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「食物アレルギー治療のいま」(視点・論点)

世界アレルギー機構 常務理事 海老澤 元宏

 近年、乳幼児を中心に食物アレルギーの患者さんが非常に増えて社会問題となっています。1966年に石坂公成博士がアメリカでアレルギーを起こすもとになるIgE抗体という物質を発見し、それからアレルギーのメカニズムの解明が進みました。IgE抗体と原因物質のアレルゲンが結びつくと、体にあるマスト細胞と呼ばれる細胞からヒスタミンやロイコトリエンという物質が出てきてじんましんが誘発され、皮膚がかゆくなったり、急に鼻水が出たり、息がしにくくなったりします。体のさまざまなところで一度に症状が出てくることをアナフィラキシーと呼びます。

アレルギーを起こすにはいくつか条件があり、IgE抗体が人の体の中で作られるかどうかということが第一です。次の条件としては、原因物質が体の中に入ってきて、IgE抗体と巡り会って、細胞が刺激され活性化するかどうかということです。IgE抗体は人の体の中で作られますが、卵のタンパク質や、牛乳のタンパク質に対してIgE抗体が作られてしまうことによって食物アレルギーも起こります。食物アレルギーは1960年位にはほとんどありませんでしたが、1980年代位から日本でも食物アレルギーが増え始め、この30年の間に一気に増えてきたと推定されています。
横浜市にある病院で食物アレルギーの研究的治療として経口免疫療法を受けていた子どもが、原因食物の牛乳を摂取後に一時、呼吸停止になるなどの重いアレルギー症状が出たことが先月、明らかになりました。こどものアレルギーに関する専門の医師で構成される日本小児アレルギー学会が全国300余りの食物経口負荷試験を行っている医療機関を対象行った調査では、食物アレルギーの検査や治療に関連していままでに少なくとも9人の子どもが、自力で呼吸が難しくなるなど、重い症状を起こしていたことが判明しました。食物経口負荷試験といって疑わしい、あるいは原因となる食べ物を少しずつ摂取してアレルギーの診断を行う検査では5人、アレルギーの原因となる食べ物を症状が誘発されない量から少しずつ食べる経口免疫療法では4人に重い症状が出ていました。
経口免疫療法は最近10年間くらいで100余りの日本国内の専門医療機関で臨床研究として行われていますので、現在の食物アレルギーに対する治療の状況に関して解説したいと思います。

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まず調査の概要ですが、対象は日本小児科学会で専門医を育成する研修指導施設のうち食物経口負荷試験を行っている施設を対象としました。調査期間は2017年10月19日から11月13日で、重篤なアレルギー症状として、気管の中に管を入れて行うような呼吸管理、集中治療室での管理を必要とした事例、低酸素脳症などの重篤な事例を対象としています。344施設に対して調査を行いました。

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286施設と情報公開されている1施設の合計287施設のうち、5.6パーセントにあたる16施設から18症例の報告がありました。

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発生状況としては誤食が8例(44.4パーセント)、食物経口負荷試験中が5例(27.8パーセント)経口免疫療法関連4例(22.2パーセント)、不明1例(5.6パーセント)でした。原因抗原としては牛乳が最多の8例(44.4パーセント)、鶏卵4例(22.2パーセント)、小麦2例(11.1パーセント)、大豆、ピーナッツ、カシューナッツ、エビがそれぞれ1例ずつでありました。後遺症を残した症例は3例(16.7パーセント)で、今回の神奈川の病院での経口免疫療法以外の2例はいずれも誤食が原因でした。全体の18例の症例のうち医療行為に関連した症例が9例(50パーセント)を占めていたので、より安全性を求めていくことが重要であると今回の結果を受け止めています。詳細な二次調査を予定しており発生状況等に関して十分検証し食物経口負荷試験や経口免疫療法の安全性を高めていくつもりでおります。

次に最新の食物アレルギーの管理に関してお話をしたいと思います。食物アレルギーの診断は、食物を摂取して症状が出た際の話を詳しくお聞きすることに加えて、血液検査や皮膚テストでIgE抗体を検出することによって通常行われます。しかし、IgE抗体の検出だけでは食物アレルギーの診断はできません。さまざまな理由で食物に対するIgE抗体が陽性になることがあるからです。最終的には先程お話しした食物経口負荷試験により確定診断を行います。
乳幼児期に発症した食物アレルギーの8割から9割は小学校入学までに自然に良くなっていきますので、食べられるようになってくることを、タイミングを逃さずに指導する上でも、食物経口負荷試験が重要になっていきます。
食物経口負荷試験が陰性であった場合は、負荷試験での総負荷量を超えない範囲で自宅において繰り返し摂取させて安全性を確認します。食物経口負荷試験が陽性であった場合は、出現した症状の重症度と摂取量を加味して、完全に食べないようにする、もしくは一定量まで食べるように指導します。乳幼児の多くは経過とともに食べられる量が増えていきますので、治っていくことが期待できます。日常生活における摂取量を十分にお聞きして安全に摂取できる原因食物の量、その再現性を評価し、必要に応じて食物経口負荷試験を行いながら摂取可能な量を指導します。食物経口負荷試験後に食べられる範囲を指導していくことを食事指導と呼んでいます。
 食事指導は食物経口負荷試験結果に基づいて食べられる範囲内で進めていく食物アレルギーの管理であるのに対して、経口免疫療法とは先程簡単に説明しましたが、毎日あるいは定期的に原因食物を摂取することで食物経口負荷試験結果に基づいた食べられる範囲を超えて積極的に食べていくことを意味します。とても不思議な現象ですが、食物以外にもアレルゲン免疫療法としてスギ花粉やダニ対しても注射や舌下投与によって体に原因物質を入れていくことで体の反応を鈍くしていくことが保険診療内の治療として行われています。

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ガイドラインでは「自然経過では早期に自然に治っていくことが期待できない症例に対して、事前に食物経口負荷試験で症状が誘発される量を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで経口摂取させ、食べられる量を増やしていくまたは食べていれば無症状な状態を維持した上で、究極的には治すことを目指す治療法」を経口免疫療法と定義しました。
経口免疫療法は日常的に食物経口負荷試験を実施し、症状誘発時の対応が十分に行える医師が、症状出現時の救急対応に万全を期した上で、臨床研究として慎重に施行すべきです。また、治療の過程でアレルギー症状の誘発を多くの症例に認め、予期せずにアナフィラキシーを含む重篤な症状を起こすことがあります。毎日食べていると症状が出なくなり、治ってしまったのではと勘違いされる患者さんや保護者の方もおられます。しかし、患者さんの一部では治療を中断すると症状が誘発される量がすぐに元に戻ってしまうことや摂取後の運動、体調不良つまり感冒、胃腸炎、ぜんそく合併例では、ぜんそく発作などにより症状が誘発されることがあるので注意が必要です。
食物アレルギーでは誤食により重篤なアレルギー症状が起こりえますが、食物経口負荷試験後の食事指導や経口免疫療法でそのようなことを防げるようになってきています。今後さらに安全な方法に改善していきたいと思います。

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