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「2020年までの経済を展望する」(視点・論点)

経済産業研究所 理事長 中島 厚志

世界経済は緩やかに成長しています。背景には主要国経済が揃って堅調であることや原油・資源価格が持ち直していることなどがありますが、国際通貨基金(IMF)は今年の世界経済成長率を3.7%と予測しています。これは、1980年以降の年平均成長率3.5%にほぼ並ぶ成長であり、2008年のリーマンショック以来長らく続いてきた世界経済の低迷は脱したと見ることができます。

主要国の景気を見ますと、アメリカ経済は、良好な雇用環境と企業業績そして低金利などに支えられて、消費・投資ともに堅調で株価も最高値を更新しています。中国経済も、成長率こそ6%台後半とかつてに比べれば下がっていますが、消費が堅調で中国政府が推進する輸出・投資中心の経済成長から内需・消費中心の経済成長への転換が進みつつあります。

日本経済も良好です。世界経済の回復と円安もあって輸出は伸びており、企業の設備投資も増えています。これに少子高齢化に伴う労働需給ひっ迫が加わって、大変緩やかではありますが、賃金が上昇し、消費も増える方向にあります。

以上が世界経済と日本経済の現状ですが、この良好な内外経済は今後2020年にかけても持続すると期待されます。アメリカでは、大規模な税制改革が実施されますが、経済成長率を今後数年にわたって年率で1%ほど上振れさせる効果があるとも計算されます。

中国経済も底堅い経済成長が見込まれます。政府と中央銀行が対応することで、懸念されている不動産価格の上昇や企業債務の増加に歯止めがかかっています。この対応が今後も継続されれば、経済と金融のバランスが改善してバブル懸念が薄れ、底堅い経済成長が持続することになります。

日本経済も今後良好な成長が続くと期待されます。今後とも少子高齢化が進むことは良いとは言えませんが、人手不足も背景とした賃金上昇と消費の伸びは続きそうです。また、人手不足と世界経済の回復持続を受けて、企業の設備投資も堅調に増えると期待されます。人工知能(AI)の時代を迎えていることも、新たな時代に合わせたIT等の投資増につながります。

もっとも、2020年にかけては、景気を下振れさせる要因があることも見ておかなければなりません。

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その一つは、世界経済の成長力が落ちてきていることです。図で示されているように、10年前のリーマンショック以降主要国の官民投資は伸びを減じており、企業の生産性上昇鈍化につながっています。このことは、企業収益の拡大が鈍くなって賃金上昇も緩やかになることでもあり、経済全体の成長率も低下することになります。

中国の一人っ子政策や途上国での衛生状態改善などで世界の人口増加率の伸びが鈍っていますが、これも消費の伸びの低下などを通じて世界経済の成長率を低下させています。

また、現状の1バレル60ドル前後の原油価格で石油輸出国機構(OPEC)加盟国全体の経常収支はかろうじて黒字ですので、原油価格が10ドル余り下落するだけでOPEC全体の経常収支は赤字となり、産油国の景気は厳しい状況に陥ります。途上国に資源国が多いことを勘案しますと、原油・資源価格の急落は途上国経済を大きく冷やすことになります。

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貿易摩擦が高まりやすいことも懸念材料です。図のように、近年世界貿易に占める途上国の割合は低下していますが、下げ止まってきています。これは途上国経済の成長にとってはプラスですが、世界経済の成長が限られると、先進国に雇用が奪われるとの不満が高まることになりかねません。

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日本経済の先行きにもリスクがあります。それは、現在の景気回復が従来以上に輸出に依存していることです。このことは、円高や世界経済に変調がありますと、いままで以上に日本の景気に悪影響を及ぼすことを意味しています。

また、企業の賃金と設備投資の増加が緩やかなことも不安材料です。人口減少で国内市場が拡大しにくく投資しづらいとしても、設備投資が増えなければ、企業の業績や生産性の向上が遅れて賃金上昇も限られることになります。

日本経済では、少子高齢化の進展で人手不足がさらに深刻化する事態も想定されます。2020年には、女性や高齢者を中心に労働に参加する割合が高まっても、人口減少が進むことで労働人口は増えないとの分析もあり、人手不足が経済成長の足かせになっていきます。それは、生産性を上げないと、製造業やサービスの現場で人手が足らず、廃業・閉店が増えたりサービスが低下したりすることに他なりません。

内外経済を取り巻くリスクを幾つかお伝えしましたが、今後については経済を上向きににする明るい材料もあります。それはAIやロボットなど技術革新の進展で世界に新たな時代が訪れる可能性です。

現在、AIや自動走行する車の話題が出てこない日はなく、急速な技術革新が起きています。世界での半導体やロボットなどのハイテク製品の売り上げを見ても、2016年後半以降急増しています。

新たな技術を活用したサービスも広がっています。中国では現金に依存しないスマートフォンでの決済が急速に普及していますし、自宅を旅行者に貸すなどシェアリングエコノミーと言われる新しい社会スタイルやビジネスモデルが私たちの生活を変えつつあります。

まだ、技術革新を支える研究開発やソフトウェアといった知的財産の投資が従来以上に伸びていませんので、新たな産業革命が本格化したとは言い切れませんが、大きな技術革新とそれが新たな生活スタイルや文化スタイルを生み出すプロセスイノベーションとも言われる動きは確実に強まっており、今後さらに強まるとも見られます。

ITやAIの進歩には雇用を奪う面もありますが、いままでにない製品やサービスの登場は全く新しい需要と雇用を大きく生んで、世界経済の成長を高めることにもつながります。そして、世界経済の成長が高まれば、各国間の経済摩擦や保護主義などパイの取り合いで生まれる問題は弱まると期待されます。

このような技術革新とプロセスイノベーションは、とりわけ少子高齢化で需要が伸び悩む日本経済が成長していくためには不可欠です。日本の労働需給がひっ迫していて、AIによる雇用喪失の悪影響が相対的に少ないと見られるのも新しい技術の取り込みには好都合です。

今、世界経済では、アメリカ発の金融バブル崩壊の傷が癒えて成長が戻ってきました。しかし、高成長には至っておらず下振れリスクも存在します。

その中で、2020年に向けて良好な内外経済を持続させるには、マイナスのリスクを小さくしつつプラスの可能性を高める政策対応がポイントとなります。とりわけ、今後いかに技術革新とプロセスイノベーションを促進して新たな成長の時代を迎えるかが内外経済飛躍のカギであり、私達はいま大きな挑戦とチャンスに直面していると言えます。

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