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「雪と氷の不思議」(視点・論点)

北海道立オホーツク流氷科学センター 所長 高橋 修平

今は冬真っ盛りで日本の約半分が雪に覆われています。
その雪や氷には不思議なことがたくさんあります。
また雪や氷を詳しく調べていくと、地球環境や宇宙のしくみを知ることにもつながります。
今日は、そんな雪と氷から広がる世界をお話します。

まず、氷の性質がよくわかる流氷から見ていきましょう。

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オホーツク海では毎年、流氷がやってきます。この写真では流氷が海を覆うように浮かんでいます。手前の氷は、打ち上げられた氷です。
このように氷が水に浮かぶのは当たり前のようにも思いますが、実は不思議なことなのです。

水銀など ほとんどの物質は液体が固体になる時に重くなって沈みます。
もし氷が水より重いとすると、海が凍った時に氷は海の底に沈みます。
そうすると冬には海の下にどんどん氷がたまり、夏になってもなかなか融けないことになります。実際には氷は水に浮くので、海にフタをすることになり、地球の冷えすぎを防ぎますし、暖まりすぎも防ぐことにもなります。

また氷や雪は自然界で最も滑りやすい物質です。
そのためにスキーやスケートが楽しまれています。
なぜ滑りやすいかは、圧力で融解する説や、摩擦で融解する説がありますが、詳細はまだ分かっていない部分があります。

氷は透明なのに雪が白いのはなぜ? という疑問を受けることがあります。

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この写真のように、手前のつららの氷は透明ですが、富士山の雪は白く見えます。
どちらも基本は氷なのに見え方が違うのは何故でしょうか?
それは、ガラスは透明なのに割って粉々にすると白く見えるのと同じ原理です。
1枚の透明な氷の反射はわずかですが、氷を割って小さい粒にすると、反射面積がたくさん増え、外から入った光は、内部で何回も反射し、色々な方向に出てくる散乱光となります。そのため雪はどこから見ても白く見えるのです。
降って来る雪をよく見ると、六角形の形をしていることがあります。
なぜ、雪は六角形の結晶になるのでしょうか?

氷結晶の分子構造模型があります。
水分子は酸素1個と水素2個が「くの字型」に結合しています。
小さいですが、これでも1億倍もあります。
水が氷になると水分子同士がくっつきあって六角形となります。
その六角形が網の目に結合し、その網目の層が何層も重なります。
横から見ると層がいくつも重なっていますが、縦から見ると六角の網目模様です。
氷結晶はこの六角網目が基本であるために六角形になります。

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小さい六角柱が縦に伸びると角柱結晶や針状結晶(しんじょうけっしょう)になり、横に伸びると角板結晶(かくばんけっしょう)や樹枝状結晶(じゅしじょうけっしょう)となります。途中で条件が変わると樹枝付角板(じゅしつきかくばん)になったりします。

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氷の小さな結晶が、雲の中で水蒸気をもらって雪に成長する段階で、温度や湿度の違いで色々な結晶になります。
雪の成長条件は北海道大学の故中谷宇吉郎先生が低温室実験で調べ、中谷ダイヤグラムとして表しました。

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例えば、0℃から-5℃の暖かい条件では、針状結晶となり、-15℃前後では樹枝状結晶となります。
その前後の-10℃や-20℃では角板結晶になり、-20℃より低い温度では角柱状結晶となります。

これらから、降って来る雪結晶を見るだけで上空の雲がどんな高さにあるかわかります。
中谷先生が「雪は天からの手紙である」と名言を残したゆえんです。

この雪の結晶は不思議な自然現象も起こします。

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この南極の写真では太陽の両側に明るい光の塊が見えます。幻日(げんじつ)という現象です。

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南極では気温-30℃以下なので、降って来る雪結晶は ほとんど六角の角柱結晶です。
小さい六角柱は空中では縦になってゆっくり降下します。
そのとき六角柱内部で光が屈折し、太陽の両側22度の位置に虹のように色づいた幻日が現れます。

南極の氷から地球環境を知ることが出来ます。
それは南極の氷山が、平たいテーブル型をしていることと関係があります。

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南極大陸は3000m以上の厚い氷である氷床(ひょうしょう)に覆われています。
氷床の内陸部では平均温度-50℃と寒く、降ってきた雪は融けることはありません。
それなら氷床は無限に厚くなりそうですが、そうはならないのは、積もった雪は圧縮されて氷となり、高い圧力で柔らかくなって氷河として流れて行くからです。
海に大きく張り出した氷は厚さ300mの棚氷となり、割れるとテーブル型氷山になります。

つまり、南極の氷は雪が圧縮されて固まったものなので、深いほど古い氷であり、氷を調べれば地球の環境変動がわかります。
より古い氷を得るためには氷床ドームの山頂が一番いい地点です。
そこで各国は、南極にいくつかあるドーム山頂部でボーリングを行っています。

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日本の南極観測隊もドームふじの山頂部に基地を建設し、2007年に3000mの掘削に成功しました。

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私はそれよりもっと前、1982年にみずほ基地という小さな基地で越冬をしました。
そのときの経験から、このドームふじ基地の設計をしました。
掘削された氷からは約70万年前までの地球の気温変化がわかり、氷期と間氷期の変化や含有ガス成分との対応など気候変動が復元できています。
他の南極基地やグリーンランドでも同じ観測傾向が出ていることから、この変化は地球全体に起きたことがわかり、 二酸化炭素規制など温暖化対策データの根拠になっています。

氷からは地球環境がわかるだけでなく、宇宙の太陽系惑星のでき方にも関係します。

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惑星は、太陽に近い順から水金地火木土天海と8つあります。
初めの火星までは小さいのですが、木星から急に大きくなります。
「その原因は氷にあります」というと、不思議に思われる方も多いかと思います。
その説明には惑星ができるときの話が必要です。

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まず、暗黒星雲にある宇宙のチリがはじまりです。
チリが引力により次第に集まって中心に原始太陽が誕生し、そのとき、太陽の周りのチリは皆、ガスになります。

やがて太陽の温度が下がると、一旦ガスになっていた物質が、また固体になります。
太陽の近くは高温なので鉱物が固体として現れ、遠い低温部分では鉱物のほかに氷も固体として現れます。

そのチリは万有引力で寄り集まって小さな微惑星がたくさんでき、それがまた合体して惑星ができました。
この時、太陽の近くの火星までの惑星は鉱物主体となり、木星より遠くの惑星は鉱物に氷が加わったため大きな星となりました。
また木星や土星では、重力が大きくなったため、さらに水素やヘリウムのガスも取り込んで、さらに大きくなったのです。
そのため、木星は直径が地球の11倍もあり、近い火星よりも明るく光っています。
氷はなぜ水に浮くのか? 雪はなぜ白いのか? 木星はなぜ大きいのか?
こんな身近な現象は、大人は当たり前に思いますが、子どもは意外に疑問に思ったりします。
その素朴な疑問には深い意味があったり、新しい発見につながったりします。
私たちも、身近にある現象に興味を持ち続けたいものです。

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