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「トランプ政権 2年目の行方」(視点・論点)

北海道大学大学院 准教授 渡辺 将人

アメリカのトランプ政権が2年目に入りました11月には連邦議会の下院のすべてと上院の3分の1が改選される、中間選挙を控えています。
この選挙の勝敗がトランプ政権の今後を左右すると言っても過言ではありません。
それは1つには、アメリカの大統領の立法権限が、かなり限られているからです。
とりわけ、保守とリベラルの分極化が激しい現在は、超党派の合意が築きにくく、大統領側の政党が多数派でないと、野心的な立法は困難です。

2期8年続いたオバマ政権も、大型景気刺激策や医療保険改革法いわゆるオバマケアなど、目玉の立法成果は、最初の2年間だけでした。
2010年の中間選挙で民主党が大敗し、法案を通すことができなくなったからです。
トランプ政権が立法成果を出し続けるには、議会両院で共和党多数の現在の地位を維持すること、そして、わずか2議席上回っているにすぎない上院の議席を伸ばす必要があります。
現状では、党内でごく少数の造反がでるだけで、法案が通らなくなるためです。実際、共和党は、トランプ政権の重要公約の1つであるオバマケアの代替法案で失敗を繰り返しています。もう1つは、民主党が議会で多数派を握ると、ロシアとの癒着疑惑、いわゆる「ロシアゲート」をめぐる大統領への弾劾の動きが本格化しかねないことです。

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さて、そうしたなか、肝心のトランプ大統領の支持率ですが、特徴的なのは、異例の低さです。就任1年目の支持率としては、戦後に調査が始まって以来、最も低い値となっています。1年目に50%に1度も届かなかった大統領はトランプ氏だけです。
30%から40%台を低空飛行しています。
ただ、トランプ氏の支持率には、もう1つ重要な特徴があります。
それは支持率の動きが小さく、おおむね一定だということです。
過去数十年の大統領の就任1年目と比べても、⑩ポイント程度の変動の幅におさまっているのは、トランプ氏だけです。
ロシア関連のスキャンダルが発生し、政権の高官が次々と辞任するなかでも支持率の乱高下は見られません。
党派的な分極化とは別に、エリート層と「既存の政治に反発するアウトサイダー」との、分断の広がりが、関係しています。
トランプ氏のコアな支持基盤は、政治と無縁だった人物がホワイトハウスにいること自体を評価している気配もあります。大統領選挙から1年のタイミングで行なわれた世論調査では、トランプ氏に投票した人の82%が同じようにトランプ氏にまた投票したいと回答しています。
それでは、中間選挙の行方はどうなるのでしょうか。大統領と共和党、そして民主党が、それぞれ個別の事情を抱えています。トランプ大統領は、この1年、共和党の伝統的な支持層を満足させることにも配慮してきました。これは弾劾への動きを牽制する上でも欠かせない課題でした。現時点、共和党内の主要なグループは大統領に一応の合格点を与えています。キリスト教保守派、とりわけ福音派キリスト教徒は保守系の最高裁判所の判事が承認されたことを高く評価しています。また、オバマケアの代替法案にトランプ政権が執着したことは、「小さな政府」を旨とする共和党内で、信任を得る効果がありました。
税制改革法の実現、そして好調な経済も追い風です。
一方、イスラム圏からの入国禁止措置、またパリ協定からの離脱表明など、選挙中の「トランプらしさ」を維持する振る舞いにより、支持基盤もつなぎ止めています。
たとえば、大統領就任の1周年にあたる今月20日の未明から、移民政策をめぐる与野党の対立で連邦政府が閉鎖される事態が発生しました。トランプ氏は指導力不足を問われる一方、メキシコ国境に「壁」を建設する費用の確保にこだわることで支持者へのアピールに余念がありません。
ただ、共和党主流派とトランプ大統領の距離感が実際に縮まっているわけではありません。
共和党のタウンミーティングや会合を訪れてみますと、トランプ氏のコアな支持者が参加している会合とそうでない会合とで、共和党の政治家による大統領に対する発言に、一定の温度差があることが分かります。ツイッターなどでの大統領の不用意な発言には共和党の地方幹部や主流派議員の多くも眉をしかめています。しかし、彼らは表では大統領を批判しません。トランプ支持者の反発を買い、予備選挙での落選運動に発展しかねないからです。
実際、2010年の中間選挙では、保守派のティーパーティ運動に、共和党穏健派の現職議員が攻撃されました。トランプ氏を党内で堂々と批判する議員の多くは再選の必要がない引退する予定の議員です。
では、対する民主党はどうでしょうか。
民主党は今後の方向性をめぐって党内が大きく割れています。
1つは、女性、LGBT、人種的なマイノリティなどを党の顔にした、多様性に寛容な「文化的にリベラルな路線」です。
そして、もう1つは、経済格差に焦点を絞り、白人労働者層を取り戻す路線です。
現時点で、民主党は1つ目の選択肢に大きく踏み出しています。
去年1月の就任式以来、2年連続で組織されている「反トランプ」のデモが、「労働者の行進」ではなく「女性の行進」であることは象徴的です。
この民主党の内部の分断に外からくさびを打ち込んでいるのがトランプ大統領です。
トランプ氏が共和党の大統領としては異例にも、保護貿易的で財政赤字を気にしない「大きな政府」の性格も兼ねる、ある意味で「ハイブリッド」な存在であることと関係しています。
例えば、TPP=環太平洋パートナーシップ協定からの離脱やNAFTA=北米自由貿易協定の再交渉の取り組みについては、民主党支持の労働者や、環境団体など反グローバリズムのリベラル派も、本音ではトランプ政権を評価しています。
通商や経済に有権者の関心を向ければ、トランプ批判の歯切れが悪くなりかねません。
また、トランプ政権が次の課題として掲げる大型のインフラ投資に関しても、労働者の利益を考えると民主党も総論では賛成で、攻めにくい問題があります。
そこで民主党は、消去法で、大統領の反不法移民や人種差別的な発言への攻撃に焦点を絞る戦略をとってきました。その結果、民主党は、政治的な正しさ=ポリティカルコレクトネスを重視する路線をいっそう強めています。しかし、これはクリントン陣営がおととしの選挙戦で選択し、失敗した路線でもあります。いわば、トランプ大統領には望む所です。
地域にもよりますが、アメリカの白人労働者は、文化的にはかなり保守的な傾向も少なくありません。民主党は文化的なリベラル路線と白人労働者票の取り戻しをどう両立するのか、大きなジレンマを抱えています。
皮肉なことに民主党内の分断が、トランプ氏に助け舟を出しているとも言えるのです。
中間選挙まであと⑩か月ほど。上院は民主党が2議席で逆転できる僅差ですが、今回改選対象の議席数が少ない共和党は守りに資源を集中できます。
一方、下院では、民主党の倍近くの30人以上の共和党議員が引退します。
下院の再選率は高く、現職が有利なことから、民主党には攻め所となります。
トランプ支持者のなかには、大統領個人を支持しているだけで、共和党には忠誠心が薄い有権者も珍しくありません。彼らの投票率がどこまで伸びるかは、未知数です。

また、地元の利益が投票行動に反映されがちな議会選挙で、民主党が「反トランプ」でどこまで有権者を束ねることができるのかも、課題となる見通しです。 

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