にも一長一短があります。最も重要なことは、住民の参画意識の向上でしょう。まずは、最も身近な自治会・町内会などの地縁団体の活動や地元の公共団体が公募する住民委員やモニターなどに参加して、すべての住民自らが「政策を考える当事者である」という意識をもって、在住する町村が抱える問題に積極的に取り組むことが重要であると思います。

住民参画意識の向上と環境整備そして議会への不信感が払しょくされ、真の「地方自治」が確立することが、この議員のなり手不足問題を解決する第1歩になるのではないでしょうか。

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