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「パイロット不足の現状と対策」(視点・論点)

航空評論家 小林宏之

今、日本内外を問わず、航空需要の高まりに比例してパイロットの需要が高まっています。しかし、供給が十分に追い付いていなのが現状です。公共交通機関としての航空会社のパイロット不足は社会問題ともなっています。
11月にはエア・ドゥが2名の機長の退職により34便が欠航し、来年2月には26便が欠航することになりました。2014年にはLCC・格安航空会社のピーチアビエーションとバニラエアで、機長不足から大量の欠航が発生しました。
今日はパイロット不足の現状とその対策についてお話をします。

世界的にパイロットが不足しているその主な背景としては、LCCの台頭、経済発展に伴う航空需要の伸び、飛行機の小型化・多頻度化等により、パロットの需要が増大しているのにも拘らず、供給が追い付かない状況が続いております。今後も逼迫した需給関係が続くことが予想されます。

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ICAO・国際民間航空機関の予測によりますと、2030年には、世界全体では現在の 2倍、特にアジア太平洋地域においては、4.5倍のパイロットが必要とされことが見込まれています。
我が国では現在新規パイロットの需要数は、年間250~300名ですが、2030年頃には350~400名と予想されています。

我が国の主要航空会社におけるパイロットの年齢構成は40代に分布が偏っており、全体の40数パーセントを占めています。2030年頃には、これらのパイロットが大量に退職を迎えます。新たなパイロットが安定的に供給されなければ、大手航空会社を含めて、中長期的に深刻なパイロット不足となる可能性があります。

LCCに眼をむけると、更に深刻な状況が数年以内に差し迫って来ます。LCCの機長の30%以上が60歳以上となっており、数年以内に退職を迎えます。
LCCでは運航を維持するための機長数は必要最小限に配置しているために、病気や航空身体検査基準を満たさない場合、あるは他社に再就職した場合、欠航が生じてしまう可能性があります。LCCの場合は、いかに機長の数を確保するかが至近の課題でもあります。

航空会社のパイロットとなるためには、長い期間の訓練と多額の費用を要します。
先ず、養成機関において2年~2年半程度の基礎的な教育・訓練を受けて、基本的な技能証明を取得します。そして1年半程度の実務的な訓練を経て、機材毎の型式限定技能証明を取得します。その後、更に半年~1年の路線での訓練と審査を受けて、ようやく副操縦士として乗務できることになります。

副操縦士として、大手航空会社では約10年程度、新規航空会社やLCCでは数年の乗務経験を積んだ後、機長として乗務できる技能証明を取得し路線での審査を受けてはじめて  機長として乗務できるのです。

では、パイロット不足の対策として、どのようなことが実施、検討されているかをみてみたいと思います。まず、短期的なパイロット不足問題を乗り越えるための対策として、即戦力となるパイロットの供給源の活用があります。主な活用案は3つです。

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外国人パイロットの活用
自衛隊パイロットの民間における活用
健康管理向上等による現役パイロットの有効活用
です。
外国人パイロットの活用については、在留資格要件のうち、1000時間以上の飛行経歴が必要であったものを250時間に緩和しました。その他に外国のライセンスを日本のライセンスに書き換える手続きの簡素化により、外国人パイロットを活用しやすくなりました。

自衛隊パイロットの民間における活用については、割愛という形で2014年から再開しております。 

現役パイロットの有効活用については、パイロットの年齢制限を65歳未満から、医学適性と技量の両面からの検討結果を踏まえ、一定の条件を付したうえで68歳未満に行き上げました。

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今後増大する需要に対しては、中長期的には若手のパイロットの供給拡大が課題となります。パイロットの供給源として諸外国では軍が大きな役割を果たしています。しかし、我が国では自衛隊から民間航空会社への活用は僅か6%程度です。
しかも、欧米と比べて、民間の養成機関からの供給数が十分ではありません。いかにして民間の養成機関のすそ野を広げるか、対策が必要となっています。
民間の養成機関によるパイロットの供給数を増やしてゆく対策としては、主に3つが考えられます。
まず、自社養成の促進です。
自社養成というのは、パイロットのライセンスを保持していない若い人を採用して基礎課程から副操縦士になるまで、航空会社が独自に養成するシステムです。このシステムにおいて、航空会社が柔軟に訓練・審査プログラムを策定することが可能な制度を導入し養成を促進します。
自社養成の課題としては、採用から副操縦士になるまで、ひとりあたり数千万円の費用がかかります。大手など資金的に余裕のある航空会社に限られます。しかも、その時の航空会社の経営環境によって、採用人数が左右されやすく、 場合によっては、自社養成の採用がゼロということもありえます。
次に、航空大学校のさらなる活用です。
安定的供給源として、定員を、現在の72名から2018年度度には108名に増員します。それとともに、私立大学への技術支援などにより、民間の養成機関の供給能力拡充に 寄与することを目指します。しかし、安定的な供給源とはいえ、定員増は40数名程度で、今後の 大幅な需要増を満たすには至りません。
そこで、私立大学等の民間の養成機関の供給能力の拡充、が期待されています。
ここで課題となるのが、訓練費等を含めた高額な学費負担と民間養成機関における技量レベルの向上の二つです。
パイロットに向けての熱意、資質があっても、高額な学費を負担することができない学生のために、すでに2015年度から日本航空がパイロット奨学給付金制度を創立しました。そして2018年度にはパイロット養成課程のある桜美林大学など6つの養成機関と航空会社が協力して一般社団法人を設立し、パイロットを目指す学生に1人あたり500万円を貸与する無利子奨学金制度を創設することになりました。
技量レベルの向上策については、航空機操縦士養成連絡協議会において、民間養成機関と 航空会社間で訓練内容の共有や、航空会社に就職後の技量に関するフィードバックを行うなど、課題別のワーキンググループを設置して、技量の向上を目指しています。

増大する航空需要に対応したパイロットを養成する対策は、利用者にとっても、今後の日本の経済・社会・文化の発展にとっても影響のある重要な課題です。しかも、公共交通機関として、安全確保という最重要課題があります。逼迫するパイロット不足の対策は、パイロットの数だけではなく、質についても慎重に検討を加えつつ推進してゆくことが求められます。

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