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「『サイレントチェンジ』被害を防ぐために」(視点・論点)

明治大学 名誉教授 向殿 政男

きょうは、サイレントチェンジの話をしようと思います。最近、この言葉、聞くことがあるかと思いますが、そもそもサイレントチェンジとはどんなことなのでしょうか?サイレントチェンジとは、製造メーカが知らない間に部品や素材を発注している二次や三次サプライヤーなどの取引先の企業により、許可なく、いつの間にか、静かに、材料の組成や材質などが変えられてしまうことです。それが事故につながるから恐ろしいのです。このようなことは昔から外国に部品や素材を発注した場合には多少あったのですが、最近、大規模に発生する恐れが出てきたのです。 これは、サプライチェーンのグロ-バル化に基づく新たなリスクの発生といえます。このへんの事情について説明します。

サイレントチェンジが原因の事故例を紹介しましょう。

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図はサイレントチェンジにより、靴底のゴムが知らない間に樹脂に変えられていた例です。本来の仕様はゴムの靴底であり、弾性があって摩擦力があって滑りにくい素材でした。ところが知らない間に靴底が塩化ビニール樹脂に変えられていたのです。色と形はほとんど同じでしたが、摩擦力がほとんどないため滑りやすく、転倒事故を起こしてしまったのです。

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こちらの図は、ACアダプターの電源コードの被覆が破れてショートした事故の例です。元々は折り曲げなどに強い性能を向上させるために難燃剤として高価な臭素系の材料を使用していたのですが、原価を下げるために知らない間に、安価な赤リンに置き換えられていたのです。劣化が早く起こり、ショートが発生したものです。この例では、図の左側に示していますように、日本のある通信サービス会社がこの製品を海外のセットメーカーから購入していました。その海外セットメーカーはアダプターを台湾のACアダプターメーカーから購入していました。そのACアダプターメーカーは部品を中国の電極部品メーカーから購入していました。その電極部品メーカーは材料として同じ中国の樹脂材料メーカーのものを使っていました。この時、最後の中国の樹脂材料メーカーがサイレントチェンジをしたのです。このように、奥深いので、なかなか分からないし、原因を追究するのが難しいのです。
なぜ、サイレントチェンジが起きるのかというと、サプライチェーンのグローバル化が関与しています。また、部品の共通化や標準化も原因の一つと考えられます。 リーマンショック以降、わが国は安い部品を求めて海外に発注するようになりました。中国等が実力をつけて、色々な部品を作るようになったのです。

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こちらの図でサイレントチェンジが発生する事情をみてみましょう。例えば、製造メーカーが一次サプライヤーである部品メーカーから部品を調達し、部品メーカーは二次サプライヤーである材料メーカーから材料を調達し、二次サプライヤーは原料を三次サプライヤーから調達しているとしましょう。この時、最終の三次サプライヤーはコスト減等のために、製造メーカーや部品メーカーも知らない間に黙って原料を変えてしまうのです。まず、なぜ、三次サプライヤーの原材料メーカーは、サイレントチェンジしてしまったのでしょうか。その理由は、製造メーカーや一次サプライヤー等の買い手が過剰なコストダウンを要請した場合が考えられます。中には、原材料メーカーが、もっと多くの利益を得たいとして実行することも考えられます。また、規制がかかってその材料が使えなり、変える場合もあります。この場合、逆に変えなければ規制違反になる恐れがあります。中には、より良い性能の材料に善意で変える場合もありえます。しかし、性能が良くても、早く劣化してしまうこともあるのです。
サイレントチェンジは何が恐ろしいのでしょうか?主に、劣化が原因で事故が発生するので、しばらくたつまで事故は発生しないからです。潜在しているので、長い間分からないのです。そして、起きると一斉に起きます。したがって、数多く、広く使われ、時間が経っているので、リコール等の対応が大変なことになるからです。二次、三次の下請けがサイレントチェンジをやったとしても、消費者に対する最終的な責任はトップの製造メーカにありますので、事故が起きると損害賠償金を払う羽目になります 下請けに、契約違反で賠償を求めても、製造メーカーのブランドに大きく傷がつくことになります。
部品の共通化や標準化も原因の一つと言いましたが、多くの製造メーカーに同じ部品メーカーから部品が提供されている場合があるので、各社で同時に起こりうるのです。

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こちらの図で一次サプライヤーの部品メーカーが製造業Aと製造業Bの両方に納めていたとすると、その部品メーカーに納めている原材料メーカーがサイレントチェンジをすると、製造業Aも製造業Bも被害を受けることになります。また、製造メーカーAがコストダウンを要求して、それが部品メーカー、材料メーカーを通じて原料メーカーへのコストダウン要求につながって安価な材料に変更した場合、製造メーカーAには影響のない変更でも、性能ぎりぎりに使っていた製造メーカーBには事故につながることがあるのです。製造メーカーBは事故が起きない場合でも、安価な材料を使った悪い品に対して以前と同じ高い代金を支払わせられることにもなります。
サイレントチェンジに対してどう対応すべきでしょうか?

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発注時、仕様書に材料等の仕様を明確に記すこと、そして、材料等の変更には、たとえ性能を満たしていても、事前に必ず連絡して承認を得ること、など契約書に明記することが重要です。そして、いくら信頼できる相手先であっても、定期的な監査や製品そのものの継続的なサンプリング検査などを実施するのが対策でしょう。定期的な抜き取り検査をしたり、継続的なモニタリングをするのは、異常の早期発見 、相手への心理的な抑止力になるので有効な方法です。どのような材質が入っているかのチェックには、質量分析装置などが効力を発揮します。また、なぜ、この部材を使うのかを事前に説明しておくことも有効でしょう。
私は、次のような対応が望ましいと考えています。まず、サイレントチェンジされてしまった後に発見するよりも、変えさせないという未然防止の方がはるかに重要です。本来の未然防止のためには、わが国の昔の下請けの系列化のように、サプライチェーン全体での信頼関係を構築して、安全教育や人材育成も含めて同じ安全文化を共同で共有する組織にすることが必要です。サプライチェーン全体で、安全に関しては、守るべきルールは愚直に守る文化を徹底し、地道に信頼関係を築くことが、結局は、早道のように思えます。そして、安全には金がかかることを理解して、リスクの高い素材や部品に対してはしっかりと金をかけ、信頼できる企業に依頼することが重要です。
サプライチェーンのグローバル化に伴って増大するサイレントチェンジのリスクについて、早急に対応すべき時が来ています。

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