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「ゲーム依存の実態と課題」(視点・論点)

国立病院機構久里浜医療センター院長 樋口 進

私どもの日常診療では、世界保健機関(WHO)が策定した国際疾病分類(ICD)をその診断や分類の根拠にしています。WHOによると今年、新しいバージョンであるICD-11がおよそ25年ぶりに出版されるとのことです。おととし10月に公表された最新の草稿に、ゲーム依存、正確にはゲーム障害またはゲーム症の定義が初めて記載されました。つまり、ゲーム依存が、初めて疾病と認められたわけです。この事実が、昨年暮れに国際的メディア、今年に入り国内メディアで取り上げられ、一般に知られるようになりました。

これら一連のニュースとは無関係に、我々にとって、この収載はまさに感無量といえるものです。なぜなら、この動きは当センターがWHOに強く働きかけて始まり、WHOに技術的、経済的に協力を続けて、実ったものだからです。きっかけは2013年3月にジュネーブで行われたWHO会議でのことでした。会議の最後に、当時のICD-11草稿の説明がありました。そこで、インターネット依存が草稿に入っていないことを知り、私はがく然としました。ICD-11を逃したら、次のICD-12まで向こう20年以上はネット依存が病気と認定されないからです。依存を専門とする医師として、ネット依存を取り巻く状況は益々深刻になっているため、今回の改定で、疾病認定が必要と考えていました。

私どものセンターは、わが国で初めてネット依存の専門診療を2011年7月に始めました。
以下、私どものネット依存専門外来を受診される患者の状況を簡単に説明します。まず、患者は中学生・高校生が最も多く、全体の約半数をしめています。平均年齢は19歳です。最近、低年齢化も進んでいますが、逆に30歳代、40歳代の患者も増えてきており、全体的に年齢幅が拡大してきているようです。

外来患者の90%は、ゲーム、それもほぼ全てが、オンラインゲームに依存しています。使っている機器としては、依然、パソコンや専用ゲーム機が多いですが、スマホもここ数年で急速に増え、およそ40%に達しています。

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ゲーム依存の受診患者には、様々な問題が発生します。
図の中の数字は、患者のうち過去6ヵ月間に、それぞれの問題を示したパーセントです。
欠席・欠勤が59%、引きこもりが33%、物に当たる・壊すが51%、家族に対する暴力が27%、朝起きられないが76%、昼夜逆転が60%です。その結果、12%が退学・放校となり、7%が失職しています。また、不活発による体力の低下は著しく、足のかかとの骨の骨密度は、性・年齢を調整した標準値に比べると、平均で90%程度まで低下していました。

それでも、現行のICD-10では、病名がないため、ネット依存は「その他の習慣及び衝動の障害」と、診断せざるをえません。病名がなければ、研究費も受けられないので、原因、予防、治療法などに関する研究は進むはずはありません。また、中高生だけでも50万人以上と推計されるネット依存に対応できる医療ネットワークの充実は期待できないでしょう。そのため、今回疾病として認定されることには大きな意味があります。

それでは、なぜゲーム障害が疾病と認定されたのでしょうか。
今回はネット依存ではなく、ゲーム障害だけが収載されました。ネット依存は集合的な名前で、その傘の下には、ゲーム、SNS、ポルノ、動画、ショッピングなど様々なアプリの過剰使用とそれに関係した問題があります。私どもを含む国際的な行動嗜癖(しへき)の専門家がWHOと協力して検討した結果、現時点で疾病化を支持するエビデンスが蓄積されているのは、ゲーム依存だけ、という結論になったわけです。

それでは、どうしてゲーム障害は依存なのか。これは難しい議論なので簡単にまとめます。

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表は、依存とゲーム障害に認められる共通の要素です。ネットのような行動の行き過ぎは、医学的には嗜癖といいますが、馴染みが薄いので、わかりやすく依存と呼びます。
依存という病気といえるかどうか、を判断する基準となるのは、アルコール依存や薬物依存などの物質依存です。そこで、表に示した要素において、ゲーム障害と物質依存との間で共通している部分が多ければ、ゲーム障害が依存に分類されることになります。この中で特に重要なのは、初めの二つです。
依存に特有の行動・症状とは、いわゆる依存行動で、たとえば、ゲームのコントロールができない、などです。これについては、後で、ゲーム障害の定義のところで説明します。
もう一点は、脳内の依存に共通したメカニズムです。ゲーム障害の脳では、ギャンブル障害と同様に、1) 前頭前野、すなわち理性の脳の機能低下、2) CUE、すなわち、依存対象を連想させるものに対する過剰な反応、3) 快刺激に対する低反応、などが報告され、これらは物質依存と共通しています。

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この図は、CUEに対する反応を示しています。刺激に対する前頭前野や線条体での過剰な反応は、アルコール、ギャンブル、ネット依存で似通っています。

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この表は、ICD-11草稿に収載されているゲーム障害の定義を示しています。表のように、まず中心的な臨床的特徴として、1) ゲームのコントロールができない、2) ゲームを他の何にも増して優先する、3) ゲームにより問題が起きているが、ゲームを続ける、またはさらに増える、の3項目が挙げられています。これらが、先ほど申し上げた依存に特有な行動・症状となります。また、定義では、ゲームに伴う様々な問題が深刻であることが必要とされています。
これら、4つの症状が、12ヵ月以上続く場合にゲーム障害と診断されます。しかし、4症状が存在し、しかも重症である場合には、それより短くとも診断可能となっています。また、ゲーム障害は、主にネットを介するオンラインゲームに依存している場合と、ネットに接続していないオフラインゲームに依存している場合の二つに、大きく分類されています。

さて、ゲーム障害と診断された場合どのように治療していくべきでしょうか。
まず、物理的にスマホやWiFiを取り上げることはしません。患者は、どのような手段を使ってもゲームを続けようとしますので、単に取り上げるだけで成功することはほとんどありません。むしろ、暴言、暴力などの反撃にあって、周囲が大変な思いをすることになります。目標は彼らに自分の問題を理解してもらい、自らゲーム時間を減らす、または完全に止めるように決断させ、それに向けて努力するように導いてゆくことです。

ゲーム障害は、生活の昼夜逆転、ひきこもり、退学など、若者の生活、学業、ひいては将来設計や人生に深刻な影響を与えます。社会人にとっても、依存の結果、家族間のコミュニケーション不全を引き起こしたり、失職など深刻な事態を招きます。それに向かい合う家族の、不安、心配、無力感、落胆、怒りなどは察して余るものがあります。

ネットが身近になり、スマホで手軽にゲームを楽しめるようになった今、この問題に対しては、包括的な早急の対策が強く望まれます。例えば、実態調査の早期実施、若者のみならず社会全体に対する予防教育、相談および早期発見・早期介入体制の構築、治療体制の拡充などです。
さらに、過剰使用者に対する、例えばアクセス規制のような、何らかのメカニズムの導入も必要ではないでしょうか。

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